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2022.7.29

EVのゲームチェンジャーは「全固体電池」
未来への開発競争でしのぎを削るHondaの挑戦

・EV開発競争とその課題
・全固体電池はEV市場のゲームチェンジャー。
・そもそも全固体電池とは?
・全固体電池がゲームチェンジャーになる理由
・Hondaが挑戦する夢の次世代電池は、まだ誰も実現できていない技術
・開発は新しい挑戦の連続。地道な課題解決が基本

 全世界規模で普及の進むEV(電気自動車)。そのEV普及のカギといわれているのが、「全固体電池」です。全固体電池は、これまでのリチウムイオン電池に比べてバッテリー性能が飛躍的に進化し、それを開発した企業は自動車業界の業界地図を変えるかも知れないといわれています。

 この革命的な全固体電池の開発とはどのようなものなのか、そして激しい開発競争に挑むHondaの現在地もご紹介します。

EV開発競争とその課題

 ご存じの通り、今、自動車業界では全世界的にEVの開発が進んでいます。Hondaは、2050年に、全ての企業活動におけるCO₂排出量を実質ゼロにすることを宣言。2040年には四輪のEVとFCVの販売比率を全世界で100%にすることを目指しています。すでに2020年には初の量産EV・Hondaeを発売するなど、EV化戦略を積極的に進めているのです。

 しかし、EVがガソリン車市場を越えるためにはまだまだ課題があります。ガソリン車に比べて短い航続距離や、高い車両価格といった点で購入をためらうお客様は少なくありません。さらに、家庭用充電設備や充電ステーションなどの充電インフラの整備も国によっては普及段階。特に、日本においては問題視されています。性能だけでなく、社会全体でEVにシフトしていかなければならないという点がこの課題です。

全固体電池はEV市場のゲームチェンジャー。

電池の進化電池の進化

 こうした課題を持つEVが普及するためのカギとして、世界中から注目されているのが次世代のバッテリー「全固体電池」です。
 1859年に発明された鉛電池に始まり、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、リチウムイオン電池と、繰り返し使えるバッテリー技術は進化を重ねてきました。現在、EVのバッテリーの主流になっているのは、90年代から実用化されたリチウムイオン電池です。繰り返し使えて大容量、それまでの電池に比べて安全性も高い技術です。しかし、EVのバッテリーとしてはいくつかの課題を持っています。

 それに対し、次世代バッテリーといわれる全固体電池は、リチウムイオン電池と比べて、バッテリー性能を飛躍的に進化させる可能性を秘めています

そもそも全固体電池とは?

リチウムイオン電池と全固体電池の構造の比較リチウムイオン電池と全固体電池の構造の比較

 従来のバッテリーは液体やゲル状の電解質が用いられてきましたが、全固体電池はその名の通り固体の電解質を使います。この電解質の「液体と固体の違い」によって、EVのバッテリー性能を劇的に進化させることが出来るのです。その主な特徴をみていきましょう。

①電池の形状がコンパクトになり、航続距離が伸び、形状がより自由に
リチウムイオン電池の電解質は外部に漏れ出すと発火・爆発の危険性を有しているため、外部への液漏れを防ぐために何重もの安全対策が必要となります。そのため電池の形状も丈夫で大きな容器を必要とします。一方で全固体電池は形状の縛りが少なくなり、薄型など、柔軟な電池が実現します。

 また、高容量の正極、負極活物質が選択できることにより、エネルギー密度が向上して小型化も可能。高エネルギー密度の電池を多く搭載することにより、大容量化にも繋がります。これにより航続距離が飛躍的に伸びるほか、まったく新しい形状のクルマが登場するかもしれません。

②バッテリーの劣化が低減。繰り返し高速充電できる“長持ち”なEVに
 全固体電池は、高温の環境でも安全に作動でき、副反応による影響も少ないため、高速充電などの負荷の高い充電方法でも劣化がしにくくなります。繰り返し充電をしても充電容量が減りにくく、長く使ってもバッテリー性能をキープできるのです。

③熱に強く発火などの危険性が低くなり、より安全なEVに
 先述のとおり、液体の電解質は発火・爆発の危険性がある有機溶媒が使われています。それに対し、全固体電池は有機溶媒を使わないため、発火・爆発の危険性が従来の電池よりも低くなると考えられています。

 また、電解質に特殊な物質を利用することで液体の電池よりも耐熱温度が高く、固体であるにも関わらず電気が流れるようになっています。過酷な環境でも不適切なショートを防止しやすくなることもあり、これまでよりもEVの安全性が飛躍的に向上することでしょう。

