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 1980年代後半から始まったRVブーム。その筆頭はランクルやパジェロ、サファリにハイラックスサーフなど多くのメーカーからさまざまなモデル登場し、いわば超激戦区であったのだ。ところが、先に挙げたクルマたちで唯一国内で未だに販売しているのはランクルだけとなってしまった。

 今思えば信じられない話だが、パジェロは月販台数一位を獲得するほど超人気モデルで、いまでいうN-BOX並に売れていたのだ。ところが、2019年を以て国内市場から撤退し、海外でも徐々に終売となっている。一体なにが原因でランクル兄弟に負けてしまったのか?

文/渡辺陽一郎、写真/MITSUBISHI、TOYOTA

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■新車の3割がSUVに! しかも本格クロカンが復権の兆し

2021年登場のトヨタ ランドクルーザー。納期待ちが4年以上という人気ぶりだ

 今はSUVが人気のカテゴリーになった。販売ランキングの上位には、ヤリスクロス、カローラクロス、ライズなどが並ぶ。国内で売られる小型/普通乗用車に占めるSUVの比率も、2010年頃は10%少々だったが、今は30%を上まわるまでに。今やミニバンと並ぶ人気のカテゴリーなのだ。

 売れ筋のSUVは、ヤリスクロスのような乗用車用のプラットフォームを使ったコンパクトなシティ派だが、最近は悪路向けのSUVも注目されている。例えば軽自動車サイズのジムニーは、悪路向けのSUVだが、販売店によると「契約から納車までの期間は今でも約1年」という。

 ジムニーは2018年に現行型を発売した時に比べると、国内の届け出台数を2倍近くまで増やした。2022年1~5月の1か月平均届け出台数は約3600台だから、N-WGNよりも少し多い。それでも納期は縮まらないのだ。

 2021年に現行型へフルモデルチェンジされたランドクルーザーは、今でも納期が4年以上だ。開発者は「中東地域向けの車種だから、日本への割り当て台数は、生産総数の10%を大幅に下まわる。その結果、納期が長引いている」という。

 ボディがひとまわり小さなランドクルーザープラドは、2009年の登場だから納期は短いが、それでも販売店では「約8か月を要するから、2022年6月の契約では、納車は2023年2月頃になる」という。

 ランドクルーザープラドだけでも、2022年1~5月には1か月平均で約2200台が登録され、売れ行きはRAV4に迫る。なぜジムニーやランドクルーザーが最近になって注目されているのか。

■ジムニーランクル人気は原点回帰が要因! ラングラーはポロと並ぶ販売台数に

 もともとSUVは、悪路を走る機能を備えるクルマとして誕生したが、道路の整備が進むと、悪路を走破する機会は減った。その結果、野性的な外観のカッコ良さと、ワゴンスタイルによる車内の広さがSUVの魅力になり、乗用車と同じプラットフォームを使うシティ派SUVが増えた。

 近年では2WDを中心に、シティ派SUVが大量に販売され、飽食気味になっている。その結果、ジムニー、ランドクルーザー、同プラドのような2WDを設定しない悪路向けのSUVが、いわば原点回帰として注目されるようになった。

 同様の傾向が輸入車にも当てはまり、2021年の輸入車販売ランキングを見ると、ジープ・ラングラーが上位に入る。メルセデスベンツAクラスを上まわり、フォルクスワーゲンポロと同等の台数を販売した。従来ならば、ジープブランドで悪路向けSUVのラングラーが販売の上位に入ることなど、考えられなかった。

■今はなきパジェロの初代モデルが市場を激変させた! ほかのモデルも続々追従

2019年4月登場の三菱 パジェロ特別仕様車「ファイナルエディション」

 以上のような今のSUV事情を踏まえると、残念なのがパジェロの廃止だ。2019年4月に特別仕様車の「ファイナルエディション」を設定して、同年に生産と販売を終えた。

 この後、アウトランダーは現行型にフルモデルチェンジされて注目度を高めたが、後輪駆動をベースにした4WDを備える三菱の悪路向けSUVは日本では販売されていない。なぜパジェロは廃止されたのか。

 パジェロの過去を振り返ると、初代モデルを1982年に投入してヒット商品になった。当時のSUVは、森林で使われる作業車だったが、パジェロの投入で流れが激変。

 1950年代から用意されていたランドクルーザーも乗用車感覚を強め、1980年代の中盤以降は、トヨタならハイラックスサーフ、日産はテラノ、いすゞはビッグホーン、ダイハツはラガーなど、悪路向けのSUVが堅調に売られていたのだ。

 ビッグホーンの登場は1981年だから、パジェロよりも早かったが、注目されたのは1982年以降だ。それだけ初代パジェロの影響力は大きかった。

■販売台数はライズ並!? 高価格帯なのにオプションもバカ売れした2代目パジェロ

 そしてパジェロは1991年に2代目へフルモデルチェンジする。初代からの乗り替え需要もあって売れ行きを伸ばし、1992年には約8万4000台(1か月平均で約7000台)が登録された。この販売実績は今日のライズと同等だ。

