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 トラック業界の男社会の中で「女だから」という周囲の視線や言葉に反発し葛藤していためぐみさんですが、あるとき、そんなに片意地を張らなくてもいいんだ、あるがままに認めてしまえばいいんだと悟ります。

 元来「人生は、頑張れば意外となんとかなる」がモットーのめぐみさんですから、ポジティブな生き方こそ彼女の身上。それからは持ち前の頑張りに柔軟なハートをプラスして、目標を定めてステップアップしていきます。

 その目標とは、重量物を運ぶ平ボディのトレーラ乗りになること。めぐみさんは遂にその夢をガッチリ掴みます!

 ドンくさく、人としても運転手としてもまだまだ半人前というめぐみさんですが、今では中低床の鋼材トレーラを牽引して全国を駆け巡り、スカニアでの「車上生活」を楽しんでいます。めぐみさんの「素顔の自叙伝」は、読後ニコニコの笑顔が伝わる爽やかな一編になりました。

文/トレーラドライバーめぐみさん 写真/フルロード編集部
*2018年12月発行トラックマガジン「フルロード」第31号より


面倒くさい奴からの脱皮は素直になって自分を認めること

 男社会の壁にぶつかってばかりいましたが、でも、そんなことがあって気づいたのは、人それぞれ、その人なりの言い分や事情があるから、一歩引いて物事を見ることの大切さですかね。

 私からこの話を聞いた人は私の味方になってくれて「そういうことをする人が悪い」って言ってくれるけど、たぶん向こうの人から話を聞けば、その人が正しくて私が悪い……。

 どっちの言い分も聞いた人からしたら、どっちもどっちで、言い分のすれ違いや勘違いからモメごとって起こるのかな? ちゃんと相手の話を一歩引いて聞ければ、互いに納得できたりするんじゃないのかな?

 それからは何かあっても、「その人にも私にはわからない事情があるんだろうからしょうがないか」で済ませられるようになってきました。もちろん私はそんなにできた人間ではないので、全部が全部ではないですけどね(笑)

 そんなこんなで、がむしゃらに4t平ボディで仕事をしていたら、やはり大型に乗りたいって思うようになってきました。会社に訴えたのですが、そこはまたいつもの決まり文句。

 「お前は4tでどんな仕事も充分できるのはわかる。でも10tになると、その分シートも重くなるし、さすがに10t平ボディの仕事は女のお前には無理だ」。ハイ、出たー! どんなに4tで頑張っても大型にステップアップしようとしたら、また女の壁が出て来た(笑)。

 結局、社長に引きとめてもらったけど、どうしても大型平ボディの仕事がしたくて、女には無理だと思われているなら、無理じゃないところを見せたくて、なんとか大型の平ボディに乗せてくれる会社を見つけて、いろいろあったけれど大好きだった4tの会社を辞めて、いよいよ大型に乗ることになりました。

 あとは4tの時と似たようなものです。いろいろなところで「女だから」と言われる度に「ピクッ」ってしながらも、がむしゃらに仕事をしました。ほぼ長距離メインで、全国のいろいろなところに行かせてもらいました。

 1~2週間出っぱなしで全国回って、いろいろな荷物を積んで、いろいろな道を走って、いろいろな景色を見て、いろいろな美味しいもの食べて、全国各地の温泉入って、仕事しながら旅しているみたいで楽しくて充実していました。

 そんな中、男の人達はよく、大型でドラム缶を運ぶ仕事をしていました。「私もやりたい」って会社に言ったら、いつもの「女のお前にはドラム缶を起こせないだろ」。ずっとそうやって「女には無理」って言われてきたことも、時間がかかってもなんとかやり遂げてきたので、今回もやればできると思って、水を満タンに入れたドラム缶を起こす練習をさせてもらいました。

 小さい木を下にかまして、ほんの少しでもドラム缶が斜めになっている状態からなら起こせるようになったのですが、普通の状態からはどうしても起こせない。半年くらいコツコツ練習したけど、ダメでした。

 そこで初めて「女には無理」ということがあるのを思い知らされました。中にはできる女の人もいると思うので、「女には無理」というより「私には無理」が正解ですね。

 普通だったら悔しいはずなのに、なぜかその瞬間、今まで意地になっていた「女だから」という言葉を、すんなり受け入れることができるようになって、今まで必死になっていたことがなんか笑えるようになって、素直に「無理なものは無理なんだな」って思えて、すごく気が楽になりました。

 今まで言われるのが嫌だった「女の子は良いよね」って言葉にも素直に「良いでしょ」って言えるようになって、手伝ってくれる人たちにも「ありがとうございます」って素直に言えるようになりました。

