コロナ禍前の2018年、地方銀行の一大不祥事として注目されたのがスルガ銀行(本社・静岡県沼津市)の不正融資事案だった。
シェアハウスやアパートなどの投資用不動産オーナーらへの融資過程で、審査書類の改ざんが発覚、銀行側は元会長ら旧経営陣に対して35億円の賠償請求訴訟を起こすなど経営責任を追及していたが、東京地裁で23日、スルガ銀の追及シナリオに強い疑義が生じる判決が下された。
判決が下された訴訟は、元会長らとともに賠償請求された1人で、懲戒解雇された麻生治雄・元執行役員(60)が、地位確認と未払い給与など約2400万円の支払いを求めたものだ。この日の判決で、同地裁の三木素子裁判長は「処分理由とされた行為があったとは認められず、懲戒解雇は無効だ」として男性の訴えを認め、スルガ銀に対して、本来受け取るはずだった定年退職までの給与など1600万円の支払いを命じた。
スルガ銀としては「完敗」とも言える判決だ。4年前、懲戒解雇などに踏み切った際の根拠となったのが、問題の融資を調査した第三者委員会の報告書と、それを元に監査役と社外の弁護士でつくる責任調査委員会による報告書だった。
懲戒解雇の根拠はすべて否定
当時の第三者委員長を務めたのは、大手ビジネス誌の弁護士ランキング企業法務分野で常にトップを争う大物弁護士だ。2004年のライブドアによるニッポン放送株買収では、ニッポン放送側の代理人を務めた。全国的にも注目される事案で、プロ中のプロの弁護士の調査結果がなぜ覆ることになったのか。
今回、麻生氏に“大逆転勝利”をもたらしたのが、代理人を務める倉持麟太郎弁護士だ。かつてはプライベートなことで世間に注目されることもあったが、最近では、コロナ禍で東京都の飲食店に対する時短命令の違法性をグローバルダイニング社が訴えた裁判で、実質的な勝訴を一審でもたらすなど本業で存在感を高めている。
その倉持氏は記者会見で麻生氏に同席し、さらに夜にはフェイスブックに投稿。
会社は日銀や金融庁からのお咎めをすべて「営業部門の暴走」に押しつけ、その全責任を執行役員の麻生さんに押し付けて幕引きしようと、麻生さんを懲戒解雇にしました。会社の危機管理委員会、第三者委員会、取締役等調査委員会、すべて会社が創作したストーリーを上書きして、麻生さんの責任を追認し、マスコミはそれを拡散しました。あああああああああああああああああああああ
などと提訴時の状況を振り返った上で、
明らかに事実と反する様々な主張を一つずつ、4年間かけて反駁してきました。ドロドロになりながら尋問もやって、すべて潰していきました。銀行側が作った懲戒解雇の根拠となるストーリー&事実関係はすべて裁判所によって否定されました。
と、高らかに勝利宣言した。
第三者委員会の“ビジネス化”に警鐘
そして倉持氏が矛先を向けたのが第三者委員会だ。
彼らがした事実認定はすべて裁判所に覆されました。このことは、第三者委員会ビジネスを食い物にしてあぐらかいてる弁護士御大の存在が、無益であるどころか、生身の人間の日常を奪うには十分すぎる権力を持っていることに鑑みれば、全く持って有害であることを知らしめました。”子ども警察”のように第三者委員会ごっこをしている弁護士よ、少数者や人権の擁護がまだ頭の片隅にあるのなら、すこし襟をただしたらどうだ。
と、当時の第三者委員会の弁護士らを猛批判した。
第三者委員会を巡っては、企業のガバナンスやコンプライアンスが年々強化され、弁護士事務所の“商機”拡大が後押ししている。金融ジャーナリストの伊藤歩氏が今年3月、東洋経済オンラインへの寄稿で
第三者委員会が経営者には責任がないとする報告書を書いてくれれば、その報告書が「免罪符」となって、経営責任をとらずに済む。企業や経営者のそんな思惑に沿った報告書を書き、荒稼ぎする弁護士や会計士は、もはや「第三者委員会ビジネス」を展開しているといっていいかもしれない。
などと痛烈に指摘している。郷原信郎弁護士も2018年の時点で「企業を蝕む『第三者委員会ビジネス』」の問題を指摘。伊藤氏と同様な「会社執行部の意向を受けた」委員会の存在とともに、第三者委員を務める弁護士の高額報酬の問題も指摘。日弁連の定めた弁護士報酬のガイドラインがタイムチャージ制になっていることが原因だと問題視していた。
今回の判決は、ビジネス化する第三者委員会の普及に向けた警鐘になるのだろうか。