現行アルファード・ヴェルファイアに、まさかのオーダーストップがかかった。新型登場を見越してのようだが、その登場は約1年も先の事。直近の販売ランキングでもトップ10にしっかり入る販売の要が、早々と世代交代の準備へ入るようだ。
そこで3代目アルファード・ヴェルファイアの回顧録として、筆者が営業マンをしていて、思わず唸ってしまった「凄いところ」を紹介していこう。おそらく今後も語り継がれることとなる、アルヴェルの販売伝説をここに書き記す。
文:佐々木 亘
画像:TOYOTA
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■競合が存在しないクルマ
商談を進めていく中で、ユーザーへ必ず確認するのが競合車の有無だ。クルマの商談では、競合車種や平行して検討しているクルマは、ほとんどの場合存在する。
アルファード・ヴェルファイアであれば、エルグランドや、ラージサイズSUV、少し小さいがノア・ヴォクシーなどが挙がりそうなものだが、競合車が出てこない。ほとんどのケースが、アルヴェル一本に絞られた商談なのだ。
チャネル別で販売している時でも、アルファードとヴェルファイア同士が競合になるというのも少なかった。ユーザーからすると、アルファードやヴェルファイアの代わりは無く、その存在は唯一無二のものなのだろう。
ライバルがいないということは、その商談に注力出来て良さそうだが、競合車伺いは、商談相手の懐を探る重要な質問でもある。ちょっとイレギュラーで、常套句が使えないアルファードとヴェルファイア。営業マンに厳しい側面も見せるのが、少々ニクイ存在だ。
■レクサスを手放してもほしい
トヨタユーザーの買い替えでは、選択肢がレクサスになることもある。そのため、同一販社内にレクサス店があるトヨタ販売店では、レクサスへの「紹介」があるのが常だ。
しかし、その逆はかなり少ないもの。一度レクサスオーナーになってしまうと、トヨタ車へ買い替えをするというのは珍しい動きとなる。
レクサスでセールスコンサルタントをやっていた筆者。レクサスオーナーが流れていくのは、ドイツ御三家などの輸入車だと思っていたが、3代目アルファードのマイナーチェンジで、その考えは大きく覆される。
フェイスチェンジが行われ、エグゼクティブラウンジの仕様が拡大されると、レクサスオーナーが挙って注目したのだ。特にアルファードへの視線は熱かった。
当時、販社系列にはトヨタ店とネッツ店しかなく、筆者の紹介先にアルファードという選択肢は無かった。「ヴェルファイアならお話を繋げますが」と、担当オーナーに話をしたが、「どうしてもアルファードがほしい」という声は変わらない。当時、LSやGS、RXなどのオーナーが、相当数アルファードへ流れている。
トヨタからレクサスへという、誰もが信じて疑わなかった流れを、真逆にさせたアルファード。レクサスから見て、ここまで脅威に感じたトヨタ車を、筆者は他に思い浮かべることはできない。
■スペック=クルマの価値ではない
燃費や室内の広さなど、数字で表すことができるクルマの性能は多い。燃費で言えば0.1㎞/Lの差が価値となり、広さや大きさなどは1㎝の差で、クルマ選びが決まると言ってもいい。それだけ、カタログスペックは大切な数字だ。
ほとんどの場合、ライバル車との数値の差は、営業マンの頭の中に入っている。優位な点、不利な点を理解しながら、自社製品をうまくアピールしていくものだった。
数字は絶対的な尺度であり、そのクルマの価値である。そう思っていた営業マンたちの概念を大きく変えたのがアルファードとヴェルファイアの存在だ。
例えばミニバンで重要視される乗降性で見てみよう。アルファード・ヴェルファイアはスライドドアの下端で450mmの高さがあるのに対し、ノア・ヴォクシーは380mmである。低床低重心を打ち出していた、ホンダ・オデッセイはさらに低く、2列目の乗降性は明らかにアルヴェルが劣る。
また、床面が高いため、室内の高さを確保するために全高を上げざるを得ない。アルヴェルの全高は1,935mmと他車に比べて圧倒的に高いのだ。
床面が高く、全高が大きくなることで、燃費・乗り心地・走行安定性などが犠牲になる。それでも、数字では表せない空間美や、あえて見下ろす形になるクルマの特性を、ユーザーは選んでいくのだ。
アルファード・ヴェルファイアを見ていると、カタログに載っている数字に、本質的な価値がリンクしないことが、よくわかった。他車であれば重要になるスペックも、アルファード・ヴェルファイアにかかれば、無意味なモノと化す。
それだけ、他に魅力が多いということなのだろう。
セオリーや普通が存在しないのがアルファード・ヴェルファイアの取り扱いだ。特に現行型では、その凄さが顕著に現れている。
次世代の登場へ向けて、早々と生産を終えたアルファード・ヴェルファイア。モデルチェンジでは、どのような驚きを届けてくれるのか、楽しみに待っていたい。
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