日本最大の電力消費地である東京都で、この夏の電力需給を不安視する声が日に日に高まっている。そうした中、今週の東京都議会では、元テレビ朝日アナウンサーで自民党所属の川松真一朗都議が8日、小池知事に対する一般質問で、原発再稼働の可能性を含めたエネルギーの安定供給に対する認識をただす一幕があった。
川松都議「都のエネルギー戦略に原発は含まれるか」
川松議員は「今年の夏、さらには冬における電力需給については相当厳しいという見通しが示されるなど、今後、エネルギーに関してこれまでとは違った視点で捉えていく必要がある。首都圏の電力需給の問題は都民および都内事業者の生活・業務に直結する」と指摘したうえで、次のように質問した。
先日開催された知事と経済団体とのオンライン会議の場において、経済団体から安全性を確保したうえでの原発再稼働についての言及があった。これに小池知事は完全に“スルー”された。エネルギーの安定供給に向け、各所から原発再稼働を求める声が聞こえてくる。知事が示すエネルギー戦略には、原発再稼働の可能性が含まれるのか、それとも一切含まれないのかという前提が不透明だ。
この質問に対して小池知事は、「原発の運転の可否については最終的には国の判断によるが、まずは地元の理解が得られることが何より大事だ」とだけ答えた後、持論を展開。「厳しいエネルギー情勢を踏まえて、これまで以上に消費電力を減らす、創る、溜める、そのための省エネ、再エネの取り組みを一層加速させていく」と述べた。
記者会見でも原発“スルー”の末に…
「エネルギー戦略に原発が含まれるのか、含まれないのか」を聞いた、川松議員の質問に一切答えていないが、翌9日に行われた定例記者会見でも同様だった。小池知事は、この夏に予想される電力需給のひっ迫への対策について次のように述べた。
「都民の皆様には改めて、『HTT』の取り組みをお願いしたい。Hは『減らす』Tは『創る』もうひとつのTは『溜める』。この頭文字を取って『HTT』という言葉にしている」と“言葉遊び”も交えて都民に我慢のお願いに終始。そして東京都が独自に定めた、高い省エネ性能を有する家電製品などを取り入れた新築住宅「東京ゼロエミ住宅」のPRを始めた。
東京都、というより小池知事は「東京ゼロエミ住宅」の普及に力を入れている。現在、新築時に最大210万円、さらに太陽光発電設備を蓄電池の設置で120万円。合わせて最大330万円の補助金を支給する補正予算案を都議会に提出しているという。
効果不透明な「東京ゼロエミ住宅」
しかし、現在、心配されているのはこの夏、そして冬、電力が安定して供給されるかどうかだ。新築住宅の着工から引き渡しまで、どんなに短くても2か月はかかる。それに、都内で一戸建てを建てられる人は都民のうちいったい何割いるのか。将来的な効果はともかくとして、今、「東京ゼロエミ住宅」の普及に力を入れたところで、どれだけの効果があるのだろうか。
記者会見で時事通信の記者から、政府の関係閣僚会合で7年ぶりに節電の要請が示されたことの受け止めを問われた時も、小池知事は「1人ひとり、家庭ごとの対策の積み重ねが全体の電力消費を決める。1人ひとりが自分事として協力いただきたい」と述べるのみ。
結局、川松氏の質問を受けて初めての定例知事記者会見でも、目の前に迫っている電力需給ひっ迫への具体的な対策は何一つ示されなかった。環境相時代の「クールビズ」ばりに「HTT」を流行らそうと躍起になるのは勝手だが、東京都は東京電力の株主比率で1%余を有する「大株主」。エネルギーの安定供給を担う責任を全うしていると感じる東京都民はどれほどいるのだろうか。
今年の夏、さらに冬。東京都民は、ただただ我慢するしかないのか。