昨年の終わり頃、『絶滅危惧動作図鑑』(藪本昌子著)という本が話題となった。テレビのチャンネルダイヤルを回すなど「最近あの動きしなくなったよね」という動作を紹介する内容だそうだ。
残念ながら筆者はまだ目を通していないのだが(ゴメンナサイ)、それを聞いて思い出したのが、今は亡き父親の動作だ。父は寝っ転がったまま、テレビのチャンネルを足で回していた。バカボンのパパみたいな格好で、足の指で器用にダイヤルをつかんで……。
クルマにもそんな懐かしい動作がいろいろある。最近我が家には、車齢30年超のクルマが3台もあるから、絶滅危惧動作を実行することもしばしばだ。そんな動作を集めてみた。
※本稿は2022年2月のものです。
文/清水 草一、写真/Adobe Stock(メイン写真:natallia@Adobestock)、ベストカーweb編集部
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■どんな絶滅危惧動作?/サイドウィンドウの開閉の際、くるくると手動のウインドウノブを回す
パワーウィンドウがついていないクルマの場合、あまりにもアタリマエの動作だが、なにせパワーウィンドウがついていないクルマがほとんどなくなってしまったので、若い層はその存在すら知らない。
我が家のハイゼットトラックジャンボ(1990年式)には、それがついている! クルクル回してるよ! と言っても特にどうということはなく、ただクルクル回すだけなのだが、昔の洗濯機の脱水機(2本の棒の間に洗濯物をはさんでクルクル回して水分をしぼる)のがウルトラ珍しいのと同様、ハンドルをクルクル回すだけでウレシイ。
考えてみると、自分がこれまで乗ってきたクルマで、パワーウィンドウがついてなかったのは、免許を取って間もない頃(1980年)の姉のサニークーペ(73年式?)以来! 40年前の時点でほぼ絶滅危惧動作だったのですね。
■どんな絶滅危惧動作?/助手席のシートに手をかけて、後ろを見ながらバックする
神話的なクルマ動作である。これをやると女性にモテるという神話もあった。助手席のシートに手をかける際、まるで抱き寄せられるような感覚を覚えるのは確かなようだ。
相手がほのかに好感を抱いている男性なら、効果は絶大(断言)。
バブル期までは、運転がうまいことは男の重要なポイントだったので、これをやりながら駐車を一発でキメるのは、とても価値あることだった(と信じる)。オッサンになった今は、何をやろうと関係ないですが……。
私は最近まで、これを当たり前のようにやっていた。バックモニターがついても、そんなものは信用できず、自分の目で見ないと不安だったからだ。
ところが、いつの間にかこれをやらなくなっていた。理由を考えたところ、首を真後ろにねじるのが年齢的にキツくなってきたからのようだ。オー・マイ・ゴッド!
現在は3つのバックミラー+バックモニター+センサーを頼りに、前を向いたままバックするのが主流。
依然、駐車でモタモタするドライバーは多いので、一発で駐車をキメることの価値は完全には消えてはいないが(と思う)、ごく最近登場した高性能な自動パーキング機能(アクアやノア/ヴォクシーに搭載)を見ると、それも絶滅寸前なのだろう。
ちなみに私はカウンタックを2回買ったので、バックするときは例の「カウンタックリバース」も練習した。
助手席にレースクイーンを乗せて、カウンタックリバースを実行したこともある。ものすごく昭和っぽくて泣けてくるが……。その時彼女は、ただただハラハラしていた様子だった。涙。
■くわえタバコの運転テクニック
昔は喫煙率が非常に高く、運転しながらタバコを吸うのがカッコいいとされていた。
昔の映画を見ると、アラン・ドロンやスティーブ・マックイーンといった名優たちが、慣れた雰囲気でタバコを吸いながらカーチェイスをしていて、超カッコよく見えた。
ポイントは、どちらかの手にタバコを持ちながら片手運転しつつ、両手を使う必要がある時だけくわえタバコになること。
その上で、灰皿に正確にタバコの灰を落とせれば完璧! いまはもう、クルマに灰皿もついてない。
■窓を開けてフロントピラー内蔵アンテナを延ばす
手動で伸ばすフロントピラー内蔵アンテナがほぼ完全に絶滅したのは、比較的最近のことではないか?
「比較的最近」が20年くらい前という感覚だが、たぶんそれくらいかと……。
フロントピラー内蔵アンテナは、ルーフの上に飛び出るので、運転席からは見えない。
つまり手探りで伸ばすわけで、これを慣れた手つきで行うのは、ドライバーにひそかな自己満足を与えてくれた。「俺は慣れてるぜ!」的な。
これと、「ウィンドウハンドルをクルクル回す」が合体すれば、昭和のクルマ動作の王道!
