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マクラーレンが電動化に向けて大きく舵を切った。これまでは限定モデルにしかPHVを設定してこなかった彼らが、初の量産モデルとなるアルトゥーラをついにリリース。マクラーレン・オートモーティブの第2章が始まったことを告げる、アルトゥーラの実力をスペインで試した。

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新開発のV6はV8よりも感性に訴える

アルトゥーラは、従来モデルからキャリーオーバーされたパーツが皆無といっても過言ではない、まったく新しいマクラーレンのロードカーである。

大きなエアインテークが印象的なアルトゥーラ。ドアハンドル(実際はロック解除用スイッチ)が設けられたのはマクラーレンとしては初。

ここで、私があえて「新しさ」を強調したのには理由がある。とうのも、12Cに始まる現代のマクラーレンは、いずれも基本が同じカーボンモノコックやV8エンジン、ギアボックス、サスペンションなどを活用しながら、モデルごとに様々なキャラクターを生み出してきたからだ。

しかし、アルトゥーラは、この点でまったく異なる。そもそもクルマの基本骨格であるカーボンモノコックからして、ハイブリッド用の高圧バッテリーを内部に収める新形状としたほか、その製造も新設されたマクラーレン・コンポジット・テクノロジーセンターで行なわれる。

パワートレインの違いはさらに明瞭だ。エンジンはV8 4LからV6 3Lへとダウンサイジング。これに、最高出力95ps、最大トルク225Nmのモーターと、容量7.4kWhの高圧バッテリーを組み合わせ、EV航続距離は最大31kmのプラグインハイブリッドシステムを構築したのである。また、ギアボックスが従来の7段から8段へ進化した点も注目される。

ドライビングモードは新設のビナクル・スイッチで選択する。新世代の電気系アーキテクチャーを採用し、操作方法も刷新された。メーターパネル内にはバッテリー充電量も表示。


国際試乗会の舞台となったのはスペインのアンダルシア。一般道やアスカリ・サーキットでの試乗を通じて、アルトゥーラのポテンシャルを体感するという趣向だ。

PHVらしく、センターコンソール上のメインスイッチを押してシステムを立ち上げてもエンジンは始動せず、アルトゥーラは静かに海沿いの街を走り始めた。コクピット内にはモーターの「ウィーン」といううなり音がかすかに響いてくるものの、これだったら早朝や深夜の住宅地でも気兼ねなく走らせられるだろう。

シートはバケット式のクラブスポーツが標準で、写真のコンフォートはオプション。電動スイッチは一般的なデザインに改められた。

例によってモーターは低速域でのレスポンスがよく、発進は滑らかかつ俊敏。トルクの立ち上がり方もリニアリティが良好で扱いやすい。引き続き油圧式を用いるパワーステアリングの操舵力は軽めで、無粋なキックバックは一切認められないものの、路面のざらつきやフロントの接地感などは余すところなく伝えてくれる。いかにもマクラーレンらしい、情報がふんだんに詰まったダイレクトなステアリングフィールだ。

ヘッドライトはLED式。その下側のエアインテークから取り込んだ気流はホイールハウスに導かれ、空気抵抗の低減に寄与する。

市街地を走り抜けて郊外に出ると、10%を越す急勾配の長い上り坂が現れた。スペインの片側二車線道路はその多くが制限速度90km/hだが、これだけの急坂になるとアルトゥーラの電気モーターがサチュレーションを起こすようで、モーターの力だけでは次第に加速が鈍くなる。だからといってスピードが保てなくなるわけではないし、さらに力強い加速が欲しければパワートレインモードを切り替えてエンジンを始動させればいいのだけれど、アルトゥーラの電気モーターに過大な期待を寄せるのは禁物かもしれない。もっとも、この背景にもマクラーレンなりの思想が存在するのだが、それについては後述したい。

高速道路を含む約26kmを走ったところでバッテリーの電力を使い切り、エンジンが始動したが、その目覚めは穏やかなもので、新開発のV6エンジンが爆音を轟かせることはない。正直にいえば、このときエンジンがかかったことに気づかず、タコメーターを見て初めてエンジンが始動したことを確認したほどである。

中央に見えるチムニー・ダクトは、車両底面から吸い上げた気流によりエンジンルームを冷却するのに役立てられる。

フェラーリ296GTB同様、バンク角120度のV6エンジンは回転フィールが実に滑らかで、エキゾーストノイズも心地いい。あえていえば、音程が高めで連続音に近いフェラーリV6に対して、マクラーレンV6は粒立ちのいいバリトンといった印象。ただし、レッドゾーンが始まる7500rpmが近づくと澄んだアルトの歌声を響かせるようになり、ドライバーの感性をダイレクトに刺激し始める。音質的には、マクラーレンのV8よりもむしろ魅力的に感じられるくらいだ。

いたずらな刺激よりむしろピュアなドライビングを!

