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第26回参議院選挙が22日に公示され、7月10日の投開票へ向けて選挙戦が始まった。これに臨む各党の公約なども出そろい、各種政策論争が活発に行われている。

特に、今回の選挙では、今までどちらかというと国民の関心が薄く優先順位が低かった「外交・安全保障」と、これに大きくかかわる「憲法改正」が主な争点となっている。それは、言わずもがな、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻という国際情勢による影響である。この現象が、いかにわが国民にとってショッキングな事案であったかというのは、意外なアンケート結果がこれを物語っている。

廃墟となったウクライナ南部のムィコラーイウの街(ウクライナ国防省ツイッターより)

若年層に走った「ウクライナ」の衝撃

ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始して1か月足らずの4月18日、SNSでおなじみのLINE株式会社のプレスリリースで、以下のような内容が伝えられた。

LINE株式会社では、同社が保有する約583万人の国内最大級のアクティブな調査パネルを基盤とした、スマートフォン専用のリサーチプラットフォーム「LINEリサーチ」を運営しております。

全国の15~24歳の若年層の男女に対して、四半期ごとに「最近流行っているコト・モノ・ヒト」についてアンケート調査(自由記述形式)を実施しております。2022年3月の調査結果をお知らせいたします。

2022年3月の最新調査では、「ロシアのウクライナ侵攻(8.6%)」が1位となりました。今年の2月末に始まったロシアによる軍事侵攻について、多くの関心を寄せている様子が見受けられます。

というものである。

ちなみに、2位は「呪術廻戦(5.9%)」、3位は「TikTok(5.3%)」、4位は「鬼滅の刃(3.4%)」と続く。「ロシアによるウクライナ侵攻」は、2位を大きく引き離した断トツであった。

つまり、普段テレビのニュースなどを見ることもないような、アニメやSNSの動画投稿サイトを主たる興味の対象とする若年層に対しても、わが国から遠く離れた地域で発生したこの「戦争」は、強烈なインパクトを与えたということである。

なぜならそれは、中高生を含むこれら若者たちが、「この戦争は、(少なからずわが国にも脅威を与えている)ロシアという隣国による、民主主義国家への一方的な軍事侵攻であり、(地震や洪水のような大規模災害と同様に)ごく身近にも起こり得る現実的な恐怖」と捉えたからであろう。しかも、この先には、「第3次世界大戦」や「核戦争」という最悪の事態が見え隠れしているのだ。様々な分野の流行に最も敏感なこれら若者の嗅覚によって、自らに及びうる危険な兆候を察知したのであろう。

結局、何も変わらない防衛政策

このように若年層に対してでさえ、強烈なインパクトを与えた事象なのだから、多少なりとも国際情勢に興味があり、テレビのニュースを欠かさず見ているような社会人に対して及ぼした、安全保障に関する考え方への影響力は、「推して知るべし」である。筆者は、さぞかし今回の選挙における安全保障政策は、有意義で現実的な議論が展開されるものと期待していた。しかし、その期待は見事に裏切られた。

結論から言うと、各党の安全保障政策。さらに平たく言えば、防衛(軍事)・外交政策は、基本的に従来とほとんど何も変わっていない。論争の主体となっているのは、「防衛費の増額」と「反撃(敵基地攻撃)能力」に関することぐらいである。

参院選 公示日を前に討論会で論戦をかわす与野党党首(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

与党である自民党の岸田総理は、「日本の防衛力を抜本的に強化する」という方針を示しているが、いったいどこが「抜本的」なのだろう。防衛費の対GDP比率が1%から2%になることが「抜本的」だということなのだろうか。

一方の左派系野党においては、その政策が昭和からほとんど変わっていない。

「戦争をさせない」「頑固に平和」などというスローガンが未だに掲げられている。

「戦争をさせない」ようにして欲しいのは、ロシアや中国や北朝鮮であって、わが国ではないだろう。どこの国に対してこのスローガンを掲げているのかと聞いてみたい。

「頑固に平和」というのは面白い。昭和の時代から何も安保政策が変わっていないということを自慢しているようなものだ。わが国を取り巻く環境がいかに変わろうとも、この姿勢をつらぬくつもりなのだろうが、国民はもうとっくに変わっている。

変化に対応できないものは、生物であろうが組織であろうが、淘汰されるのがこの世の法則だ。遅かれ早かれこの党は、消えゆく運命にあるのだろう。

このような、防衛力の強化に反対して平和を前面に掲げる政党が、こぞって口にする言葉が「外交で平和を実現する」というものだ。

抑止力こそが「平和の綱」

そもそも、紛争の解決は「軍事ではなく外交で」というのは、基本的な姿勢として「正解」、というより当たり前の話だ。しかし、残念ながら、今回のようにウクライナとロシアの間の紛争は、外交では解決せず、ロシアによる「軍事力の行使」という事態を招いた。そして、その原因の主たる要素には、ウクライナの軍事力がロシアに比べてはるかに劣っており、核兵器も保有せず、集団安全保障の枠組み(NATOなど)にも属していなかったという実態があった。

ほかにも、1991年に中東において発生した「湾岸戦争」も、この起因となったのは、深刻な財政難にあえいでいたイラクのフセイン政権が、1990年に(石油を大量に保有している)クウェートを侵略したことであり、フセインをしてこのような行動に駆り立てた主因は、イラクのような軍事独裁国家が隣国に存在するにもかかわらず、クウェートが自国の防衛を怠っていたことにある。

つまり、軍事力を伴わない外交は、この世界では通用しないというのが原則であり、紛争の解決という手段においては、軍事バランスの崩壊が「武力侵攻を誘発する」という現実を直視しなければならない。このような、武力に勝る国家が力で外交を有利に解決しようという誘惑を阻止するのが「軍事抑止力」だ。そして、この抑止力は、実際に軍事力が行使された場合には、確実にこれを阻止して侵略の意思を打ち砕くだけの実力を伴うことが求められる。まさに、そのためにわが国は、「抜本的な防衛力の強化」を果たさなければならないのだ。