国土交通省は今年5月25日、自動車の安全性能を評価、公表する自動車アセスメントで最も安全性の高い2021年度のモデルにレガシィアウトバックを選出した。
現在、スバルブランドを大きく変えた「レガシィ」の名を受け継ぐ唯一のモデルだが、グローバル……特に北米では現在も絶対的なエースである。日本市場ではこれまでのレガシィツーリングワゴンのキャラクターをレヴォーグが受け継いだことで脇役となったが、「あの居住性が欲しい」、「あのゆとりが欲しい」、「あのプレステージ性が欲しい」と言うユーザーが一定数存在。
絶対的な台数は少ないものの、今もスバルのラインナップに欠かすことのできない一台である。今回はそんなアウトバックの魅力について検証していきたい。
文/山本シンヤ、写真/スバル、佐藤正勝
【画像ギャラリー】やっぱり「レガシィ」派に贈る、写真で見る「レガシィアウトバック」の魅力!!(22枚)画像ギャラリー
■北米でももともとは苦肉の策として登場
アウトバックはフレーム付きの本格SUVを持っていなかったスバルが、北米市場での拡販のために1994年に2代目レガシィツーリングワゴン(BG系)をベースにSUV化させたモデルとして登場。
導入当初はある意味「苦肉の策」だったが、「乗用車の走り」と「SUVの悪路走破性」の両立は高く市場から評価された。その後、世代を重ねるごとにステーションワゴンを超える人気を獲得。
現在は弟分の「フォレスター」、末っ子の「XV」、さらに3列シートモデルの「アセント」とともにスバルのクロスオーバーシリーズをけん引している。
■日本でのアウトバックの立ち位置はどうだったか
日本ではどうか? 北米導入の1年後となる1995年に「レガシィグランドワゴン」として登場。その後、1997年に「レガシィランカスターに改名(2002年まで)」と、北米とは別のネーミングが与えられていたが、4代目(BP系)をベースにするモデルから世界統一となる「レガシィアウトバック」に。
エンジンはターボ系が主のステーションワゴン系に対して、自然吸気……それも大排気量(スバルのなかでは)が中心で、3代目(BH系)をベースにするモデルからトップモデルに水平対向6気筒を設定。さらにスバルの運転支援システム「アイサイト」のご先祖様と言ってもいい「ADA(アクティブ・ドライビング・アシスト)」の初採用など、日本ではツーリングワゴンに対して上級のキャラクターが与えられていた。
その後、レガシィは6代目(BS系)でツーリングワゴンが廃止され、レガシィアウトバックのみのラインナップに……。この判断には賛否はあったものの、筆者はアウトバックとしてのキャラクターはより先鋭化されたと思っている。
そして、現行モデルはレガシィとしては7代目、アウトバックとしては6代目となる。日本向けは北米モデルに遅れること2年後となる2021年に登場。確かに北米優先で日本は後回し……とも言えるが、日本が蔑ろになっているわけではない。
■2年遅れで導入された日本版アウトバックの中身
その理由はメカニズムを見るとわかる。一見、同じアウトバックだが仕向地向けでパワートレーンとアイサイトは異なる。例えば、北米仕様は2.4Lターボ&2.5LNA/Ver3+アイサイトドライバーアシストテクノロジー(2023モデルより)、欧州をはじめとするほかの海外仕様は2.5LNA/新世代アイサイト+ツーリングアシストなのに対して、日本仕様は1.8Lターボ/新世代アイサイト+高度運転支援(=アイサイトX)」と、スバルの最新のユニットの組み合わせなのだ。
エクステリアはキープコンセプトだが、実車を日の光の下で見てみると立体感のある造形で、より筋肉質でたくましさがアップしているのがよくわかる。実は社内では「メカニズムを刷新したので、デザインも大きく変えるべきでは?」と言う議論もあったと言うが、最終的には「変化のための変化」ではなく、「ユーザーの使われ方に対して考えるべき」と大きな変更を行なわなかったそうだ。
デザインイメージは「トレッキングシューズ」で、前後バンパーやクラッディングなどはアウトバックらしさが「より大胆に」表現。
グレードによってキャラが異なり、「リミテッド」はメッキ加飾や切削&ダークメタリック塗装のアルミホイール、クロスバービルトインタイプのルーフレールなどによりプレステージ性を引き上げたコーディネイト。
一方、「Xブレイク」はブラック塗装の加飾やダークメタリック塗装のアルミホイール、ラダータイプのルーフレールなどにより道具感が高められたコーディネイトだ。
■すべての乗員が快適に過ごせる空間設計
ボディサイズは全長4870×全幅1875×全高1675(EX)/1670(Xブレイク)mmと先代よりもアップしているものの、実用上は先代とほぼ同等と考えていい。
