長年F1を取材しているベテランジャーナリスト、ルイス・バスコンセロス氏が、全20人のドライバーのグランプリウイークエンドの戦いを詳細にチェック、独自の視点でそれぞれを10段階で評価する。今年2回目のスプリントフォーマットとなった第11戦オーストリアGPでは、シャルル・ルクレールが第3戦オーストラリア以来の悲願の優勝を達成。レッドブルリンクでのそれぞれのドライバーたちの戦いぶりを、バスコンセロス氏が振り返る。
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■評価 10/10:ライバルを3回オーバーテイク、ようやくふさわしい結果をつかんだルクレール
シャルル・ルクレール(フェラーリ)はスペイン以来、不本意な成績が続いてきたが、オーストリアで4月以来の優勝を達成、ようやく彼にふさわしい結果を手に入れた。金曜予選ではポールポジションを逃し、スプリントでマックス・フェルスタッペンの後ろにとどまった。だが土曜の慎重な戦略が、日曜の勝利への足掛かりとなった。フェラーリにはレッドブルに対してタイヤでのアドバンテージがあることが分かったのだ。決勝中にフェルスタッペンを3回オーバーテイクしたというのは記録的な快挙だ。そのなかでターン4入口で飛び込んだ最初のオーバーテイクが、実質的にルクレールの勝利を決定づけたと言えよう。
■評価 9/10:トップドライバーの素質を見せたミック
マックス・フェルスタッペン(レッドブル)のポールラップの最終セクターは見事だった。スプリントで圧勝したが、決勝ではルクレールに完敗。しかし、フェルスタッペンにとって2位は最高のダメージリミテーションだった。
カルロス・サインツ(フェラーリ)は、エンジンがブローしなければ、フェラーリ1-2を達成していたはずだ。週末を通して非常にレベルの高い仕事をし、ルクレールの後ろにぴったりつけていた。しかし、彼にとって残念だったのは、ルクレールの方が常に少しだけ速かったことだ。
ミック・シューマッハー(ハース)は、F1に参戦して初めて、トップドライバーとしてのポテンシャルを示した。スプリントでのチームの保守的な戦略に対して見せた怒りは、父ミハエルの強い決意を思い起こさせるものだった。予選とスプリントではケビン・マグヌッセンに敗れたものの、日曜決勝で見事な走りを見せて、これまでのF1キャリアのなかでの自己最高位を獲得、一度はルイス・ハミルトンをオーバーテイクしてみせた。
■評価 8/10:アロンソが数々の不運のなかでポイント獲得
ルイス・ハミルトン(メルセデス)が3戦連続表彰台を獲得。メルセデスが過激な実験をしない場合には、チームメイトよりも速いということを証明した。予選では珍しくミスをして、スプリントで9番手スタートになり、スプリント中も大きく順位を上げることができなかった。日曜決勝では、序盤にシューマッハーに抜き返される場面はあったが、その後はしっかりとポジションを確立していき、後方に大きなギャップを築いた。
フェルナンド・アロンソ(アルピーヌ)は再び最高のパフォーマンスを見せた。しかし多くのテクニカルトラブルとチームのミスによって、ふさわしいポイントを得ることができずに終わった。予選ではチームメイトに敗れ、スプリントではスタートすらできなかった。しかし決勝の戦いぶりは見事だった。ハードタイヤスタートの戦略を機能させ、左フロントタイヤがきちんと装着されていないと気付いた時には素早く行動して失格を回避し、ポイントを獲得した。
エステバン・オコン(アルピーヌ)は今年ベストの週末を送り、アルピーヌに大量ポイントを持ち帰った。予選で5番手、スプリントでも予選でもハース勢の前の位置を守り切った。彼の活躍で、アルピーヌはマクラーレンと同ポイントで並ぶ結果になった。
■評価 7/10:ラッセルが珍しいミス
ジョージ・ラッセル(メルセデス)は予選で今までにないミスをした。そのクラッシュは大きなマイナスにはならず、スプリントでも堅実なレースをし、決勝へとつなげた。だがオープニングラップで状況が悪化。セルジオ・ペレス相手に抵抗しすぎて、ペナルティが出され、マシンにもダメージを受けてしまったのだ。今回の週末はチームメイトのパフォーマンスには及ばなかった。
ケビン・マグヌッセン(ハース)がチームメイトとともに入賞し、ハースにとって今季ここまでで最高の週末となった。マグヌッセンは予選は素晴らしかったが、レースではシューマッハーほどの速さがなかった。
ランド・ノリス(マクラーレン)はオーストリアを得意としているが、今年のマシンにはトップで戦えるだけの速さがなかった。FP1をトラブルで失ったのも痛かったが、それでもチームメイトよりは速かった。オーストリアでのマシンはハースほどの強さはなかったにもかかわらず、マグヌッセンに勝った。
アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)が、マシンアップグレードの力をようやく発揮する機会を得た。このマシンには予選Q2に進む能力があるようだ。スプリントではノリスとのインシデントでペナルティを受け、決勝グリッドが下がってしまった。トップ10入りを果敢に狙ったが、終盤、タイヤがだめになった。
