物流は重要な社会インフラとされるが、担い手不足や長時間労働などの課題に直面し、危機的な状況にある。物流の2024年問題を前にトラックドライバーの労働時間の短縮と、荷物の効率的な輸送を実現するために、パレット化は不可欠だ。
そんな中、国土交通省の「官民物流標準化懇談会 パレット標準化推進分科会」は2022年6月27日、中間とりまとめを公表し、パレット化を図る事業者に推奨するパレットの規格を前倒しで提示した。
一般に、物流に用いる「パレット」とは荷物を載せる台のことだ。ただの台とはいえ、パレットに積み付けされた荷物はフォークリフト等で荷積み・荷卸しができるため、人力による手荷役より大幅な省力化が可能となる。
いっぽうで国内のパレットサイズはJIS規格だけで8種類が定められており、実際に流通しているものは100種類以上あるとされる(素材や仕様を含めないサイズ違いのみで)。
業種や荷物の特性によっては異なる規格の採用がより合理的な場合もあるが、標準規格のパレットを標準的な方法で運用し物流の効率化を目指す「一貫パレチゼーション」のためには、パレットサイズはできるだけ少数に収れんする必要がある。
パレットの標準化は、これまでも何度も議論されながら充分に進展して来なかった「古くて新しい課題」だ。物流の危機が社会に認知されつつある今、トラックドライバーなど関係者全員が利益を享受できる形でサプライチェーンの最適化は進むのだろうか?
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部、表/国土交通省
分科会はイチイチパレットを推奨
フォークリフトによる荷役を可能にする「パレット」は、効率的な物流には欠かせない機器だ。国内ではJIS(日本産業規格)で規格化されたパレットだけで8種類がある。いっぽうで実際に流通しているサイズは100種類以上あり、半数以上が規格外のパレットだという。
荷主としては荷物に合わせたパレットサイズを選択したいという思惑もあるが、荷主間で使用するパレットが異なると、「パレットからパレットへの積み替え」という無駄な作業が発生することもある。1960年代からパレットの標準化を進めてきた欧州とは対照的だ。
トラック輸送では多くの場合、ドライバー自身が荷役作業も行なう。問題なのは、荷役など付帯業務に対する料金を収受できていないケースが多いことだ。
人手不足や物流の「2024年問題」など多くの課題に直面するなか、トラックドライバーの拘束時間の短縮と負担の軽減のために、パレットの標準化が不可欠となっている。
こうした背景から、令和3年の「総合物流政策大綱」(2021年度~2025年度)の閣議決定を受けて開催された官民物流標準化懇談会では、パレット等の物流機器の標準化を先行して検討することが決定された。
懇談会はトラックドライバーの拘束時間の削減と手荷役による負担の軽減は喫緊の課題であり、優先的な検討を行なった上で、可能なものについては前倒しするとした。
実際にこの度、国土交通省が中間とりまとめを公表し、これからパレット化を図る事業者に推奨するパレットサイズを前倒しで提示した。推奨されたのは通称「イチイチパレット」と呼ばれる1100mm×1100mmのパレットで、これは国内で最も一般的なサイズだ。
パレット標準化の重要性
トラックドライバーの労働環境は厳しく、担い手不足や高齢化が進んでいる。特に2024年の4月から時間外労働の上限規制が導入されることに伴い、深刻な労働力不足に陥りモノが運べなくなるという「物流の2024年問題」が、現実的な危機と認識されつつある。
国交省の調査では、トラックドライバーは1回の運行につき約1時間30分を荷役作業に費やしている。中でも長時間労働の要因の一つとなっているのがバラ積み・バラ卸しだ。
荷役作業の機械化の前提になるのがフォークリフトを使うための荷物のパレット化となる。
また、パレット化の進展以上に重要なのがパレットの標準化だ。標準化されていないと、規格違いによる荷物の積み替えなど、無駄な作業が発生することもある。
いっぽうパレットの規格や運用方法が標準化されれば、異なる事業者間での共同輸送や、多商品の混載、同業他社とのパレットの共同利用、物流現場の自動化・デジタル化の進展など、生産性の向上につながる。
パレットの規格化で先行するのは欧州で、半世紀以上の時間をかけて「ユーロパレット」の標準化を進めてきた。欧州で最も典型的パレットサイズは以下の4種類だ。
EUR1 : 800mm×1200mm
EUR2 : 1200mm×1000mm
EUR3 : 1000mm×1200mm
EUR6 : 800mm×600mm
このうちEUR2/3は同サイズのタテ・ヨコ違い、EUR6はEUR1のハーフサイズということで、ユーロパレットは実質的には2サイズに収れんしている。いっぽう日本国内ではJIS規格に定められたものだけで次の8種類があり、先述の通り規格外のサイズも多い。
1100mm×1100mm
1200mm×1000mm
1100mm×800mm
1100mm×900mm
1300mm×1100mm
1400mm×1100mm
1440mm×1130mm
1200mm×800mm
積み替えや手荷役を発生させない一貫パレチゼーションを実現するためには、パレットの規格と運用の双方を標準化する必要がある。パレット規格を1つに集約することは困難でも、できる限り少数に収れんすることが望ましいのだ。
標準化の課題と留意点
ただし、商品の特性や業種によっては、異なる規格の採用がより合理的な場合もある。またパレット化が可能な荷物であっても、トラックの積載率低下を嫌ってバラ積み・バラ卸しを行なう事業者も多い。
中にはパレット化された荷物を崩して手作業での積み込みを求められるケースもある。トラックへの積載方法をめぐっては、荷主と運送事業者とドライバーの利害関係が複雑に絡み合うため、これまで標準化が進んでこなかった。
関係者が局所的な効率を求めた結果、物流の全体として非効率に陥ってしまった。手荷役の増加や拘束時間の延長などでその割を食っているのがトラックドライバーだ。
総合物流政策大綱の柱となっている「サプライチェーン全体の最適化」のためには、トラックドライバーを含めた関係者全員が物流の生産性向上による利益を享受できなければならない。
具体的には、荷役作業の軽減、荷待ち時間の短縮、共同配送による積載効率の維持・向上、トレーサビリティの確保、物流施設のDX推進などが利益となる。また、省力化と効率化は脱炭素に向けた取組でも不可欠だ。
いっぽう、パレットを利用し、回収し、循環させるなど運用における標準化の実現も重要となる。自社保有・レンタル・共同利用等の保有形態、回収・洗浄・補修等の管理費用の負担、管理システムの構築、積み付け高さの統一などは今後の検討対象だ。
パレットは倉庫やトラックと同じく、物流における資産の一つだが、荷物と共に移動し、複数の関係者によって利用されるという特徴がある。そのため、正当な権利を持たない者に流用される場面もある。
パレットメーカーやレンタル事業者も含めて、パレットを適切に管理するとともに、社会全体がパレットを資産として再認識することが必要となる。
パレットの標準化は長年に渡り必要性が指摘されながら充分に実現してこなかった。2024年問題が目前に迫り、物流の危機が認識されつつある今こそ、「古くて新しい課題」に、本気で取り組むべきではないだろうか。
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