 しかも当時からパジェロは価格が高く、売れ筋になる上級グレードのエクシードやスーパーエクシードは350~400万円に達した。ガードバーやフォグランプなどのディーラーオプションも多く売られたから、三菱と販売会社は、パジェロの好調な売れ行きによって大いに儲かった。

■デカくなった3代目モデルから失速……ハリアーなどシティ派モデルが台頭へ

1999年登場の3代目パジェロ。大型化とシティ派SUVの登場により人気にかげりが見え始めた

 この人気に陰りが見え始めたのは、1999年に登場した3代目だ。初代パジェロの登場から17年を経過して、悪路向けSUVの目新しさが薄れ始めた。

 パジェロに限らず悪路向けのSUVは、耐久性を重視したメカニズムによってボディが重い。舗装路での走行安定性や街中での運転しやすさが悪影響を受ける。しかも悪路を実際に走る機会は少ない。

 優れた悪路走破力が、SUVユーザーのプライドを満足させる面はあるが、2代目パジェロのユーザーが3代目を購入しない傾向も見られ始めた。

 この流れを加速させたのがシティ派SUVの登場だ。コンパクトな車種として、1994年には初代RAV4、1995年には初代CR-Vが発売されて人気を高め、1997年には初代ハリアーが新時代の上級SUVとして注目された。

 1995年にはレガシィグランドワゴン(後のレガシィアウトバック)も発売され、ワゴンベースのSUVという新たな価値を提案した。

 また1996年には初代ステップワゴン、1997年にはパジェロと価格帯が重複する初代エルグランドも加わり、ミニバンもユーザーを増やしていく。

 このように1990年代の後半は、SUVが多様化して新攻勢力のミニバンも加わり、悪路向けのSUVは、悪路を走る機会が少ないことも災いして急速にユーザーを奪われた。

 しかも3代目パジェロは、売れ筋グレードの全幅を1875mmまで拡大している。2代目までは5ナンバーサイズが基本だったから、3ナンバー車になってもスリムで運転しやすかったが、3代目は大きく変わった。

 フェンダーが盛り上がって外観は力強くなったが、運転感覚も大味になり、初代や2代目のスマートさは薄れた。

 このフルモデルチェンジは、コンパクトだった初代RAV4や初代CR-Vとは対称的で、パジェロはますます旧態依然とした印象を与えた。

 今になって振り返ると、RAV4やCR-Vも2代目以降は北米指向を強めて拡大路線を歩み、パジェロと同じく売れ行きを下げたが、当時はコンパクトでパジェロを不利な立場に追い込んだ。

■不祥事も大きな要因に……アウトランダーPHEVに続けてパジェロの復権に期待!!

2021年登場の現行型アウトランダー。PHEVモデルを中心に大人気となっている。パジェロ復活の土壌はできあがりつつある?

 パジェロの衰退には、三菱全体の業績とブランドイメージも関係している。

 三菱の国内販売台数は、国内全体の販売がピークだった1990年は約71万台で、1995年には約82万台まで増えた。それが2000年には約55万台に下がり、2003年にトラック&バス部門を分社化して、2005年は24万4000台だ。

 2010年は17万6000台、2015年は10万2000台、2020年はコロナ禍の影響もあって約7万台まで下がったてしまったのだ。

 この背景には、2000年以降に発生した三菱の複数回にわたるリコール隠し、2016年に生じた軽自動車の燃費試験における不正問題なども影響している。

 クルマでは当然ながら安全性が重視され、不正の発覚はブランドイメージを傷つける。そしてクルマは移動のツールであると同時に、嗜好品の性格も兼ね備えるから、ブランドイメージが下がると売れ行きにも影響する。

 パジェロが3代目にフルモデルチェンジしたのは、前述の1999年だから、発売直後に三菱のブランドイメージが急降下を開始した。3代目パジェロにとっては、最悪のタイミングだった。

 この後、2006年に発売された4代目パジェロは、プラットフォームなどの基本部分を3代目と共通化しながら、原点回帰を思わせるシンプルなデザインで登場した。それでも売れ行きを回復できなかった。

 4代目が登場した翌年の2007年に、パジェロの1か月の登録台数は500台前後で推移している。1992年には、2代目が1か月平均で約7000台を登録したから、約15年間で、パジェロの販売規模は10分の1以下まで縮小した。

 以上のようにパジェロの消滅は、悪路向けSUVというカテゴリー全体の衰退、3代目パジェロの肥大化とユーザー離れ、アウトランダーやエクリプスクロスを始めとするシティ派SUVやデリカシリーズを含めたミニバンの台頭、三菱ブランドの失墜など、複数の要件が重なって発生した。

 そこで改めて初代パジェロの外観を眺めると、背伸びをしない端正で美しい姿をしている。三菱というメーカーも、パジェロも、初代の志を持っていたら、今も存続していたかも知れない。ランドクルーザーやジムニーのように、憧れのクルマになっていたように思う。

 今年は初代パジェロの誕生から40年、改めて国内での復活に期待したい。

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