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 たぶん一般の人は、トラックやバスなど大型車を整備している工場を見る機会は少ないと思うけれど、トラックが進化しているように、近頃では大型車の整備工場もずいぶんと進化しています。

 そんな最新の大型整備工場の実際を見聞すべく、昨年8月に移転オープンした北陸ふそう金沢支店を訪ねました。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部  写真/フルロード編集部・三菱ふそうトラック・バス
*2022年6月発行トラックマガジン「フルロード」第45号より


販売会社のもう1つの柱「アフターセールス」

 北陸ふそう金沢支店は、三菱ふそうの直轄(メーカー資本)の販売会社である。ちなみに三菱ふそうの販売会社のメーカー資本の構成比は76%で、残りが地元資本の独立系販売会社だという。

 販売会社なので当然トラック・バスの新車販売がメインの仕事になるが、整備などのアフターセールスも大事な業務になる。

 実は、売り上げ比率は6対4で新車販売のほうが高いものの、利益率が高いのはアフターセールスのほう。そこで、三菱ふそうに限らず、各メーカーとも販売会社の健全経営のためアフターセールスの展開に力を入れている。

 移転オープンした北陸ふそう金沢支店もその流れの一環で、三菱ふそうが2019年からスタートさせた「ミライ」プロジェクトの中で、拠点を移転オープンした最初のケースになるという。

 ちなみに「ミライ」プロジェクトとは、「高品質なサービスをお客様に提供し、また従業員の働く環境を改善することを目的に、国内販売拠点の設備や施設の改良をソフトとハードを組み合わせたアプローチで行なう」プロジェクトのこと。

お地蔵様が見守る販売会社 

 オープン間もない金沢支店は、さすがにすべてが新しい。まず目を引くのが出入り口の間口が広いことで、まるで「門戸を開いてウェルカム!」を象徴しているよう。

 そしてもう1つ注目なのが出入り口の脇にお地蔵様が鎮座していること。これは、元からあった地蔵尊を地元町内会とともにお守りしようと意図したもので、移転に伴い地蔵尊周辺を金沢支店が整備したそうで、「地蔵橋」という昔話の由来の銘版も新たに設置したそうだ。

 ちなみに訪問した前日には、「お地蔵様まつり」も開かれたというから、お地蔵さんのいるディーラーは早くも地元から親しまれているようだ。

移転オープンした金沢支店の整備工場は広く明るく通り抜けができる。最新の整備機器が揃っており、まさに「ミライ」を感じさせる整備工場だ

 ところで、新しい金沢支店は移転してオープンしたわけだが、そもそも元の金沢支店ではなぜ駄目だったのだろうか?
 
 旧金沢支店は、整備工場が金沢サービスセンター、金沢第2サービスセンターの2つに分かれており、入庫管理やメカニックの配分などが非効率だったそうだ。

 加えて、両サービスセンターとも金沢市の市中を走る国道沿いにあったのだが、現在は市中を迂回する幹線道路網が整備され、トラックの通行量も極端に減っていたのだという。

 お話を聞いた金沢支店の藤村亮介支店長によると、

 「行政も将来的には宅地化構想を描いているエリアなので、立地面でだんだん不利な条件が重なってきました。それに金沢サービスセンター、金沢第2サービスセンターとも建物は築50年ほど経っているので老朽化していますし、ストールのサイズも不足しています。50年前に比べて車両も大型化しているでしょう。整備自体も厳格化が求められているので、ストールも大きいサイズが求められているのです。そこで両サービスセンターを統合し移転に適した土地を探していたところ、立地・規模ともに格好の土地が見つかり、ここ白山市番匠町に移転したわけです」。

北陸ふそう金沢支店の実際

 新拠点は、ふそうディーラーコンセプトに基づき、ブランドカラーの赤・黒・白を基調としたモダンな外観デザインとし、建材にこだわることで耐久性と安全性を追求しているという。

