国産では初となる新型コロナウイルス感染症経口薬の実用化を目指していた塩野義製薬が正念場を迎えている。20日開催の薬事・食品衛生審議会(厚生労働相の諮問機関、薬食審)の合同会議は同薬の緊急承認について継続審議を決定。同社が行う最終段階治験データなどを踏まえ、改めて議論することとした。同部会でも最大の論点となった有効性を示せるデータを提出できるかが今後のカギを握る。
「異議なし」。東京・新橋にあるビルの一室では継続審議を提案する座長の問いかけに対し、こんな言葉が飛び交った。2時間を超す白熱した議論の末、塩野義が開発中の新型コロナウイルス感染症経口薬「ゾコーバ」の緊急承認が全会一致で見送られた瞬間だった。
ゾコーバは塩野義と北海道大学との共同研究の成果として創製された抗ウイルス薬。新型コロナウイルスが増殖に必要とする酵素「3CLプロテアーゼ」を選択的に阻害する働きを持ち、これにより同ウイルスの増殖を抑え込むとしている。塩野義が実施した治験では、ウイルス量の減少が確認できたとしている。
実施した第2/3相臨床試験(P2/3)のP2後半段階での結果に基づき、塩野義は2月、ゾコーバの国内承認申請を行った。感染症が急拡大した時などにワクチンや治療薬を特例的に認める「緊急承認制度」が5月にできたことを受け、途中、同制度に基づく申請に変更。同制度による初の申請としても注目を集めていた。
だが、満を持して臨んだはずの6月の薬食審の医薬品第二部会は厳しい結果に終わった。20日に公開された議事録などによると、塩野義の治験では有効性を示す科学的根拠となる主要評価項目が達成できなかったことを問題視する声が相次いだ。
「臨床試験としては失敗であったため、(緊急承認の条件の一つである)有効性の推定はできていない」「ウイルス量が減少することで感染を抑えたり、重症化を抑えたりするとの主張は想像に過ぎない」。こんな意見が続出し、ゾコーバに対する肯定的な見方は一部にとどまった。このため、緊急承認の可否の結論を持ち越すこととし、同部会と上部組織である薬事分科会の合同会議へと場を移し、改めて審議することとなった。
20日の合同会議では、冒頭、事前審査を行った医薬品医療機器総合機構(PMDA)の藤原康弘理事長が概要を説明した。ウイルス量の減少などは認めたものの、提出を受けたデータからは「ぱっと見、差がないというのが普通の感覚」と語り、「有効性の推定を満たしていない」との見解を示した。そのうえで、11月にもまとまる見通しのP3の結果で再検討すべきだとした。
一方、参考人として出席した感染症専門家らからは、ゾコーバの臨床的意義を認め、緊急承認を求める声が大勢を占めた。例えば、富山県衛生研究所の大石和徳所長は、主要評価項目が達成できなかったことなどに関し、軽症者の多いオミクロン株流行下での治験で差がつきにくかったと理解を示したうえで、「緊急承認は可能」と強調した。いわゆる“第7波”が到来していることを踏まえ、「症状緩和などに役立つ。インフルエンザ薬のように投与できる」との見方も披露した。
だが、こうした意見は少数派にとどまり、現場の医師らを中心に部会のメンバーからは否定的な意見が目立った。
有効性が推定できないことに加え、新たに論点として浮上したのが臨床現場での使いにくさだ。具体的には併用できない医薬品が多いこと、催奇性の恐れから妊婦らには投与できないことの二つで、とくに後者に関しては「女性患者には怖くて使えない」(上村裕子・日本医師会常任理事)との声まで上がった。ただ、最終的にはP3など有効性が推定できるデータの提出があれば緊急承認の再審議ができるとして、継続審議とすることで一致した。
<今後の対応方針は「協議中」>
今回の結果については、塩野義は今後の方針などに関し、「対応を協議中でコメントできない」(広報)とするにとどめている。また、100万人分を買い上げるとの政府との合意がいぜん有効であることなどから、ゾコーバとワクチンで1100億円の売り上げを見込む2023年3月期の業績予想も、「現段階で見直す予定はない」(同)としている。
新型コロナウイルス感染症薬の開発などを手がけたある製薬企業首脳は、「感染症を対象とした治験は難しい」と語る。とくに未知の感染症の場合、症状の進行や変化も見通せず、最適な臨床試験のデザインを組み立てるのが至難の業だという。株の違いによって症状が大きく左右される新型コロナウイルスではなおさらだ。
P3データの内容次第とはいえ、緊急承認への道が残った格好のゾコーバ。有効性を示すことのできる最終治験が組み立てられるか。塩野義の真価が問われている。
新聞 PDF版 Japan Chemical Daily(JCD)
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