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スペアタイヤに代わりいまやタイヤパンク修理キットが主流! でもこれを使うと修理できなくなるって本当?

 住友ゴムは、新車への純正搭載向けに展開していたタイヤパンク応急修理キットを5月18日から一般ユーザー向けにダンロップタイヤ取扱店舗などで販売を開始した。なぜ今、一般ユーザー向けに販売し始めたのだろうか?

 そこで現在、売られている新車のタイヤパンク修理キットの普及はどうなっているのか、パンク修理キットを使うと本格修理ができなくなる、パンク修理の手間が増えるとも言われているが本当なのだろうか、モータージャーナリストの高根英幸氏が解説する。

文/高根英幸
写真/住友ゴム工業、国民生活センター、ベストカー編集部、Adobe Stock

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■パンク修理キットはあくまで応急修理

現在ではパンク修理キットを装備する車種が主流となり、スペアタイヤを装備する車種は少数派となった(U-image@Adobe Stock)
スペアタイヤの代わりに装備されるようになったパンク修理キット。しかし使用すると後で本格的な修理をする際に面倒なことになる

 JAFのロードサービスで常に上位を占めている出動理由にタイヤのパンク、バーストがある。バーストはともかくパンクは、本来はドライバーがスペアタイヤやパンク修理キットを使って応急修理して、ディーラーやタイヤ専門店などでタイヤを脱着してパンク修理を行ってもらうものだ。

 スペアタイヤへの交換ができないドライバーが増えたのと、スペアタイヤを搭載していないことから、パンクでもロードサービスを頼る傾向になっている。さらにパンク修理キットを搭載しているクルマでも、いざパンクすると使い方が分からず、ロードサービス頼りになってしまっているのだ。

 クルマはタイヤによって走り、曲がり、止まれるのであるから最も重要な要素であるにも関わらず、ドライバーはとかく粗末に扱いがちだ。一般のドライバーは車検時や冬タイヤとの交換時に減り具合を確認する程度で、日頃の点検を怠ってしまうようになってきている。

 それは日本や欧州のタイヤメーカーが研究開発を繰り返し、高い信頼性を誇るタイヤを練り上げてきたことも影響している。人々の暮らしを豊かにするためには、当然の進化なのかもしれないが、それがドライバーの注意力を低下させてしまったのは皮肉とも言えるものだ。

 それ故、ある程度の犠牲者とも言うべきパンク難民が発生し、ロードサービスのお世話になる、という図式が成り立つのである。

 一般のドライバーがパンクに遭うのは10年に1度程度という平均データがあるらしい。けれども乗用車の保有台数から考えれば、その10年に1度が6200万台の乗用車に起こるとすれば、一日1万7000台がパンクしている計算になる。とてもパンクは希に起こる出来事ではないことが分かるだろう。

 今やほとんどの新車がパンク修理キット、もしくはランフラットタイヤを標準として、オプションでスペアタイヤを選べる車種もあるというくらいなので、スペアタイヤを搭載しているクルマは年々減少している。

 そしてロードサービスに救援してもらう際にも、パンク修理キットを使わず、タイヤ専門店やディーラーまで牽引していってもらうケースもある。それはなぜかというと、パンク修理キットを使用すると、後の正式なパンク修理が面倒なことになるからだ。

 ちなみにJAFのロードサービスは、車載のパンク修理キットではなく、タイヤ表面からプラグを差し込む簡易なパンク修理も行なってくれる。ガソリンスタンドでも同様のサービスを行なっているが、これも正式なパンク修理ではないのだ。

 そのままタイヤのライフまで走り切ってしまうドライバーも少なくないが、本来はタイヤをホイールから外してタイヤの内側にパッチを貼り付けて修理しなければ、完全なパンク修理にはならないのである。

■住友ゴムが一般向けにパンク修理キットを発売した訳

住友ゴムのタイヤパンク応急修理キット「IMS(Instant Mobility System)構成部品:修理剤、コンプレッサー、取扱説明書、収納バッグ。サイズはSUVや大型車用の大、小型車、軽自動車用の小、自動注入型。価格はオープンプライス。参考市場流通価格は大が9800円、小が8800円
環境に優しい天然ゴムラテックスからなる修理剤とコンプレッサーで構成されており、修理剤を注入後、コンプレッサーで空気を充填し、クルマを走らせることによって修理剤が圧縮と熱によって固まり、パンク穴をふさぐ

 住友ゴムが従来、新車搭載向けに出荷していたパンク修理キットの一般販売を今年5月から開始した。同様の市販品が5000円程度から手に入るが、住友ゴムのIMSはオープン。参考市場流通価格は小が8800円程度、大が9800円程度。

 販売する目的としては、新車に搭載しているパンク修理キットが使用期限を迎えていたり、壊れる(電動器具や電子機器は使っていなくても壊れる)ことで代替えの必要があることや、スペアタイヤを搭載しているクルマのオーナーにもパンク修理剤の需要が高まっていることに応えるためだ。

 キットの内容は、クルマのアクセサリーソケットを電源として駆動する電動コンプレッサーと、シーラント(パンク防止剤もこう呼ばれる)とも呼ばれるパンク修理剤。

 パンクしたタイヤにコンプレッサーを接続してパンク修理剤をコンプレッサーにセットし、電源を入れると空気と修理剤がタイヤ内に圧送されて、パンクの原因である穴を塞いでくれる、というものだ。