ワインディングロードでは、ステアリング・インフォメーションが豊富なおかげで、ひとつめのコーナーから自信を持って進入できた。サスペンションはマクラーレン独自のプロアクティブ・シャシーコントロールではなく、GTと同じ減衰率可変式のアクティブサスペンションとなるため、ピッチング方向の動きが完全に抑えられているわけではないけれど、フラット感は十分以上に高く、ハンドリングは機敏。それよりも印象的だったのは乗り心地が快適なことで、720Sよりもむしろスッキリとしてしなやかな印象が強い。

リアエンドの高い位置にエキゾートトパイプを ブル使用時)。設けて背圧を減少。リアディフューザーは2段構成として効率を改善している。

しかも、サスペンションがストロークした際のホイールの位置決めがより正確になったのか、ライントレース性の精度がさらに高まったように感じられる。このあたりは、リアサスペンションをダブルウィッシュボーン式からマルチリンク式に改めたほか、カーボンモノコックの剛性がより強化された効果と推察される。

標準のピレリPゼロは内部にマイクロチップを備えたピレリ・サイバー・タイヤ。空気圧やタイヤ温度を計測して車両に送信する。

久しぶりに走ったアスカリでも正確で安定したハンドリングという印象は変わらず、自分なりに頑張ったつもりでもテールが流れ出す兆しさえ感じられなかった。このあたりはかなりもどかしいところだが、裏を返せば、アルトゥーラのスタビリティがそれだけ高い証拠と受け止めることもできる。

アルトゥーラはマクラーレン初の量産型PHV。約2時間半で80%まで充電できるという(EVSEケーリアエンドの高い位置にエキゾートトパイプを ブル使用時)。

また、PHVとなっても、あくまでもスーパースポーツカーのピュアなバランスを追い続けるところが、いかにもマクラーレンらしい。冒頭で述べたモーターのサイズにしても、これを大きくして動力性能を高めるのは簡単だが、そうすれば車重が増してハンドリングのバランスが損なわれるというのが、パワートレインを開発したエンジニアの説明。もっとも、前述した急な上り坂を除けば、アルトゥーラの動力性能に不満を覚えたことは一度もなかった。過剰なパワーよりもシャシーバランス、五感をくすぐる刺激よりもピュアなドライビング体験を追求したアルトゥーラの姿こそ、新世代のマクラーレンに相応しいといえる。

720Sや765LTに続いてバリアブル・ドリフト・コントロールを装備。腕利きが操れば、ご覧のようなドリフト走行も可能となる。

【Specification】マクラーレン・アルトゥーラ
■全長×全幅×全高=4539×1913×1193mm
■ホイールベース=2080mm
■トレッド=前1650mm、後1613mm
■車両重量=1395kg
■エンジン=V6DOHC24V+ツインターボ
■総排気量=2993cc
■エンジン最高出力=585ps(430kW)/7500rpm
■エンジン最大トルク=585Nm(59.6kg-m)/2250-7000rpm
■システム最高出力=680ps(500kW)/7500rpm
■システム最大トルク=720Nm(73.4kg-m)/2250rpm
■燃料タンク容量=66L(プレミアム)
■トランスミッション形式=8速DCT
■サスペンション形式=前ダブルウィッシュボーン/コイル、後マルチリンク/コイル
■ブレーキ=前後Vディスク
■タイヤ(ホイール)=前235/35R19、後295/35R20

マクラーレン・アルトゥーラ公式サイト

投稿 システム合計680馬力! マクラーレン初の量産PHEVモデル「アルトゥーラ」は新時代を予感させるスーパースポーツだった!【海外試乗】CARSMEET WEB に最初に表示されました。