自動車購入時に付属する取り扱い説明書。通称“取説”は、そのクルマに関する基本的な使用方法が記載されているものだが、この取説をきちんと読んでいない人は意外に多い。取説さえちゃんと読んでいれば防げたはずのトラブルもあるので、クルマを買ったらまずはその取説に目を通しておいてほしい。今回は、そんな取説に関するアレコレを紹介していこう。
文/長谷川 敦 写真/メルセデスベンツ、ホンダ、日産、トヨタ、スバル、マツダ、写真AC
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ABS搭載車は迷わずガツンと踏め!
皆さんのなかには「ポンピングブレーキ」という言葉に覚えのある人も多いはず。これはかつて自動車教習所で教えていたブレーキに関する技術で、一気に制動させたい時は、ブレーキを踏み続けるのではなく、踏力を繰り返し弱めるというもの。
実際、ブレーキを強く踏みつけてタイヤをロックさせてしまった場合、タイヤがソリのように滑ってしまって制動力が低下する。そこでタイヤがロックした瞬間に踏力を弱めてタイヤを回転させ、グリップ力が回復したら再びブレーキを強く踏み込む。この動作を複数回行って、結果的に制動距離を縮めるのがポンピングブレーキだ。
近年のクルマで標準装備となったのがABS(Antilock Braking System)と呼ばれるブレーキシステムで、これはポンピングブレーキを自動的に行うもの。これまでは運転者の技能によるところが大きかった制動距離が、ABSによって一律かつ確実に縮むことになった。これが事故防止に効果的なのは言うまでもない。
勘違いしている人も意外に多いのだが、タイヤのスリップを感知してブレーキの踏力制御をコンピューターで行うABSでは、運転手はただガツンとブレーキペダルを踏むだけよく、あとは車体側で最適な制動を行うように調整してくれる。しかし、途中でブレーキペダルの踏み加減を調整してしまうと、場合によっては運転手の操作が優先されてしまって適切な制動が行われなくなる。
これを防止するため、ABS搭載車で危険を察知して急制動を行うときは、昭和時代の教習所で教わったポンピングのことは忘れてとにかくしっかりとブレーキペダルを踏み込むことを心がけたい。つまり、肝心なのは運転手の技量ではなく確実にABSが作動するか点検の際に確認しておくことだ。
ABSについて記載している取説も多い。まずはそこをちゃんと読んで、安全なブレーキ操作を行いたい。
予防安全技術は過信しちゃダメ!
昨今のクルマに関する技術のなかで、特に進化が期待されているのが予防安全技術だ。先にあげたABSもそんな技術のひとつだが、他にはペダルの踏み間違いによる急発進を防ぐ誤発進制御や、前走車との距離を一定に保って走行するクルーズコントロール、他車や建物、人物への衝突を回避するための自動ブレーキシステムなどがあげられる。
すでに多くのクルマにこうした予防安全技術が用いられ、重大な事故を未然に防いでいるケースも多い。だからと言って、安全運転に気を配らなくていいということにはならない。
センサーで前方の状況を感知して自動ブレーキシステムが作動してくれれば、衝突を避けたり、事故の被害を軽微に抑えてくれたりする。しかし、予防安全技術はあくまでアシスト機能のひとつであり、重要なのは運転手が常に前後左右を意識して、必要に応じて速度調整やブレーキ操作を行うことだ。
予防安全技術はまだまだ発展途上にある技術と言える。もちろん十分な効果があると判断したからメーカーも市販車への採用に踏みきったのではあるが、機械である以上センサーが不調になるなどの可能性もある。だからこそ、予防安全技術に関する取説の記載をしっかり読み、どのように自分をサポートしてくれるのかを理解しておこう。
すえ切りはタイヤとエンジンの負担大
停車状態でハンドル操作を行うことを“すえ切り”と言う。軽自動車でも数百kg、普通車であれば1トンを超えるほどの車重が4本のタイヤに加わっているが、すえ切りを行うと、走行(回転)している時とは違ってタイヤの一カ所に大きな負担がかかってしまう。これがタイヤによいわけはなく、無理なすえ切りを行うと、タイヤの内部構造にダメージを与える可能性は高い。
