もっと詳しく

 UDトラックスは、海外市場向けに「クーザー(Kuzer)」という小型トラックを展開しています。

 すでに国内では小型トラックの開発・生産から撤退しているUDトラックスですが、そんな同社が2017年に登場させた「クーザー」とは、一体どんなトラックなのか?

 インドネシアのほか、マレーシアや南アフリカでも活躍する「クーザー」の生い立ちや特徴について、詳しく見ていきましょう。

文/緒方五郎 写真/UDトラックス、VEコマーシャルビークルズ、緒方五郎


ベース車両は先々代コンドル

UDトラックスの南アフリカ市場ラインナップ。左からクオン、クエスター、クローナー、クーザー

 「クーザー」は2017年8月、インドネシア国際オートショーで発表された小型トラックです。

 キャブは、先々代コンドルの標準幅ショートキャブ(ベッドレス)車「コンドルZ」のコンポーネントを用いながら、現行型「クオン」にも通じる形状のヘキサゴングリルや縦型4灯ヘッドライトを用いて、フロントフェイスを一新させています。

 インテリアも先々代コンドルがべースですが、運転席からセンター部にかけてのダッシュボードの形状やメーターパネル、スイッチ配置などを一新しており、「クローナー」に似た雰囲気になっています。

 エンジンは、3.76L直列4気筒OHC16バルブ・電子制御コモンレール燃料噴射装置付直噴ディーゼル・ターボインタークーラー付の「GH4E」型。最高出力150ps・最大トルク490Nmは、インドネシア(事実上日本車がライバル)でクラス最強となるものです。なおトランスミッションは6速マニュアルのみ。一方でテレマティクスにも対応しています。

 シャシーは高張力鋼製のラダーフレーム、サスペンションは前輪・後輪ともリーフリジッドで2WDのみ、ホイールベースは3350mmと3850mmの2種というシンプルな車型展開になっています。制動装置は空気ブレーキシステムで、四輪ともドラムブレーキです。

 中型用幅2,100mmキャブにフルエアブレーキと、小トラというより中型トラックに近い感じですが、実際、車両重量約3.2t・最大積載量約5tもろもろ合わせて車両総重量(GVW)8.5tという中型なみの車格となっています。

 インドネシアの場合、このGVW8.5tクラスは、小型トラックの最上位車型がカバーするセグメントで、「クーザー」は、そこをピンポイントで狙ったトラックというわけです。

 今年4月から、インドネシアの排ガス規制がEuro-2からEuro-4へ強化されました。6月時点でクーザー(現行型はEuro-3レベル)のモデルチェンジはアナウンスされていませんが、現地報道ではEuro-4に対応することが伝えられています。

輸出国は右ハンドル国に集中

 インドネシアに続いて、南アフリカ共和国とマレーシアでも「クーザー」を導入しています。

 マレーシア向けはインドネシアとほぼ同仕様ですが、南ア向けはGVW8.9t・ホイールベース3850mm・Euro-2適合・ABS装着車のみと、仕様が少し変わっています。

 ちなみに、インドネシアでのUD車ラインナップは「クーザー」と大型の「クエスター」の2モデル、マレーシアでは「クーザー」「クエスター」と中型の「クローナー」の3モデルを展開しています。

 南アでは「クーザー」「クローナー」「クエスター」に加えて、「クオン」も展開しており、UD本家よりラインナップがひとモデル多い4モデルを設定するという、世界で唯一の市場となっています。

 「クーザー」の輸出国は、量販が期待できるはずの小トラにしては少なく、事実上右ハンドル国に集中しており、「クエスター」「クローナー」ほど販路は拡がっていません。やはり、大中型トラック中心のメーカーゆえなのでしょう。

インドのアイシャーの姉妹車とは?

 実は「クーザー」には、双子の姉妹がいます。

 そのもう一方の姉妹とは、インド第3位のトラックメーカー・アイシャーの「プロ3008」という小型トラックモデルで、「クーザー」と同じく本国では展開しない輸出専用車でもあります。そしてデビュー時期も同じでした。

 「クーザー」に対して、「プロ3008」はフロントグリルの形状やエンブレム類などのデザインが異なりますが、キャブは先々代コンドルベースで同じ。GVW8.5tシャシーは、わずかな寸法の違いはあるものの(ホイールサイズが異なるためとみられる)、ホイールベースやシャシーフレームのサイドレール断面寸法も同一です。

 エンジン型式は「E494」で、排気量表記は3.77Lで10cc違いますが、シリンダのボア・ストローク値は「GH4E」の100mm×120mmと一致しており、最高出力149hp・最大トルク490Nmもほとんど同じです。

 このように共通点の多い両車ですが、それもそのはず、「クーザー」も「プロ3008」も、UDトラックスがデザインを担当し、車両の開発と生産はインドの「VEコマーシャルビークルズ」(VECV)という、ボルボグループとアイシャーの合弁企業が行なっているのです。

 エンジンもやはりVECV製で、2014年にGVW10~15t車として登場した新中型トラック「プロ3000シリーズ」とともにデビューしており、ボルボグループのエンジンマネジメントシステムが搭載されたものです。

 そして、名称から察せられるように「プロ3008」は、この「プロ3000シリーズ」の車型バリエーションの一つで、そのロワーエンドに相当するモデルなのです。

ボルボグループの協業で生まれた小型トラック

 こうしてみると、「クーザー」は「UDブランドのプロ3008」だなと思えるところですが、この話はそう単純ではありません。

 現在はいすゞグループとなっているUDトラックスですが、ボルボグループだった当時は、グループ各社間でノウハウや技術資産の共有を進めていました。

 その一環として、提携先を三菱自動車工業からボルボグループへと変えたアイシャーのラインナップ刷新に、UDトラックスも少なからず関与していたのです。UDトラックスが担当したのは、アイシャー車の新しいデザイン開発(上尾のデザイン部門で行なわれた)と、前述のキャブを中心とするコンポーネント技術の供与です。

 UD由来のキャブは、「プロ3000シリーズ」と「プロ6000シリーズ」で導入されており、さらにアイシャーの新たなフラッグシップモデル「プロ8000シリーズ」は、新興国向け大型トラック「クエスター」のフロントデザインを変えたものとなっています。

 このように「クーザー」は、VECVが開発・生産に関与している部分が拡大しているものの、「クエスター」や「クローナー」と同様、ボルボのグループ分業戦略で生まれたトラックだといえるのです。

いすゞグループ入りでどうなる?「クーザー」の今後

 「クーザー」と「プロ3008」は、ともに日本とインドという本国市場では販売されない海外市場専用モデルですが、前者は東南アジア、後者は中東・アフリカを主な仕向け地としており、基本的に競合していません。UDもアイシャーも進出している南アでは、「クーザー」を導入して「プロ3008」は供給されないというすみ分けも見られます。

 一方、アイシャーの仕向け先の多くが左ハンドル国であることから、「プロ3008」には左ハンドル車も設定されています。なんと左ハンドル車のダッシュボードは先々代コンドルのままで、ハンドルの右・左でインテリアが違うという珍しいことになっています。

 しかし、UDトラックスが昨年いすゞグループとなったことで、ボルボグループとVECVのリソースを活用した「クーザー」は、立場的には扱いづらい面があるでしょう。また「中型寄りの小型トラック」というユニークなキャラクターゆえに、販売面でやや苦戦しているとも伝えられており、その動向が気になるところでもあります。

投稿 今も残るコンドルの血統!! UDトラックスの海外向けモデル「クーザー」とは何者か?【世界を走る日本のトラック】自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。