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開催中の「世界水泳ブタペスト2022」。6月21日(火)には、東京五輪銀メダリストの本多灯が男子200mバタフライ決勝に出場する。

初出場の東京五輪で、競泳日本男子唯一のメダリストとなった本多。

わずか2年前まで世界的には無名で、身長173cmと競泳選手としては体格的に恵まれているとは言えない選手が偉業を成し遂げられたのはなぜなのか?

テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、本多の強さの秘密と彼が目指す“究極の泳ぎ”に迫った。

◆東京五輪で花開いた競泳界のニュースター

3歳で水泳をはじめ、すぐさま泳ぐことに夢中になった本多。小学校の卒業文集では“東京五輪出場”への熱い思いを綴っていた。

幼少期から変わらない真っ直ぐな性格について、母・聡子さんは次のように話す。

「小さい頃から決めたものを『こうしたい』と言う。ここで一番を獲るとかここで賞を獲るとか、カチッと入った時の集中力がすごかったです」

競泳人生の転機は、本来東京五輪が開催されるはずだった2020年。

団体戦・国際水泳リーグISL(アイエスエル)に参戦する北島康介のチームから、欠員を埋める代役として急遽オファーを受けた。

萩野公介、大橋悠依ら名だたる先輩とともに1か月間の長期遠征を過ごし、当時18歳の本多は得られるすべてを吸収していった。そして、自己ベストを5度も更新する大活躍。

「北島康介さんに急遽声をかけていただいて本当にありがたかった。オリンピックに活きた1番の大会じゃないかなと思います」(本多)

◆体格のハンデを補うのは“効率的な泳ぎ”

ISLでの貴重な経験を糧に、代表に選ばれた東京五輪。

競泳ニッポンは、金メダル候補と目された瀬戸大也や松元克央らが次々に予選落ちするなど悪い流れに飲み込まれていた。

本多もギリギリの8位通過で決勝進出。本調子とはいえない状態だったが、結果は世界をあっと言わせる銀メダル。

「ここで一発かましたら俺めっちゃ有名になれるという気持ちがあって、あとはシンプルに夢の舞台だったので、僕のやりたいこと、自分が出来る精一杯をここでやってやるという気持ちのほうが強かったです」(本多)

決勝に出場した選手の平均身長は183cm。そのなかで本多は173cmともっとも小柄だった。

体格のハンデを覆したことについて、同じ200mバタフライの五輪メダリスト・松田丈志氏はこう分析する。

「スタミナのいる200mバタフライをあれだけ速いタイムで泳ぎ切れるのは、やはり体力だけじゃなくて省エネで泳げていることだと思う。バタフライは手と足のタイミングが非常に重要だが、そのタイミングの取り方が天性的に巧い」(松田氏)

松田の言葉を裏付けるひとつのデータがある。

173cmの本多と184cmの松田の自己ベストを出した時のストローク数だ。本多は79回なのに対して、松田は78回。11センチの身長差があるにもかかわらず、200mでたった1回しか変わらない。

「ほぼ同じストローク長でいけているのは、身体は小さいけれど水の捉え方が上手かったり、抵抗の少ない姿勢がとれているということ」(松田氏)

強さを支える効率的な泳ぎは、陸上トレーニングにあらわれていた。

「上にあがった瞬間に頭からつま先が綺麗に真っすぐになっていますよね。その姿勢は水中で抵抗を受けない姿勢作りに繋がっている。小さい身体をダイナミックに使った省エネな泳ぎができている。全然まだ伸びると思う」(松田氏)

◆目指すは“哺乳類最速”「シャチに勝つ!」

しかし、東京五輪で唯一敗れたクリストフ・ミラーク(ハンガリー)とは、まだまだ大きな差があるのも事実だ。だからこそ目指す “究極の泳ぎ”ある。

僕は泳ぎの達人になればいいんじゃないかなと思います。哺乳類最速はシャチ。シャチみたいになれれば本当に速いんじゃないかな」(本多)

最大10mにもなる巨大なシャチだが、最高時速80kmで泳ぎ、哺乳類最速と言われている。

「(シャチは泳ぐのが)めちゃめちゃ上手いと思います。彼らは流線形で一番水の抵抗が少ない。しかも1回の蹴りが我々のキックの100回分くらいに相当する。

生物的に違うけれど、哺乳類でも水中で速く動けるのはすごい強みで、彼らが身に付けてきた技だと思うので、そういうところからもマネできるところはあると思う。

『シャチを超える』と思って練習をずっとして、コーチから『シャチに負けているからそんなんじゃ全然だめだよ』と常に言われてきたので、僕も『シャチに勝つ!』って」(本多)

目指すのは、「人類最速」ではなく「哺乳類最速」。

その意気込みを示すように、3月の世界水泳代表選考会では200mバタフライに加え、400m個人メドレーにも本格参戦。第一人者・瀬戸大也との直接対決を制し、2種目で世界水泳の代表権をつかみ取った。

開催中の「世界水泳ブダペスト2022」でもその活躍が期待されるが、2023年には「世界水泳福岡」、さらにその先にはパリ五輪が控える。

そんな本多に最終的に何になりたいかと聞くと、力強くこう答えた。

「圧倒的世界王者ですね。日本が誇れる、世界が誇れる本多灯になりたい」