 「できないことを認めるって大切なことなんだな」って思うと同時に「なんで早く認めなかったんだろう。バカみたいに片意地張って、何してたんだろ?」と目が覚めました。

 それから何年かが経ちました。積み込みに行った先で「トレーラの免許取ってきたらトレーラに乗せてやるから、うちに来い」って誘われました。それが現在勤めているトレーラの会社です。

 私をこの会社に誘ってくれた人は、イケイケの無茶苦茶な人で、免許を取って入社して、まだフルサイズのトレーラに乗ったこともない私に、横乗りなしでいきなり「先輩と2台で、栃木で積んで大阪に行け」の指令(笑)。

初めてのトレーラでいきなりの大阪行き

 教習所の小さいトレーラに乗っただけで、12mの台車を引っ張ったこともないのに……。そもそもこんな大きいの、車庫から道路に出るまでの入り口でさえ「これ、曲がって出られるの?」って思うくらいでした。

 でも、今まで何もやる前から「女だから無理」って言われ続けてきた私には、このチャンスを逃したら「やっぱり女には無理か」って思われるのが嫌なのと、いきなりトレーラに乗るというチャンスを与えてくれたこの会社と上司の期待に応えたくて、「わかりました。行きます」の一言で、乗ったこともないトレーラを運転して大阪に行って荷物を降ろし、和歌山で帰りの荷物を積んで千葉に帰ってきました。

 たぶん私よりも大変だったのが一緒に行ってくれた先輩だったと思います。ちょっと休憩するにも客先に着いても、とにかく停まるたびに先に自分のトラックを停めて、私のバックを毎回毎回誘導してくれました。

 それから1カ月、その先輩と2台で、毎日同じ行程で長距離を走っていました。バックが全然上達しない私にイラつくこともなく、停まるたびに誘導してくれて、励ましてくれました。先輩一人ならどこでも停まれるのに、まともにバックできない私でも停まれる広いところを探してくれて、いろいろ大変だったと思います。

苦手だったバックも取材時には見事に一発で決めてくれました

 トレーラに乗り始めて2カ月くらいはバックが思うように行かなくても、慣れればそのうちできるだろうと軽く考えていましたが、全然思うように上達しなくて、「トレーラのバック、一生できるようにならないのかも」と、心が折れかけていました。

 焦りと不安と自分へのいら立ちと、くじけているのが人に知られるのが恥ずかしくて、心はしょんぼりしていても、そのしょんぼり感は外には出さないように……。

 私をこの会社に誘ってくれた上司は「まだそんなに下手くそなのか」と厳しく指導してくれました。でも、一番身近にいて、一番私の下手くそっぷりを知っていて、むしろ一番イライラしてもしょうがない先輩は、何も言わずに「大丈夫だよ。そのうちできるようになるから」と、あーだこーだ言うこともなく、私のペースに合わせて見守ってくれていました。

 あの時、先輩がいろいろ言ってくる人だったら、言われたこともできないと自己嫌悪に陥って、もっとくじけていたと思います。

 努力と根性でなんとでもなると思っていたけど、トレーラに乗るようになって、それだけじゃなんともならないこともあると感じるようになっていました。でも心が折れたらもうそれで終わりになってしまうので、「なんとしてでもこの業界でプロになりたい!」って気持ちで、全力で食らいついて行っています(笑)。

 今の仕事はコイルを積んだり、鉄骨を積んだり、いろいろと鉄鋼関係が多いです。シート掛けをしたり、ガッチャを何丁も使ったり、台木をたくさん使ったり、10tの時と比べて使う道具自体が重いので、40歳近いオバちゃんな私には大変な時もたくさんありますが、どんなに大変でも、積んで養生し終わった時の「できたー!」という達成感が大好きです。

 仕事の流れですが、たとえば月曜日の朝、荷物を降ろしたら、茨城の鹿島に行ってコイルを積んで関西に行き、火曜日の朝に関西で荷物を降ろしたら、倉敷に行って荷物を積んで、といったことの繰り返しですね。もちろん行先は全国各地になりますが、週末だけ営業所のある千葉に戻ることが多いですね。

 家に帰るのは月に1回くらい。旦那さんと高校1年の娘が仲良く家を守ってくれています。ですから、ふだんはトラックのキャビンが私のマイホーム。ご飯はどうしてもコンビニの食事が多いですね、しかも走りながら食べる……。

 お風呂は宇佐美なんかのガソリンスタンドでオジさんたちに混じってシャワー待ちです。中にはカビだらけの汚いシャワー室がありますが、気にもなりませんから、完全にオッサン化している(笑)。

 こういう生活がまったく苦にならないし、腰痛なんかもないから、この仕事は私に向いているんでしょう。

 箱車にはまったく興味がなくて、平ボディが大好きなんです。とにかく大きい荷物を運びたい。うちの会社には13~14台のクルマがあって、1台だけ10t車がありますが、あとはトレーラなんです。

