「インフルエンサー」とは、他に影響を与える存在のこと。最近じゃ、SNSなんかで情報を発信して世界に影響を与える人などを指してそう呼んだりもする。
自動車においても、思い返してみると「インフルエンサー」だったのでは? というモデルが存在する。そして、技術で影響を与えたモデルやデザインで影響を与えたモデルなど、ジャンルも様々だ。
ここでは、そんな世界に影響を与えた日本車をご紹介していこう!! 世界に影響を与えた、偉大なる日本車だ!!
※本稿は2022年5月のものです
文/国沢光宏、鈴木直也、清水草一、片岡英明、ベストカー編集部、写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2022年6月10日号
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■国沢光宏氏が推すインフルエンサー車
私にとって一番の「凄いね!」はハイエースだったりする。このクルマ、アフリカや南アメリカに行くと驚くほど多く見かけます。乗り合いバスとして使われているのだった。
あまりの人気のため、中国で200系のパクりハイエースが大増殖したほど。最近は偽ハイエースが中国から輸出されている。ただ耐久性で本家にまったく届かず苦戦してますね。
意外なところだと2代目レガシィにラインナップされたグランドワゴンも、世界中の自動車メーカーがバックマーカーを作った。
ちなみに元祖はAMCイーグルながら売れず。優れた性能を持つアウトバック(北米名)はアメリカでヒット!
アウディやボルボが追従し、その後、多くのメーカーがアウトバック風のクルマを出すにいたる。今でもアウトバックは人気ナンバー1です。
ピックアップトラックの車高を上げカッコよく仕上げたハイラックスはアメリカ西海岸で大ブレイクする! 以後、たくさんのメーカーがハイラックスのようなドレスアップ仕立てのピックアップを作り始めた。
最近はフルサイズのピックアップまでド派手なスポーツモデルをラインナップするなど、完全に流行を作ったと思う。ハイラックス、今でもトヨタの稼ぎ手になっている。
意外かもしれないが乗用車ベースのSUVで大ヒットを飛ばしたのはCR-Vが初めて。こう書くと「RAV4でしょ」と思うかもしれないけれど、ベースになった乗用車との距離の近さからすれば圧倒的にCR-Vだ。
少なからぬ自動車メーカーがCR-Vを購入して「乗用車のプラットフォームをそのまま使ってこんなクルマができるのね!」と驚いたという。現在のSUV、大半がCR-Vタイプ。
バックーマーカーこそ作れなかったけれど、世界中の自動車メーカーが参考車として購入し「いいね!」したクルマはランエボとインプレッサWRXだと思う。
国内外問わず様々なメーカーの技術者とクルマ談義をすると、必ずやこの2モデルの名前が出てくる。皆さん「楽しい」とか「素晴らしい」と敬意を表してくれ、そして皆さん「ウチの会社も作りたい」という。
さらに話を聞くと、ランエボやWRXのようなクルマを作っても、あんなたくさんの台数は売れないだろうし、作ったとしても高額になるだろうという。世界中の自動車メーカーが「作りたくても作れなかった」ワケ。
逆に考えると、1990年代の三菱自動車とスバルは凄くエネルギッシュだったということ。現在進行形で世界に影響を与えてるクルマってあるのかしら?