全固体電池がゲームチェンジャーになる理由

 リチウムイオン電池よりも安全で、劣化も少なく小型で大容量化が可能。これらの特徴を備えた全固体電池がEVに搭載されれば、EVの魅力はさらに高まることでしょう。

 EVの核心はバッテリーといっても過言ではありません。バッテリーが進化すれば、クルマの性能面でもガソリン車を凌駕することができます。

 さらに急速充電が頻繁にできるようになればガソリンスタンドで給油するような感覚で充電できるようにもなります。そしてバッテリーの劣化が少ないことはリセールバリューにも好影響を与え、EVの中古車市場が活性化することで、EV購入の選択肢はより身近なものになるはずです。だからこそ全固体電池の開発は、自動車業界のゲームチェンジャーになり得るのです。

Hondaが挑戦する夢の次世代電池は、まだ誰も実現できていない技術

 このようにいいこと尽くめの全固体電池ですが、固体電解質の素材開発はそう簡単ではありません。生産性工程の確立も難しいため、世界中のどのメーカーもいまだ実用化に至っていません。
 
 Hondaも化学の分野の知見とノウハウが少ないなか、約10年前から全固体電池の基礎研究に着手してきました。現在は車両に搭載できるサイズの性能確保に向けて、技術開発に取り組んでいます。
 
 「全固体電池に関しては、既存の電池メーカーにもノウハウやデータがありません。その点では、私たちにも『追いつき、追い越す』チャンスがあると考えています。また、Hondaは研究開発と量産の両方ができるメーカー。搭載する車両の仕様が固まる前に、生産技術開発部門も参画し、競争力のある量産製法を開発の初期段階から前提に入れることで、全固体電池の材料開発を効率的に進められるのです。さらに類似技術である水素燃料電池のノウハウがあります」

梅津健太

 こう語るのが、全固体電池の開発チームを率いる梅津健太です。Hondaには長きにわたる水素燃料電池の開発技術と実績があり、全固体電池にも応用可能な分野です。このバックボーンに加え、10年間にわたる全固体電池の基礎研究技術の蓄積があり、すでに試験モデルの開発の目処が立っています。それでも、実用化に向けてはまだまだ超えるべきハードルがそびえているのです。

開発は新しい挑戦の連続。地道な課題解決が基本

開発者たちが研究をしているイメージ

 開発チームは、机上の空論を繰り広げているわけではありません。ゼロからカタチを作るのは、技術のHondaの真骨頂です。

 
 「実験室での試作は期待する性能が出ないケースもあります。また、電池性能と材料や製造プロセスは、因果関係が明確ではないことも多い。効率的にその原理を解明し、適切な対応手法を見出すことが開発の重要なポイントです」

 
 このように、まだ誰もなし得ていない全固体電池の技術開発は、未開の土地で目的地を目指すような新しい挑戦なのです。

 
 「正解がどこにあるかもわかりません。タイムリーに商品を市場に投入するには開発スケジュールを守る必要がありますが、チームにただ『急げ』と発破を掛けるだけでは皆困ってしまいます。私の仕事は作業を組織的に補完したり、検証などを自動化したりしながら、一歩一歩知見と実績を積み重ねていくこと。このように地道に課題を解決していくのが近道と考えています」

全固体電池を搭載した未来のクルマのイメージ全固体電池を搭載した未来のクルマのイメージ

 千里の道も一歩から。やがて誕生するHondaの全固体電池搭載車は、航続距離や充電スピードにおいて、従来のEVとは一線を画すクルマになることでしょう。このように高性能ながら、バッテリー自体はコンパクト。広々とした車内空間や斬新なデザインも実現可能です。それでいて従来よりバッテリーの調達コストが安価な分、お求めやすい価格設定でご提供できる可能性が高いのです。
 
「さらに、耐久性としては液体電池よりも劣化しにくいため、従来ネックとされてきたEVにおける資産価値の低下も防げるはずです。目指すは、2024年の試作量産品です」Hondaの夢の実現は、お客様にとってもメリットに繋がるはずです。
 
 研究施設で技術・生産の検証を重ねていますが、Hondaは、約430億円を投じて2024年春に実証ラインを立ち上げ、2020年代後半には全固体電池を搭載したEVを発売する目標を掲げています。
 
 困難は続きますが、まだ誰もなし得ていない領域を切り開くのはHondaの得意分野。1948年の創業以来、日本内外でお客様をあっといわせるイノベーションを重ねてきました。今度は全固体電池で、世界を驚かせたい。そんな思いから、今日も開発チームの挑戦は続きます。

 
 全固体電池の技術特徴は、先進テクノロジーサイトでも詳しく解説していますのでぜひご覧ください。
 
 
 
カーボンニュートラルに向けてEVの普及を加速する全固体電池の研究

詳細はこちらのリンクよりご覧ください。

https://www.honda.co.jp/stories/037/?from=mediawebsite

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