王者ホンダ N-BOXに何があったのか。2022年4月の販売台数は約1万5000台と好調だったが、5月は約8600台と大きく失速している。軽自動車の販売台数ランキングでは、ライバルのスズキ スペーシアに1位の座を明け渡すこととなった。ホンダの国内販売を牽引するN-BOXが失速すると、各所で大きな影響が出る。
本稿では、N-BOXが失速した原因を考えながら、特に影響の大きい販売現場に何が起こっているのかを探っていく。
文/木村俊之
写真/HONDA、ベストカーWeb編集部
■王者のN-BOX!人気はどこへ行ってしまったのか
2022年5月まで、N-BOXの販売台数は5カ月連続でトップだった。そのN-BOXが首位陥落し、まさかの4位という結果となると「ついにN-BOXの人気は落ち目にきたのか」と考えたくなるが、実はそうではない。
実際は、半導体不足などで部品供給が追いつかず、納期が大幅に遅れているのだ。前月と比べて販売台数が約6400台も減少した理由は、受注が取れても登録ができないことが大きく関係している。
最新の情報ではN-BOXの新車を購入すると納車まで6〜8カ月かかると言われている。こうした納期の話をすると、「えっ、2〜3カ月じゃないの!」と長納期に驚くユーザーが多くいるという。
N-BOXを諦めたユーザーは、3〜5カ月で納車できるスペーシアに流れることが多いという。やはり、早く手に入るクルマに流れる傾向があるようだ。
しかし、N-BOXの人気は健在だ。販売店の体感でも、受注台数は極端に減ってはいないという。逆に、クルマが来ないから納車ができないため、納車待ちの台数は膨らむばかりだ。
納期の遅れに対し、販売店で出来得る対策は限定的だ。だからこそ、営業マンの腕の見せ所でもある。ユーザーとの繋がりを密にしながら、売る力が試される局面が来た。
■クルマが買えないユーザーが続出!営業マンが語る販売現場の実情
販売現場の声を聞くと、新車を買えないユーザーが増えているのだという。
コロナの影響で収入減のユーザーもいる。新車の納期が保有車の車検時期に間に合わず、中古車を選ぶ人も多いようだ。新車・中古車の在庫車は昨今の特別な事情で引き合いも多く、底を尽きかけている。
こうした中で、営業マンはこれまでとは違う切り口で成果を上げている。
例えば、積極的な納期情報の発信だ。新規ユーザーが販売店へ訪れる際に伝えることが多かったが、最近では半年以上もかかる納期に閉口されてしまう。
そこで、既存客にN-BOXの納期を伝えることから始め、同時に乗り換えを提案しているのだ。同時に、販売店独自で納期情報をホームページへアップするなどの動きが出てきた。
これまでは、車検の半年から数カ月前に動き出していた乗り換えの提案を、1年以上前からスタートさせる。特に力を入れるのは、5年目、7年目の車検を迎えるユーザーだ。
ここには2つの戦略がある。ひとつは既存ユーザーへの新車の代替。もうひとつは中古車の個体数の確保だ。
中古車市場も高騰しており、多くの車種でリセールバリューが高くとれる。それにより乗り換え元のユーザーの購入費用を大幅に軽減でき、さらに中古車展示場が潤うことで、販売店は新しい顧客を開拓することもできるのだ。
営業マンが「クルマを売る時代」は終わったのかもしれない。これからは、営業マンがユーザーの不安や悩みに寄り添って解消する「コンサルタント」的な役割が求められるのだろう。
■スペーシアから首位奪還へ!N-BOXが首位に返り咲くには
N-BOXは、モデルチェンジして5年が経過しようとしている。現在モデル末期のクルマが半年以上も納車できない状態が続いては、再び首位に返り咲くのは難しそうだ。
まずは、供給が安定すること。その上で、大量の納車待ちを抱える販売店が、納車祭りを終えて、販売に軸足を置くことが、N-BOX復権への鍵となる。
ホンダ陣営としては、現行型で、もう一度首位に立っておきたいはずだ。首位奪還をしておけば、今後行われるフルモデルチェンジに関しても、「軽自動車No.1のクルマが改良される」と箔がつく。
とはいえ、部品供給ができない状況に変わりはない。スペーシアは、納期が早いことを全面に推して販売してくるだろう。納期の短縮以外にも策がほしいところだ。
販売台数が伸び悩むもうひとつの原因は、商談期間が長くなっていることである。長納期だと、ユーザーは「ゆっくり購入を検討しよう」という心理になる。だから、商談期間を短くする施策が必要だ。期間限定のキャンペーンなどが有効に働くのではないだろうか。
納車ができなくても、N-BOXは受注が取れるクルマである。生産台数が増えれば、自然に首位に返り咲くことも可能なはずだ。
スペーシアが首位を守り切るのか、それともN-BOXが首位奪還するのか、両者の戦いから目が離せない。
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