かつてのクルマにはパワーステアリングが装備されていないこともあって、すえ切りをするにも腕力が必要だった。これが自然にすえ切りの防止にもつながっていたのだが、ほとんどのクルマにパワーステアリングが装備されている現在では、すえ切りの操作自体にそこまで大きな力はいらなくなっている。
だが、人間が操作するのに腕力が必要ということは、パワーステアリングに使われているモーターや、そこに動力を供給するエンジンに負荷が加わり、最終的に破損の要因になる可能性は否定できない。
つまり、どうしても必要な場合を除いてすえ切りは行わないほうがよいということだ。すえ切りに関する注意も多くの取説に書かれている。これもしっかりチェックしておけば、タイヤの寿命も延ばせるはずだ。
インテリジェントキーの取り扱いに気をつけよう
キーの操作を行うことなくドアロックを解錠&施錠でき、エンジンも簡単に始動可能なインテリジェントキーは、ロックし忘れなども防止できる便利なアイテムだ。だが、このインテリジェントキーにも意外な弱点があるのをご存じだろうか?
インテリジェントキーは、車体から発信されている電波をとらえるために常に受信体勢になっている。こうした理由により、近くに強力な電波発信源があると、機能が正常に作動しなくなる恐れがあるのだ。
具体的には近くに電波塔や放送局などのある環境で正常に作動しなくなることがあり、携帯電話と一緒にポケットに入れている時にその影響を受けるケースもある。こうした場合はトラディショナルなメカニカルキーを使ってドアの開錠やエンジン始動を行う必要がある。
また、常時電波を受信しているインテリジェントキーは、自宅でパソコンやテレビなどの近くに置いておくと、その電波によって内蔵の電池を大きく消耗することもある。電池は消耗品とはいえ、長く使えるに越したことはないので、自宅の保管場所にも気をつけよう。
イモビライザーの誤動作を防ぐには?
大切な愛車を盗難者から守ってくれるのが、イモビライザーをはじめとする盗難防止装置だ。誰かが外側からクルマを動かそうとしたり、あらかじめ登録されているキー以外でエンジンをかけようとしたりすると、警告音が鳴り響いてオーナーや周囲にそれを知らせるのがイモビライザー。
今や高級車だけでなく大衆車や軽自動車でもメジャーなイモビライザーだが、まれに誤動作によって警告音が鳴り出してしまうケースもある。
停車中のクルマに歩行者が誤って触れた、または立体式駐車場などの振動をセンサーが検知した、あるいはイモビライザーと連動しているキーの電池切れなどによる誤動作が考えられるが、あきらかな誤動作だとわかっている場合には、オーナーが速やかに解除操作を行わなくてはならない。
イモビライザーの解除にはさまざまな方法があるが、代表的なのはドアロックの開錠や、正常なキーでのエンジン始動など。派手な警告音でもパニックにならず、冷静な操作が要求される。
もちろん、イモビライザーの取り扱いに関しても取説にはきちんと記載されている。立体駐車場に停める際には振動検知を解除しておくこともできるので、これらを頭の中に入れておくとよい。
各自動車メーカーでは、各車の取り扱い説明書を自社のウェブサイトにアップしているケースも多い。いざというとき備えて、これら説明書をすぐにスマホなどから読めるようにしておくのもひとつのアイデアだ。
取説をしっかり読んで、クルマの基本的な取り扱いを知っておくのはオーナーの義務とも言える。この機会にもう一度取説に目を通しておくのはいかがだろうか?
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投稿 取説読んでますか? 知ってるつもりでも…間違った使い方をしがちな装備はてんこ盛り! は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。