■評価 6/10:フェルスタッペンとの差が再び開いてしまったペレス
セルジオ・ペレス(レッドブル)がフェルスタッペンと互角に渡り合っていた時期はあっという間に過ぎ去り、オーストリアでのペレスは昨年と同じレベルに戻っていた。予選は悲惨で、トラックリミットを破らずにラップをまとめるということができなかった。土曜のスプリントでは良いレースをしたものの、日曜のレースの1周目で自らすべてを投げ出してしまった。ターン4のアウト側からラッセルに仕掛けたが、その動きがうまくいかない可能性が高いことは明らかだった。
オーストリアはアルファロメオが速いと予想されたトラックだったが、そこでバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)は新しいパワーユニットを投入したことでグリッドペナルティを受けた。スプリントと決勝を経てなんとかポイントをつかむことを目指したボッタスは、予選では速さがなく、スプリントではターボの問題が発生。日曜に新しいエアロセッティングで臨むことに同意、しかしそれは結果に結びつかなかった。決勝で良い走りをしていたものの、最終ラップでアロンソに10位1点を奪われた。
チームメイトの周冠宇(アルファロメオ)は時折輝きを見せたが、予選は下位に沈み、スプリントのスタート直前に問題に見舞われた。後方からポジションを上げていったスプリントは彼にとってこの週末のハイライトといえるだろう。しかし日曜の決勝では順位を上げることができなかった。アルファロメオはこのサーキットで期待したような競争力を持っていなかった。
ダニエル・リカルド(マクラーレン)にはオーストリアで良いニュースと悪いニュースがあった。良いニュースは、週末を通してノリスに非常に近いパフォーマンスを見せたこと。悪いニュースは、彼らが乗るマクラーレンには中団勢のトップに立てる力がなかったことだ。それでもリカルドは本来持つ力を時折示し始めている。
■評価 5/10:ストロールは週末を通して後方から抜け出せず
週末を通してランス・ストロール(アストンマーティン)には光るところが見られなかった。予選ではチームメイトのベストラップが取り消されたことで順位を上げたが、それでもQ2に進めず、スプリントでも決勝でもポイント圏内に食い込むことができずに終わった。ただ、チームメイトほどのミスはしていない。
■評価 4/10:ガスリーにとって苛立ちの週末
セバスチャン・ベッテル(アストンマーティン)はQ1の自己ベストタイムをトラックリミット違反で取り消され、スプリントではスピン。決勝では他ドライバーのミスにより接触されて順位を下げた。
ピエール・ガスリー(アルファタウリ)はベッテルとの接触でペナルティを受けた。ガスリーは週末を通して苛立ちを抱えていたように見える。スプリントでは序盤にハミルトンと接触し、マシンにダメージを負ってポイント争いから脱落。日曜決勝でも状況は良くならなかった。ベッテルとのインシデントは完全にガスリーの責任であり、ペナルティを受けたのは当然のことだった。
チームメイトの角田裕毅(アルファタウリ)にとっても良い週末ではなかった。Q2でガスリーに敗れた後、スプリントでも決勝でも存在感を示せなかった。
今もアップグレード版マシンを与えられていないニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)は、週末を通して後方を走り続けた。決勝では縁石を乗り越えた際にマシンのフロアにダメージを負い、最終的にリタイアしなければならなかった。
■全ドライバー評価/F1第11戦オーストリアGP(10段階)
評価 10/10
シャルル・ルクレール:予選2番手/スプリント2番手/決勝1位
評価 9/10
マックス・フェルスタッペン:予選1番手/スプリント1番手/決勝2位
カルロス・サインツ:予選3番手/スプリント3番手/決勝リタイア
ミック・シューマッハー:予選7番手/スプリント9番手/決勝6位
評価 8/10
ルイス・ハミルトン:予選9番手/スプリント8番手/決勝3位
フェルナンド・アロンソ:予選8番手/スプリントリタイア/決勝10位
エステバン・オコン:予選5番手/スプリント6番手/決勝5位
評価 7/10
ジョージ・ラッセル:予選4番手/スプリント4番手/決勝4位
ケビン・マグヌッセン:予選6番手/スプリント7番手/決勝8位
ランド・ノリス:予選15番手/スプリント11番手/決勝7位
アレクサンダー・アルボン:予選11番手/スプリント16番手/決勝12位
評価 6/10
セルジオ・ペレス:予選13番手/スプリント5番手/決勝リタイア
バルテリ・ボッタス:予選12番手/スプリント10番手/決勝11位
周冠宇:予選18番手/スプリント14番手/決勝14位
ダニエル・リカルド:予選16番手/スプリント12番手/決勝9位
評価 5/10
ランス・ストロール:予選17番手/スプリント13番手/決勝13位
評価 4/10
セバスチャン・ベッテル:予選20番手/スプリント19番手/決勝17位
ピエール・ガスリー:予選10番手/スプリント15番手/決勝15位
角田裕毅:予選14番手/スプリント17番手/決勝16位
ニコラス・ラティフィ:予選19番手/スプリント18番手/決勝リタイア