■鈴木直也氏が推すインフルエンサー車
半世紀くらい前、後発の日本車は技術もデザインも欧米のモノマネと揶揄されることが多かった。
しかし、石の上にも半世紀。現在主流になっている自動車の技術には、ルーツが日本車という例がけっこうある。
その最たるものはいうまでもなくハイブリッドパワーユニットだが、それを別にして日本車はもかなり幅広く世界に影響を及ぼしている。
まず取り上げたいのは、トヨタが3代目カムリで導入した“ハイメカツインカム”。
技術そのものは、以前からあるDOHC4バルブだが、当時は「スポーツカー用の高性能エンジン」と思われていたDOHC4バルブのポテンシャルを、燃費と排ガス浄化性能に振り向けたのがミソ。
しかも、それを普通の乗用車に搭載し、価格プレミアムをつけずに「普通のエンジン」として量産した。
いまでは、DOHC4バルブでないエンジンのほうが珍しくなったが、その大衆化のルーツは“ハイメカツインカム”だったのだ。
普通のエンジンがDOHC4バルブになると、スポーツエンジンはもうひと工夫必要になる。そこで生まれてきたのが、ホンダVTECに代表される可変バルタイ技術だ。
市販車デビューは1989年の2代目インテグラだったが、NAながらリッター100psを叩き出すレース仕様なみの高回転型エンジンが、若者にも手が届く価格で市販された反響は大きかった。
その後、パフォーマンスだけではなく燃費や排ガス浄化性能の点でも、可変バルタイ技術は不可欠のものとなり、現在ではほぼすべてのエンジンに搭載されている。
可変バルタイのおかげで普及が進んだ技術にミラーサイクル(アトキンソンサイクル)があるが、そのルーツはマツダのユーノス800だ。
商業的には失敗に終わったが、「2L級の燃費で3L級の走り」を狙ったこの野心的なエンジンは、知られざる名機。後のSKYACTIVに通じる、マツダらしいユニークなトライだった。
また、今やターボエンジンでは不可欠な気筒内直噴システムは、8代目ギャランの“GDI”がルーツ。いまや忘れられつつあるけれど、元祖直噴として記憶にとどめたい存在だと思う。
その他、軽から小型車までで大きなシェアを誇るCVTはスバルジャスティが初めて実用化したミッション。
最近欧州車で増えている後輪操舵(4WS)は、R31スカイラインのHICASが元祖など、駆動系や足回りでも日本車が世界に与えた影響は少なくない。
これからくる電動化時代でも、ぜひ世界をリードしていってほしいものですね。
■清水草一氏が推すインフルエンサー車
デザイン面で世界に影響を与えた国産車は、決して多くない。
ことデザインに関しては、国産車は長年海外から影響を受ける側で、独創的なデザインも少なかった。
軽トールワゴンや5ナンバーミニバンは世界に誇るジャパン・オリジナルだけど、ほぼ国内でしか売られていないし、海外にはこういうクルマの需要がナイ! セダンに関してはまったくゼロ。ステーションワゴンもナシ。
日本のお家芸たる小型のハッチバック系も、デザイン面で世界に影響を与えたクルマがあるかっていうと、ほぼ思い浮かばない。
日本車はデザイン以外の部分で勝負してきたからねぇ。デザインレベルそのものも、欧州に肩を並べたのは最近のことだ。
ただ、SUV、特にクロスオーバーSUVに関しては、日本車は世界に先駆けたし、大いに影響も与えた。
その元祖は初代CR-Vだ。前年にRAV4も出てるけど、デザイン的にはCR-V! SUVでありながら、シンプルでクリーンで都会的なデザインは、世界中でヒットした。
ラグジュアリーな都会派SUVのパイオニアとして、メルセデスMクラスやX5に影響を与えたのは、初代ハリアー(北米名レクサスRX)だ。クロスオーバーSUVの元祖はハリアー! とも認識されている。
デザイン的には、世界初の「まったく土の香りがしないSUV」と言える。CR-Vも土の香りは薄かったけど、ハリアーはさらに薄かった。
そして初代ジューク。こっちはSUVのデザインとしてではなく、フロントフェイスの4つ目デザインが世界に影響を与えた。
日本では売れなかったけど、海外では好調だったし、あのフロントフェイスは、デザインの専門家から「すばらしいオリジナリティ」と高く評価されて、多くのフォロワーを生んだ。
シトロエンC3がその典型だ。自動車デザイン界の前衛派・シトロエンに影響を与えただけでもスゲエ!
