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参院選の公示まであと10日。各党の公約や政策も形を成してきました。そうした中、政府与党は飲食・宿泊業に厚生年金拡大について25年法改正を目指すことを公表。中小事業者で厚生年金を導入すると人件費は大きく膨張し経営を圧迫。特に小規模飲食店のような自由な発想で新しい価値観に挑戦しようとする事業形態では、抜本的な経営体制の見直しを迫られます。

(参考)飲食、宿泊業に厚生年金拡大検討 25年法改正目指す、経営反発も ― 東京新聞

(関連拙稿)岸田政権も維新もビミョ〜な件、結局、国民の負担増ばかりの「最低所得保障」政策 – SAKISIRU

全国一律から地域独自の挑戦へ

一方衆院選で大幅に議席を伸ばし名実ともに「第三極」となった日本維新の会は「ないなら増税 VS 成長できる減税」の選挙公約で注目を集めたのも束の間、今年1月には社会保障改革財源として金融資産課税の検討を開始すると宣言。昨年末の岸田ショックを想起させ批判が集まりました。

これまで「小さな政府」を重視する人たちから、国政維新が支持を集めてきたのは、大阪府・大阪市の与党としての維新は市営地下鉄や天王寺公園運営の民営化政策や塾代バウチャーなど独自の自由化政策で財政再建と福祉政策を同時に達成してきた実績があったからです。一方の国政維新の次期衆議院選挙の主要政策である出産費用の保険適応やベーシックインカムなどはいずれも新たな財源を必要とする政策で、国民負担に対する一貫性に欠けます。

そうであれば政府が全国一律に補助額を決定する中央集権的な改革案よりも、地域独自の挑戦をさらに発展拡大させる足掛かりとして社会保障の地方分権大幅推進を掲げれば良いのではないでしょうか。

日本維新の会「参議院議員選挙2022」マニフェストより

安全保障は国家の、社会保障は地方自治体の、という役割分担は、イギリスやスウェーデン等欧州先進国で社会保障費の膨張克服のために採用されてきた施策です。

地域によって公助が必要な課題と背景は異なるため、地方自治体ごとに異なるサービス内容・予算配分を実施するほうが効率的。実際出産にかかる費用が補助金で大幅に不足するのは都市圏のみの問題で、最低生活費も地域によって金額が違います。

これまでの社会保障案のように国単位一律の制度で解決を図ると、地域によっては自助・共助が十分に機能している分野ついても公助に頼るようになり社会保障費の膨張は際限が無しに。この問題を解決するために日本でも2000年以降、医療介護の地方分権は進んできました。

今般の新型コロナウィルス問題においても東京都墨田区が検査拡大と病床確保で先手を打ち、大阪府が早期に軽症者受け入れ宿泊療養施設を充実させ成否はさておき当初評価されたのは、地方分権政策で医療福祉分野の裁量権委譲が進んできたからです。

このような地域による施策の違いは「隣街にある行政サービスが自分の地域にはない」「他所より保険料が高い」といった不平等を批判する声が高まりがちですが、そういった突き上げも含めて地域ごとの創意工夫・切磋琢磨を促進すると考えれば良いでしょう。

全国地方厚生(支)局の管轄地域

関東信越厚生局サイトより

地方分権に逆行する岸田政権

しかし地方分権を進める上で前提となる財源・権限の委譲は十分とは言えません。例えば地域経済圏ごとに年金医療費を最終的に調整している地方厚生局は「消えた年金」問題で解体された社会保険庁をルーツに持つ官僚組織。ここに地域住民のチェックや意向を反映させる仕組みはなく、住民が選出した地域代表が関与を強められる行政改革が国政の場では求められます。

また既に地方自治体に裁量権移譲が進んでいる介護保険・国民健康保険はともに赤字部門。現役労働者が多く加入する被用者保険など黒字部門は国の管轄に残したままです。

地方行政に押し付けた赤字は、我々が収めた被用者保険料と消費税で補填されます。国はその差配をする過程で間接的に地域の医療政策を統制。このようなおいしいとこ取りをし、中央集権的な仕組みを強く残したままでは地方行政の自立性は育まれません。

日本の医療保険制度について (mhlw.go.jp)

岸田政権が推進する勤労者皆保険制度案(厚生年金・被用者保険の拡大)は市場への負担増となるだけでなく、地方自治体の財源と裁量権を縮小させ地方分権に逆行します。

日本維新の会が第三極政党として与党との対立軸を明確にするならば地方自治体への社会保障の一元化を掲げ地域の独自の社会保障制度で若者の貧困対策や社会保険料適正化を果たすことを公約とすべきです。これは結党以来の党是とも合致し一貫性のある主張となります。

国政維新がこれまで掲げてきた社会保障の抜本改革は、医師会や当事者団体などステークホルダーの規模が大きすぎて容易に進めることはできません。社会保障の地方分権化ならば地域特性に合わせた選択と集中が可能になるだけではなく、社会保障費の支払者と受益者の関係を明確化することで改革の合意形成がしやすくなります。こういった歳出拡大と縮小のパワーバランスを重視する考えを公共選択論といいます。

これまで社会保障の地方分権に難色を示し停滞させてきたのは全国知事会。大阪府が社会保障の主役となる覚悟を決めるならば、地方分権政策を一気に推進させる強力なエンジンとなり得るでしょう。

(関連拙稿)