 その中に8軸トレーラが1台あるんですが、いつも憧れの目で見ています(笑)。まだまだ未熟者ですが、いつかは「平乗り」(平ボディ乗り)の道を究めたいですね。

先輩たちに恵まれ仲間としての絆も

 私もいろいろな職場を経験してきましたが、いまの会社はどこよりも先輩たちに恵まれていると思います。本社は和歌山ですが、本社の先輩たちとはたまにしか会わないけれど、わからないことがあって電話やLINEで連絡すると、すごく親切に教えてくれるし、たまに一緒になると手伝いに来てくれたり、「ご飯一緒にいくか?」と誘ってくれたり、アットホームな感じで大好きです。

 そして嬉しいことに、仕事もまだまだな未熟な私に、会社は新しいスカニアを購入してくれました。

 先輩方を差しおいて、まだ入社して2年足らずの私にスカニアなんて「まだ早い!」というブーイングの嵐が起きるかと思っていたのですが、「良かったね!」「乗り心地どう?」などと一緒になってワクワクしながら気にかけてくれ、とても喜んでくれました。会社も先輩たちもとても懐が深いんです。

 ちなみにそのスカニアですが、今も車上生活者の私にとって、何よりもキャビンが広くて大きいのでとても快適です。パワーもあるし運転もしやすいと思います。でも、ここだけの話なんですが、私自身、トラックに乗っているのにトラックのメカのことはよくわからないんですよ(笑)

めぐみさんが乗るオレンジカラーのスカニア。3軸の中低床トレーラの積荷は鋼材コイルだ

 スカニアに乗っていると、SA・PAなどで他の会社の運転手さんが寄ってきて、いろいろ専門的なことを聞かれるのですが、ほとんどまともに答えられません。ハハハ、完全に「宝の持ち腐れ」ですね(笑)

 ところで私が在籍する千葉の営業所はドライバー3人で平和に居心地よく楽しくお仕事をしていたのですが、去年の年末に大好きだった先輩2人が急に辞めちゃいました。私をこの会社に誘ってくれた上司も一足先に辞めていたので、私一人が会社に取り残される形になりました。

 先輩二人が辞めるって知ったのさえ、直前に周りの人から「○○さん、辞めちゃうの?」みたいに聞かされて、何も知らなかった私は「え、何が?」みたいな感じでした。

 「なんで教えてくれなかったんだろう?」とか、「これから一人でやっていけるんだろうか?」とか、一気に頭がパニック状態になって、会社の人が辞めちゃうってことでこんなに動揺したのは初めてでした。

 ただ、千葉の営業所は、運転手は私一人ですが、支店長さんはいつも私を気づかってくれるし、配車係の女性も私と年が近いこともあって、プライベートでも仲良くさせてもらっています。

 配車に際しても私の体調や予定を考慮してくれるし、なおかつ売り上げが上がって稼げるように配慮してくれるので、とても感謝しています。

 それに本社の先輩たちがたくさん助けてくれるので、運転手が一人でも不安はもう全くありません。むしろ、和歌山の先輩たちが気にかけてくれるようになって、仲間として受け入れてもらえたような気がします。

 運転も仕事も人としても、すべてにおいてまだまだ未熟者の私ですが、運転も仕事もプロの、カッチョいい先輩たちの背中を見ながら、いつか自分もそうなれるように、日々頑張って行きたいと思っています。

 そして、これを読んでいただいた皆様に何よりも一番伝えたいことはただ一つ。「意外となんとかなる!」ってことです。「こんなの無理だ」とか「もうダメだ」とか思っていても、その環境を受け入れて、その環境なりに努力して対応していると、なるようになることって意外と多いと思います。「そんな簡単なもんじゃない」って、気を悪くする人がいたらゴメンナサイ(笑)

 でも「自分には無理そうだから」「むずかしそうだから」って、何かしてみたいけどその一歩が踏み出せずにいる人がいたら、この「頑張れば意外となんとかなる!」精神で、なんでもチャレンジしてみて欲しいなって思います。

 女性ドライバーもそうだと思います。下手っぴでドンくさい私だって、トラック運転手になれたし、今では大切な仲間として認められているんですもん。ぜひ女の子たちにトラック業界に関心を持って欲しいです。

 「女だから無理」って思っている人もまだまだ多い業界ですが、もっとトラガールが増えて、「そーじゃない! 女性でも全然できるんです!」っていうところを見せてあげましょうよ!

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【編集部注】さて、あれから3年半が経った現在のめぐみさんですが、さらなるステップアップをめざして会社を移り、今は超重量を運ぶ会社でトレーラに乗っています。しかもクルマはスカニアからボルボに! めぐみさんの 夢はさらにでっかくなりました。

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