 ちなみにバイオ式3次排水処理装置を採用しており、排水は再利用できるレベルまでろ過されているというから環境にも配慮した最新の工場なのだ。

 前述した広い出入り口を入ると、まず目につくのが広大な門型ゲートである。来場したらここにクルマを停め、まずは受付だ。

 「受付エリアと整備工場が屋内でつながり、雨天や降雪時のお客様対応や労働環境に配慮した構造になっています。工場は、大型10ストール・中小型3ストールに相当する整備能力を持ち、多機能リフトなど最新式の整備機器を導入したほか、作業効率向上のため、レーンの前後通り抜けを可能にするなどの配慮を施し、お客様に質の高いサービスを提供できる体制を整えています。また、工場の入庫・作業状況がひと目でわかる『デジタル管理ボード』を事務所とメカニックルーム、入口通路に設置し、入庫管理の円滑化を目指しました。さらに移転を機に、金沢支店には電気トラック用の急速充電設備を設置しました。今日もお客様の『eキャンター』が充電に来ています」。

けん引するトレーラごとリフトアップできる4柱リフト。リフトは、4柱×3基、3柱×1基、大型用2柱×5基、中小型用2柱×3基、2分割フロアリフト×1基を備える

 人への配慮も怠りない。

  「メカニックの労働環境を改善すべく、男女別の浴室・シャワールームを完備しました。また、お客様待合室も男女別とし、リクライニングチェアなどでお客様にとっての快適な空間を志向しています」。

 ちなみに入庫時の平均的な待ち時間は1~2時間だそうで、その間、少しでも待合室で快適に過ごして欲しいという配慮だ。金沢支店の場合、入庫する車両の割合は、大型が3割、中型が2割、小型が5割程度のこと。また、ふそう車以外の入庫は1~2割程度だという。
 
 入庫に際して、このところ増加しているのが三菱ふそうのテレマティクスサービス「トラックコネクト」の活用だ。

 トラックコネクトは、稼働中の車両情報をインターネット経由でリアルタイムにチェックできるサービスで、トラックが発信する情報は、モバイル回線を経由してFUSOデータベース(クラウド)に蓄積。ユーザーがPCで専用ページにアクセスすれば、車両の現在地や運行状況を把握でき、車両トラブル時のスピード対応、業務効率の改善、危険運転の予防などに活用できるもの。

 トラックコネクト対応車が増えたことにより、遠隔診断で大きな故障を未然に防ぐ、いわゆる予防整備にも資するものだ。

 最近増えている故障、減ってきている故障に関しては、こう話している。

 「昨今は車両の電子制御化が進み、あらゆるセンサ―で車両の状況を検知し、路上故障を未然に防ぐようウォーニングランプ等の装備が充実してきました。不具合の兆候が認められると、ウォーニングランプが点灯。さらにトラックコネクトにより運送事業者さんの事務所ならびに販売会社でもリアルタイムで状況を把握できるので、予防整備の事例は増えていますが、そのぶん重篤な故障は減少しています。また、過積載などの過酷な使用状況も減少しているので、スプリングの破損といった機械的な故障も減ってきています」。

北陸エリアでトラックの稼働を支えるために

 北陸ならではの整備としては、車検時にシャシーのスチーム洗浄や塗装をするユーザーがほとんどだそうだ。これは降雪地の融雪剤による防錆対策だ。同じように個人ユーザーでは、車検と同時にスタッドレス/ノーマルのタイヤの履き替えが多いという。
 
 予防整備が増えているといっても、もちろん路上故障など出張整備の要請もあると思うが、その場合、どんな対策を取っているのだろうか?

