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クラウン受注延期のなぜ? 販売現場大混乱の真相とは

 2022年7月15日、新型クラウンの全貌が明らかになった。予想されていたクロスオーバーだけでなく、SUVのスポーツとエステート、そしてセダンもクラウンとして販売される。ワールドプレミアは、大きな驚きに包まれた。

 しかし、幕張メッセで新型クラウン4台を目の当たりにした観客よりも驚いていたのが、全国のトヨタ販売店。異例尽くしのクラウンに振り回され、現場は大混乱に陥っている。ワールドプレミア直後の3連休で、筆者はトヨタ販売店を取材してきた。そこから見えてきた、受注延期の理由や販売店の様子を伝えていく。

文/佐々木 亘、写真/TOYOTA

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■クラウンが4車種あることを知らなかった営業マンたち

2022年7月15日、一挙に4台のクラウンが登場し驚きに包まれたワールドプレミア。4台出てくることは販売店の営業マンさえ知らなかったという

 今回の16代目クラウンに関しては、一般ユーザーや我々メディアはもちろん、トヨタ販売店に対しても、ギリギリまで情報が明らかにされていなかったのだ。様々な店舗で取材をすると、販売店スタッフが口にするのは「私たちよりも、メディアの皆さんの方が詳しいです」という、悲しみを感じるひと言だった(編註:ベストカースクープ班ですらこの4車種の特定は不可能だった)。

 今回のクラウンは、ディーラーへの事前情報がほとんどなく、スタッフマニュアルには車両のシルエットのみ。車両外観は、販売店の上層部しか確認できないようになっており、現場に出る営業マンが事前説明の段階で、担当顧客にクラウンを見せながら談笑するという姿は無かった。

 ちなみに、ワールドプレミアで、クロスオーバーの他にスポーツ・セダン・エステートの3台が登場することも、ほとんどの営業マンは知らなかったらしい。

 13時半からスタートした発表会。注文の受付開始が14時からだったため、商談予約をしている顧客へ「今クラウンが出てきますので、YouTube見ていてください」と電話を繋ぎながら発表会を見ていたら、担当顧客からは「4台出てきたけど、どのクルマになるのか?」とリアルタイムで質問され、営業マンは絶句したという。

 こうした対応も異例と言ってしまえばそれまでだが、販売現場でお客様と折衝する営業マンの立場を1mmも考えていないように見えてしまう。現場の苦しさを知っている筆者だからこそ、今回のやり方には異議を申し立てたい。戒厳令が出たかのように統制を強めた後の発表会に意味はあるのだろうか。

 生産遅れや改良時期の後ろ倒しなどで、販売側に無理を強いているのはメーカーだ。確かにワールドプレミアは成功した。しかし、それもメーカーの自己満足のように感じるのは、筆者だけではないと思う。

■クラウンのオーダーは延期! 発表2日前に知らされる現場

発表2日前(7月13日)にオーダーの延期が現場に伝えられたという。写真は4種類の先陣を切って2022年秋に登場予定のトヨタ クラウンクロスオーバー

 現在の新型クラウンに対する、販売店の対応を伝えていこう。

 見積もりを作り、注文書を作成することは可能だ。販売条件は車両本体およびメーカーオプションは「値引きゼロ」で、ディーラーオプションは、販売店ごとに取り扱いが変わる。

 クラウンではメーカーから値引きゼロが通達され、注文書へDOP以外の値引きを入れることができなくなった。(この方法はレクサスのやり方に近い)

 注文書は作れるが、現在はメーカーへオーダーが出来ない。実質的な予約注文状態となっている。メーカーへオーダーが開始される予定は未定であり、車両生産は2022年秋頃から順次行われていくようだ。(一部グレード、ボディカラーは2023年1月以降の生産開始となる)

 トヨタでは、新車の発表=注文・オーダー開始となるのが通例であり、クラウンに関しても、同様の流れを営業スタッフは疑わなかった。

 そこへ発表の2日前(7月13日)に、オーダー時期未定と生産延期が突如告げられた形だ。既に担当顧客との折衝をスタートしていた営業マンも大勢いた状況で、急遽方向転換を強いられた。謝罪行脚となった営業マンも多いはずだ。

 受注延期の背景には、元町工場の稼働が関係していると言われているが、販売店へ正式な説明は無い。bZ4Xのハブに関するリコールが問題の根源であるという見方もあるのだが、こうした情報もメーカーからは何一つ出てこないままだ。

 注文は受け付けているが、オーダーはいつできるのか、全く分からない状況。さらに注文したクルマも、いつ納車されるのか全く読めない。

 また、この状態は注文の電子管理も阻害する。

 正式オーダーは、注文書の取り交わしが行われた順に行うようで、その順番は本部でアナログ管理しているようだ。販売各店では注文書が出来上がるたびに、本部へFAXを行い、本部は送られてきたFAXを紙ベースで順番に並べ、いつ来るかわからないオーダー時期を待つ。

 注文から発注まで、ミスなくスムーズに行えるよう電子化が進められ、効率的に営業業務を行ってきたわけだが、この状況は時代が30年前に逆戻りしている。クラウンが変わるために若手を登用し、クルマは大きく刷新された。

 しかし、イノベーションを起こしたクラウンに対する販売は、お世辞にも進化しているとは言い難い状況だ。

■クルマは商品力だけで売れるものではない

世間に与えるインパクトとしては概ね成功なのだろう。しかし華々しい発表会の裏側で、ディーラーの現場スタッフとメーカーとの間に見えない亀裂を感じずにはいられない

 ワールドプレミア後、ディーラーにはクラウンののぼりが立ち、店内にもポスターや垂れ幕などが飾られている。しかし、肝心のクルマが無いし、先述の通りオーダーが出来ない状況だ。

 それでもメーカー、そして販売店本部からは「売れ」という指示が来る。注文を取るにも準備や情報が必要であり、安心できる環境が必要なことを、製造側も管理側も分かっていないのではないだろうか。

 クルマは商品力だけで売れるものではない。販売店・営業マンがあって売れていくということを、歴史の中でトヨタは強く認識しているはずだ。しかし、今回の対応からは、歴史から学んだことを生かされていないように感じる。

 華々しい発表会の裏側で、トヨタディーラーの現場スタッフとメーカーとの間には、見えない亀裂が生じ始めてはいないか。

 クラウンという既成概念にとらわれないクルマ作りは盛大に評価するが、販売のトヨタを支える全国の販売店を大混乱に陥れたままでは、クラウンがいかにいいクルマでも、販売は伸びないだろう。

 販売店の立場を無視した、隠しすぎの情報や突然の発表、何よりクルマが来ない状況は、いち早く改善してもらいたい。このままではクラウン旋風ではなく大嵐へと空模様は変わってしまう。

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