■電動アンテナを伸ばす
手動のフロントピラー内蔵アンテナは、比較的安価なクルマに多く、少し上級車種には、80年頃から電動で伸縮するアンテナが装着されるようになった。
ラジオをつけてからこれを伸ばすにつれ、受信状態が目に見えて良くなるのがうれしかった。
アンテナがついていたのは、主にトランクの横。
金属のアンテナが電動で長く伸びて行くのが、なんともカッコよく思えたものだ。そんなことに喜んでいた自分が愛らしい……。とにかく当時は、ラジオをつけるやいなや電動アンテナを伸ばす! という一連の動作があった。それを慣れた手つきで行うことに、かすかな自己満足を得ていた。
現在所有するフェラーリ328(1989年式)は、昔のクルマだけに、懐かしの電動アンテナがついている。
ただし、一度も伸ばしたことがない。フェラーリを運転しながらラジオなんか聞かないかし、アンテナなんか伸ばしたら、あの美しいシルエットを損なうので。
■クルマを停める前に、一発空ぶかしする
キャブレター時代の儀式で、燃焼室内にガソリンが残ることで、プラグが湿ってカブらないようにするための動作だった。
ただ、実際にコレが必要なのは、高回転型のレーシングエンジン系で、普通のクルマに必要だったのかどうか定かではない。
その後電子燃料噴射になっても、相変わらずこれを実行する者は存在したが、無意味だったことは言うまでもない。
ちなみに我が家の自家用車のうち、2台がキャブレター車。カウンタックと軽トラです! でも、この動作、やってません。必要あるのかどうかすらわかりません。
■内掛けハンドル
パワーステアリングが普及するまで、ハンドルは概して重いもので、その重さを軽減するために、ハンドルをたくさん回す際、ハンドルを内側を持って引き下ろすようにする動作が行われた。
現在でもたまに見かけるが、ノンパワステのクルマが絶滅しているので、どこにメリットがあるのか不明。
だいたいパワステがなくても、あれでハンドルが軽くなるとは、私には思えない。
現在の私の愛車4台のうち、3台がパワステなし(フェラーリ、カウンタック、軽トラ)なれど、内掛けハンドルは一切使ってない。
あれも一種のカッコつけだったのだろうか。
■MT関係/MTのニュートラルを確認するため、シフトノブを左右にブルブルゆする
現在、日本におけるMT車の販売割合は約1%。MTが絶滅寸前のため、MTにかかわる動作もすべて絶滅寸前だ。
MT車の場合、ギアがどこに入っているかを確認するのはとても重要だ。
特に停車の際は、クラッチを上げる前についこれをやってしまう。なんだか心配性っぽいよなぁと思いつつ、ついやってしまう。ほとんど癖のようにやってしまう。
ダサいからやめたいと思いつつ、「本当にニュートラルかな?」という疑念が沸くと、やらずにはいられない。ただしフェラーリやカウンタックの場合、ギアレバーがとても固いのでブルブルはせず、軽く動かす程度。
■ヒール・アンド・トウ
一応説明しますと、MT車で減速しながらシフトダウンする際、つま先でブレーキペダルを踏みながら、かかとでアクセルをあおって回転を合わせることを目的としたテクニックです。
これができないと、サーキットやワインディングロードで速く走ることはムリなので、昔はクルマ好きの必修科目だったが、実際にちゃんとできるのは一部のディープなクルマ好きだけだった気がする。
学生時代、私の周囲でそんなの練習してたのは私だけでした。ただこの動作、スムーズにやると、同乗者にはわからない。特にAT車しか知らないような世代には、アピール力ゼロだ。
そこで私は、コレをやる時必ず、『サーキットの狼』の風吹裕也のように、「ヒール・アンド・トウ!」と叫ぶようにしている。ここまでやれば、若い層にも「この人、なにかやってるらしいわ」と思ってもらえる……だろう。
ちなみにヒール・アンド・トウは、ペダル配置によってはヒールでアクセルをあおることができないので、つま先の左右で2つのペダルを踏み分ける「トウ・アンド・トウ」に変更する必要がある。
フェラーリのアクセルペダルは吊り下げ式で、ブレーキペダルとほぼ並んでいるので、トウ・アンド・トウじゃないとダメ。初めてフェラーリを買った時、これを練習するのに苦労しました……。
現在愛車の軽トラ君も、ほぼ同じようなペダル配置なので、トウ・アンド・トウを使っている。ただし叫び声は「ヒール・アンド・トウ!」一択。だって風吹裕也のセリフだから!
カウンタックは、ヒール・アンド・トウを行うのに理想的なペダル配置なので、気兼ねなく「ヒール・アンド・トウ!」と叫ぶことができる。
■ダブルクラッチ
MT車のシフトダウンの際、一度クラッチペダルを踏んでギアをニュートラルにしてから、アクセルを踏んでエンジン回転を上げ、もう一度クラッチペダルを踏みギアを入れる。この一連の作業を素早く行うのがダブルクラッチだ。
五木寛之先生の短編小説に、ずばり『ダブル・クラッチ』という作品があり、私は若い頃熟読した。郷ひろみ主演で映画化もされた。
ダブルクラッチも一応練習したけれど、本来、ギアのシンクロメッシュが「ない」とか「弱い」クルマのためのテクニックで、私のような中高年ですら、そんなクルマを愛車にしたことがなく、ある意味空想上のテクニックだった。
この動作を懐かしむドライバーは、たぶん80歳以上だろう。
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