 「路上や現場での作業は危険を伴います。そこで現地では点検のみ実施して、レッカー車で工場に引き入れて修理することがほとんどです。特に高速道路上は安全性の観点から出張点検も禁止し、最寄りのSAやPAにレッカー移動して応急修理をする対策を取っています。また、24時間サービスに関しては、拠点の営業時間帯は基本的に拠点でサービスの対応を実施。拠点が営業を終えた夜間や休日は、当社契約のコールセンターを介して、委託業者がレッカーを含めたサービス対応をしています。委託業者は地元のレッカー業者で、簡単な部品交換や故障診断、エラーの復帰などを行ないます。それ以上の対応は、金沢支店のメカニックが中心となって出張修理に行ったり電話対応を行なったりしています」。
 
 さて、そのメカニックだが、最近はなり手が少なく、どこの販売会社も苦労しているのが実情だ。金沢支店はどうだろうか?

 「やはり従業員の確保には苦労しています。リクルートに関しては、各学校におけるリクルート活動、紹介業者やハローワークへの登録、また外国人技能実習生の採用などを続けています。金沢支店には現在インドネシア国籍の実習生が2名おり、今年の5月で満3年となり、延長せず帰国します。とても優秀な人材で日本人の新人を指導する場面もありました。現時点では今後の実習生の採用予定はありませんが、現在途中採用での補充に向けて動いています」。

 ちなみに外国人技能実習生制度に関しては、2016年4月から「自動車整備職種」が追加され、さらに2019年4月から特定技能が制度に加わったことにより、三菱ふそうにおいても総メカニック数約2400名のうち、計約250名の外国人技能実習生・特定技能性が現在も全国の拠点で技能実習を行なっているという。

 中でも半数以上を占めるのがインドネシア国籍の人たちで、これは三菱ふそうがインドネシアで長年トップシェアを確保していることとも無関係ではないだろう。インドネシアで圧倒的なブランド力を有しているので、帰国して三菱ふそうのサービスマンとして活躍する人も多いのではないか。

3K現場からの脱却を目指して 

 ところで整備工場の仕事の環境は、俗に3K現場などとも指摘されることもあるが、金沢支店ではこういった汚名を返上するため、どういった工夫をしているのだろうか?

 「これは、お客様に質の高いサービスをご提供することと軌を一にしているのですが、まずは、作業効率を向上するため、作業レーンの前後通り抜けを可能にするなどの配慮をしました。また、前述したように入庫管理を円滑に行えるよう、工場の入庫・作業状況がひと目でわかる『デジタル管理ボード』をフロント・コントローラーのいる事務所、メカニックルーム、および全体打ち合わせを行なう工場入口通路に配置し、高効率な管理を目指しています。さらに労働環境の改善として男性メカニック用に浴室を、女性用にシャワールームを設置。整備フロアには女性用トイレも設けています。このほか、プッシュプル式および局所排気装置を用いた専用の塗装ブース、使用用途に応じた専用ジャッキの完備、廃油・廃液&ダストを一括して吸引するMVシステムの完備など、かなり3Kのイメージを払拭できたのではないかと思います」。

デジタルサービスセンターを象徴する「デジタル管理ボード」。工場の入庫・作業状況等がひと目で確認できる

 確かに工場内を見せてもらうと、作業するスペースが広く明るいことがとても印象的で、作業効率の良さそうな最新の整備機器も多数採用されていることがわかる。

 三菱ふそうがスタートさせた「ミライ」プロジェクトは、全国のどの地域でも質の高いサービスが受けられることを謳っており、三菱ふそうがさらにアフターセールスに力を入れるとの決意表明でもある。この10年でトラックが大幅に進化したように、大型整備の現場も「待ちの整備」から「予防整備」「予兆整備」へと大幅に進化している。

 ただ、その進化に追いついていないユーザー/ドライバーもまだまだ多い。昔ながらの整備ではなぜ駄目なのか、きちんと説明し納得してもらう必要がある。メーカーや販売会社の都合だけではなく、ユーザー/ドライバーにいかにメリットを供与できるか、大型整備の新しい展開の成否はそこにかかっていると思う。

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