デュアリス(欧州名キャシュカイ)も、初めてSUVに本格的に空力デザインを取り入れたという意味で、多少影響を与えたんじゃないだろうか。
最後に2代目キューブ。立方体のようなデザインが前衛的でクールだと欧州で評判に。
販売されたのは3代目からで、しかも売れ行き不振だったけど、「見るからに空気抵抗の多そうな、遅そうなデザイン」は、世界の自動車デザイナーの脳裏に焼き付いた。
いまだフォロワーは起亜ソウルだけだけど、いつか花開く可能性はあると見ている。
■片岡英明氏が推すインフルエンサー車
1990年代を前に日本は世界一の自動車王国にのしあがった。が、販売台数は増えたものの、プライドの高い欧米の自動車メーカーの人たちの一部は、日本車のことを見下している。
そういった人たちをギャフンと言わせ、1990年代のFFファミリーカーのベンチマークになったのが日産の初代プリメーラだ。
日産車は早い時期にFF車を発売したが、若者好みの魅力的なクルマは少なかった。上のクラスとなれば、なおさらだ。
だが、1990年2月に登場したプリメーラは違う。欧州テイストで気持ちよく走り、おっさん臭くない。
だから質の高いファンの獲得に成功し、欧米の自動車メーカーを慌てさせている。その後のFF車の設計に大きな影響を与えた名車がプリメーラだったのだ。
ホンダが1992年2月に送り出した異色のFFスポーツクーペがCR-Xデルソル。スポーツカーの新しい形を提案し、トランストップと呼ぶ画期的な電動メタルトップを採用した。クーペの快適性とオープンカーの爽快感を1台で楽しむことができる。
今につながるクーペ・カブリオレやリトラクタブル・ハードトップの先駆けとなり、メルセデス・ベンツやBMW、プジョーなどのクルマづくりに大きな影響を与えた。
4輪駆動の快速スポーツワゴンを身近な存在にしたスバルのレガシィは、2代目のときの1995年にグランドワゴンを加えている。後のランカスターだ。
ワゴンとSUVのクロスオーバーで、丸型フォグを装着し、最低地上高も200mmを確保した。タイヤはマッド&スノーだ。ビスカスLSDも標準装備する。エンジンは余裕ある2.5Lの水平対向DOHCだ。グランドワゴンに刺激を受け、アウディやボルボが追随した。
1997年に鮮烈なデビューを飾ったハリアーも、プレミアムクロスオーバーSUVの市場を開拓した記念すべきクルマだ。
6代目カムリのメカニズムを用い、高級セダンの快適性とSUVのタフな走りを両立させた。スキマを突いたハリアーの成功にショックを受け、2000年代になると欧米の名門が次々にプレミアムSUV市場に参入。今も世界の潮流となっている。
三菱のランサーエボリューションもラリー界の流れを大きく変えたインフルエンサー車だ。
スバルのインプレッサWRXとともにWRCに参戦し、破竹の快進撃を続けている。セダンボディだが、軽量コンパクト設計で4WD、ターボもパワフルだから戦闘力は高く、欧州勢を寄せ付けなかった。当然、タイトルを奪取し、ラリーカーの開発コンセプトを変えさせている。
■インフルエンサーとなる条件とは!?
“インフルエンサー車”、つまり他メーカーに影響力を及ぼすクルマだが、デザインであれば「奇抜」なだけだったり、新技術であれば他に応用のきかないようなものではインフルエンサーにはなることはできない。
もちろん、他にはない独自性、オリジナリティはインフルエンサー車には必須の要件なので、このあたりの境界線が難しい。
一見奇抜に思えたジュークのフロントマスクは間違いなくデザイン的オリジナリティがある。清水氏が評しているように欧州のカーデザインに影響を及ぼした。
ランエボ、インプレッサSTIのようなコンセプトも世界に影響を及ぼしたインフルエンサーだ。
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