インテリアはエクステリアと真逆で全面刷新。縦型の大型ディスプレイ内蔵のインパネセンターやフル液晶のメーターなどは2代目レヴォーグと共通レイアウトだが、左右/センターの空調グリルやシフト周り(サイドブレーキスイッチの位置)はアウトバック専用デザインだ。
横方向の広がりやカラーコーディネイトから独自性はあるものの、欲を言えば液晶メーターは専用デザインでもよかったかな……と。ただし、オプションで「ハーマンカードンサウンドシステム」がセレクト可能なのは、高く評価できるポイントだ。
スバル車の多くはどちらかと言うと前席の乗員優先のパッケージだが、アウトバックはすべての乗員が快適に過ごせる空間設計となっている。運転席で筆者(身長170cm)がシートポジションを合わせた時の後席の足元は足を組んでもシートバックに当たらないほどの広さである。
先代でも充分以上だったラゲッジスペースも長さ方向で約25mm拡大されるなど優秀。もちろん、ハンズフリーパワーリアゲートやポップアップトノカバーなどの採用など利便性も高められている。
■走りと乗り心地のバランスは現行スバル車最良のアウトバック
パワートレーンは1.8L直噴ターボ(CB18)+リニアトロニックの組み合わせだ。先代(2.5LNA)と比べると、スペックは175ps/240Nm→177ps/300Nmと大きく変わらないが、実用トルクやドライバビリティの高さは数値以上の差を感じる。
ただ、高速などの追い越しといったシーンではもう少し余裕が欲しいのも事実だ。肝心な燃費も熱効率40%を誇る割には、それほどいい値ではないのはちょっと……。せめて「高速15km/Lオーバーは楽勝」くらいのレベルにはいってほしい。個人的には「1.8Lターボ+電動化」という選択肢も必要だと思っている。
プラットフォームはSGP(スバルグローバルプラットフォーム)、それもフルインナーフレーム構造採用の新世代だ。日本では2代目レヴォーグに続く採用だが、実はワールドワイドで見るとアウトバックが初採用であることは、あまり知られていない。
その走りは……と言うと、基本性能のレベルアップは言うまでもなく、数値に表れにくい「動的質感」に関してはプレミアムセグメントに足を踏み入れた感じだ。歴代アウトバックはよくも悪くも大味なところがあったが、新型は穏やかなのに繊細なハンドリングに仕上がっている。
つまり、見た目や機能はクロスオーバーだが、走りに関しては歴代レガシィが目指してきた「グランドツーリング性能」をシッカリと継承している。個人的には走りと乗り心地のバランス……という意味では、現行スバル車最良と言ってもいい。
■レガシィアウトバックはやはりスバルのフラグシップにふさわしい実力
もちろん、アウトバックの特徴のひとつであるオフロード性能も抜かりなしだ。悪路走破性に大きく影響する最低地上高は、先代の200mmから213mmにアップに加えて、オフロード走行をアシストする「X-MODE」を全車標準装備(リミテッド:2モード、Xブレイク:3モード)。その実力は巷の都会派クロスオーバーとは似て非なる物で、むしろ本格SUVに匹敵するレベルだ。
もちろん、先進安全装備は最新スペックで広角化されたステレオカメラ+前後合わせて4つのレーダー、電動ブレーキブースターなどが採用された新世代アイサイトに加えて、衝突回避性能は世界トップレベル。
加えて、3D高精度地図データとGPS情報を利用した高度運転支援システム「アイサイトX」を全車に標準装備。非搭載車に比べて追突事故発生率は84%減少というデータを示す安全性は言うまでもないが、ACCやステアリング支援はまるで上手なドライバーが運転しているかのような滑らかで違和感のない制御も性能のひとつと言えるだろう。
そろそろ結論に行こう。レガシィアウトバックはレヴォーグの陰に隠れているが、スバルのフラッグシップにふさわしい実力を備える。スバルのAWDが生まれた背景は「ジープ並みの悪路走破性」と「乗用車の快適性」の両立だが、アウトバックはそれをよりピュアに表現したモデルと言ってもいい。
「ステーションワゴン+SUV」というコンセプトは、専用のクロスオーバーSUVが増えているなかで中途半端に思えるかもしれないが、個人的にはこの絶妙なポジションが日本人の用途に最も合ったカテゴリーだと思っている。そういう意味では、もっと光が当たってほしいモデルのひとつだ。
【画像ギャラリー】やっぱり「レガシィ」派に贈る、写真で見る「レガシィアウトバック」の魅力!!(22枚)画像ギャラリー
投稿 2021年度日本一安全なクルマの称号は伊達じゃない!? 日本車には珍しくキャラの立ったレガシィアウトバックの魅力とは? は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。