 これはIMS(インスタント・モビリティ・システム)とも呼ばれるもので、文字通り応急用のパンク修理システムだ。これを使って走行可能になったとしても、なるべく早くタイヤ販売店やディーラーへ行って、完全にパンク修理するか、タイヤ交換を行なう必要があるのだ。

 しかし乗用車の場合、このパンク修理キットの使用が後々問題になることもある。前述の完全なパンク修理を行なおうとした際に、注入されていたパンク修理剤が邪魔をするのだ。

■パンク修理の作業工程が増えるのと、品質担保が問題

修理剤と空気を同時にタイヤへ充填するタイプの応急修理キットの作業工程(出典:独立行政法人国民生活センター)
修理剤を充填した後に空気を充填するタイプの応急修理キットの作業工程(出典:独立行政法人国民生活センター)

 パンク修理キットを応急として使用した場合、完全なパンク修理を行なうためには、タイヤを取り外してから内部を洗浄するため、作業工賃は通常のパンク修理より割高になる。

 また吸音スポンジを採用しているタイヤは、スポンジがパンク修理剤を吸ってしまうので、機能しなくなってしまうことは覚悟しなくてはならないだろう。

 国民生活センターには、車載のパンク修理キットを使用してパンク修理を行なった結果、ディーラーでのパンク修理を断られたケースがユーザーより複数報告されている。

 これはディーラーでの対応の周知不足や純正品として用意したパンク修理キットに問題があった可能性もあるが、それよりもパンク修理をしても品質を保証できない、というのが理由として大きいと考えられる。

 大部分のタイヤ販売店では、タイヤの内部に残ったパンク修理剤を取り除いてパンク修理をしてくれるが、パンク修理剤の種類やパンク修理を行なうディーラーやタイヤ販売店によっては、タイヤ交換を勧められるケースもある、ということだ。

 たとえパンク修理キットを使わなくても、異物が刺さった場所がトレッド面ではなくショルダー部やサイドウォールであればパンク修理はできないし、ディーラーやタイヤ販売店が修理できないと言われた状態であれば、諦めて新品タイヤに交換するしかないだろう。

 スペアタイヤを積んでいても、いざパンクして使用しようと思ったら空気圧不足で使えなかった、という報告もある。

 これは6ヶ月点検の義務化が廃止されたとは言え、定期的に点検することはドライバーの義務ではあるし、車検毎にキチンとディーラーに車検整備に出していれば、スペアタイヤの点検も行なってくれる(標準装備ではなくなっているので、見落としているディーラーもあるかもしれないが)ので、そうしたトラブルは防げるだろう。

 応急用として搭載されているパンク修理キットの使い方をキチンと知っている人は少ないし、ネットで調べても分かりやすく解説している記事は少ない。単にパンク修理キットを使って薬剤を注入すれば、自動的にパンク穴を塞いでくれる、と想像している人も多いだろう。

 しかし実際には、必ずパンクしている部分にパンク修理剤が浸透していくとは限らないのだ。そのため、充填したらすぐにタイヤを回転させてやる必要があることを知らない人も多いようだ。

 スプレータイプのパンク修理剤では、コンプレッサーがなければ後から空気だけ追加で充填できないので、こういうワザが肝心となる。

 スペアタイヤからパンク修理キットに変わっていったのは、車体の軽量化を進め、燃費と衝突安全性を向上させようというのが目的だ。現在でもオプションでスペアタイヤを選ぶことが出来る車種は意外と多い。

 これはユーザーの利便性を考えて選択肢を用意しているものだが、スペアタイヤの場合は自分でタイヤ交換するのが前提となっているから、選ぶ人は限られるだろう。

 スペアタイヤがあればタイヤをローテーション(装着位置の変更)する際にも使える。

 しかし、そもそも自分でローテーション作業を行なうオーナーなど希なのだろうし、自分で行なえる人はキチンとしたガレージジャッキやリジッドラック(ジャッキアップしたクルマを支えるスタンド)を所有しているから、スペアタイヤが無くてもローテーションできるのだ。

 JAFのロードサービスでは、サイズやホイールPCDなどの仕様が合えば、用意しているタイヤホイールを一時的に貸してくれることもあるそうだ。自分のクルマのタイヤサイズが一般的で、比較的ロードサービスが用意しているものなら、スペアタイヤはJAFに任せる、という手もありそうだ。

●パンクの応急修理キットで補修ができない主な状態
・修理剤の有効期限が切れている時
・タイヤの空気圧が不十分な状態で走行してタイヤが損傷している時
・タイヤの接地表面に大きな切り傷や刺し傷がある時
・タイヤ側面等、接地表面以外に穴や損傷がある時
・1本のタイヤに2カ所以上の切り傷や刺し傷がある時
・2本以上のタイヤがパンクしている時
・タイヤがホイールから明らかに外れている時
・ホイールが損傷している時
・ホイールのエアバルブやバルブコアが損傷している時
※補修ができないパンクの状態は車両に付属している応急修理キットにより異なる。詳しくは車両に付属している取扱説明書を参照(出典:独立行政法人国民生活センター)

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