スズキは2022年5月11日の2021年度連結決算発表会で、グローバル販売は好調なものの、日本市場で約20万台、インド市場で約30万台のバックオーダーを抱えていることを明かした。
その主な要因はコロナ禍による部品調達の遅れや、生産工場の停止などが挙げられている。ただでさえ、ジムニーが大量のバックオーダーを抱えている状態で、さらに他車種まで多くのバックオーダーを抱える状態は健全な状態とは言えないのではないだろうか。
しかしバックオーダーを抱えているのはスズキだけではない。現在、すべての国産メーカーがこの問題に直面している。今回は長期化するバックオーダー問題について迫っていきたい。
文/渡辺陽一郎
写真/TOYOTA、SUZUKI、HONDA
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■新型コロナは落ち着くも重なるマイナス要因 各社が直面する現状
新型コロナウイルスの影響は、日本国内では落ち着いてきたように感じられるが、海外では収まっていない。ロシアのウクライナ侵攻も加わり、海外の材料やパーツの輸入が滞っている。
報道では「半導体の不足」としているが、メーカーの開発者や商品企画担当者は「ワイヤーハーネスや塗料なども含めて、いろいろな供給が滞っている」と指摘する。
その結果、納期は大幅に遅延して、直近となる2022年5月の国内販売状況は、前年の5月に比べて18.1%減った。速報値では26万1433台だ。前年もコロナ禍で減っていたから、影響を受ける前の2019年5月に比べると、34%の大幅な減少になる。
2022年5月の国内販売状況をメーカー別に見ると、マツダは前年に比べて37%少ない。スバルは25%、トヨタ、ホンダ、ダイハツも20~21%のマイナスだ。
この状況についてトヨタの販売店に尋ねると、以下のように返答された。「パーツの供給が滞る前は、契約してから納車されるまでの期間が1カ月から1カ月半であった。それが今は3カ月なら短い部類に入る。
売れ筋のノア&ヴォクシー、アクア、ヤリスクロスなどは、すべて6カ月以上だ。つまり現時点(2022年6月上旬)で注文をいただいても、年内に納車できない場合もある」。
さらに受注を中止している車種も多いという。「シエンタ、クラウン、プリウスはフルモデルチェンジが予定され、すでに受注を中止している。
プリウスが一新されるのは年末だから、本来ならまだ現行型を販売しているが、今の納期は半年以上と長い。そうなると6月上旬には、次期型を契約せねばならないが、その準備はできていない。そこで受注を中止した。マイナーチェンジも含めると、今は約10車種の受注が止まっている」。
トヨタは車種数、販売台数ともに多いから、納期の遅延や受注の中止も目立つが、他社の状況も同様だ。
ホンダの販売店では以下のように説明した。「ヴェゼルは以前から納期が半年から1年と長く、特にPLaYは遅延が著しいためにメーカーへの発注を停止した。フリードハイブリッドも約半年を要する。軽自動車は、以前は約3カ月に収まったが、今はN-BOXが延びて半年近くに達した」。
■ユーザーにとって一大決心の買い物であるクルマ! 大量バックオーダーで見直しを迫られるメーカー各社
スズキの2022年5月における国内販売台数は、前年と比べて12.5%の減少だ。内訳は軽自動車が約13%、小型/普通車が約11%減ったが、他社に比べると落ち込みが少ない。
それでも販売店に直近の納期を尋ねると、以下のように返答された。
「軽自動車は、以前は小型車に比べて納期が短かったが、最近は延びている。ワゴンRや軽商用バンのエブリイが4カ月、スペーシアは約6カ月だ。またジムニーは、発売直後に比べると増産をしているが、納期は1年から1年半で縮まらない。生産台数が増えるほど、お客様からの注文も活発に入ってくる」。
ジムニーが発売された2018年の1カ月の届け出台数は、1800台前後で推移していた。それが2022年の1~4月には、コロナ禍の影響を受けながらも、1カ月平均で約3800台が届け出されている。
個性的な悪路向けのSUVだが、N-WGNと同程度の売れ行きだ。日本仕様の生産台数は、発売直後に比べると2倍に増やしたが、納期はいっこうに縮まらない。
そしてほかのメーカーと同様、スズキも受注をした後で納車を待つ台数が多く、国内市場は約20万台、海外は30万台といわれる。合計すれば50万台だ。スズキの2021年度(2021年4月から2022年3月)の世界販売台数は約270万台だから、その20%近くを受注済みの台数として抱えている。
今の納期遅延は、原材料や半導体などの不足、即ち新型コロナウイルスの影響で生じるとされるが、実際には生産計画も絡む。その典型がジムニーで、コロナ禍前の2018年から遅延していた。
2018年にジムニーを発売した時の国内販売目標は、1年間に1万5000台/1カ月平均なら1250台であった。
そしてジムニーの届け出台数は、フルモデルチェンジを受ける直前の2017年でも、1カ月平均で1124台に達していた。ジムニーは10年ぶりのフルモデルチェンジだから、待っていたユーザーも多い。その目標が先代型のモデル末期と大差ない1カ月平均1250台では、受注に生産が追い付かなくて当然だ。
ランドクルーザーも納期が長い。販売店によると「今でも4年以上」とされ、これも新型コロナウイルスの影響だけではない。
開発者は「ランドクルーザーは中東地域を中心に販売され、日本に割り当てられる台数は生産総数の10%以下」という。新型コロナウイルスの問題が発生しなくても、納期は相当に延びていた。
ヴェゼルも同様で、開発者は「受注台数が予想以上に多く、生産が追い付かない」という。ちなみにヴェゼルが2021年に発売された時の販売計画は、1カ月に5000台だったが、先代ヴェゼルは発売直後の2014年には1カ月平均で約8000台を登録した。フルモデルチェンジを行う直前の2019年でも約4700台だ。
先代ヴェゼルは、約7年間にわたり好調な売れ行きを保ったから、新型に乗り替えるユーザーも多い。発売直後に5000台以上の注文が入るのは当然だ。
以上のように、ジムニー、ランドクルーザー、ヴェゼルなどの納期遅延は、日本国内の需要に対して、生産計画台数が足りないために発生している。海外市場への関心が高まり、国内需要の予測を誤ったことが、納期を遅延させた直接の原因だ。そこに新型コロナウイルスの影響が加わり、納期が一層遅延した。
このように昨今の納期遅延が発生した理由は、単純なものではない。新型コロナウイルスに加えて、ロシアとウクライナの問題も関係するから、今後の納期動向はわかりにくい。
メーカーからは、クルマ造りや販売方法を見直す声も聞かれる。今までは性能やコストに基づいてパーツを開発、調達していたが、今後は安定的に供給できることも不可欠になる。代替えの利く汎用性の高さも重視されるわけだ。
また新型車に切り替わる時、受注を中止している期間が長引くと、ユーザーがライバル車に乗り替える心配も生じる。そこで予約受注の開始時期を今以上に前倒しするプランも聞かれる。
ただしそうなると、ユーザーは、簡素な資料を閲覧するだけで購入の判断をせねばならない。納期を前倒しして、安心して買えるのか? という疑問も生じる。
ユーザーにとって、クルマを選びにくい時代になった。なるべく早い時期から、次のクルマの購入計画を立てておく必要がある。クルマ選びの前倒しで対応するしかないようだ。
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投稿 スズキは日本、インドで計50万台!? 販売店も痛いが消費者にはもっと大問題! 各社が抱えるバックオーダー問題 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。