日本郵船は3日、2023年3月期の第1四半期(2022年4月1日~6月30日)決算を発表した。それによると、経常利益は前年同期比145.9%増の3770億円に上り、連結売上高は6730億円(前年同期比33.4%増)、営業利益は891億円(同68.3%増)だった。
好調な業績を受けて、今期の上期配当を従来計画の650円から1000円に大幅増額したこともあり、「日本郵船」のキーワードが一時、ツイッターでトレンド入りするほどの話題となった。
商船三井、川崎汽船も増収増益
実は、日本郵船だけではなく、商船三井、川崎汽船といった海運大手はそろって好調だ。
商船三井が7月29日に発表した「2023年3月期第1四半期決算短信」によると、連結経常利益は前年同期比2.7倍の2841億円に上る。商船三井も好調な業績を背景に、上期配当を従来計画の200円から300円に増額している。
また、川崎汽船も日本郵船と同日の3日に2023年3月期の第1四半期決算を発表したが、売上高は2284億9800万円(前年同期比30.8%増)、営業利益は188億7800万円(同686.6%増)、経常利益は2873億9700万円(同202.3%増)に急拡大した。前期の年間配当を従来の実質2倍にするという年間配当の修正も同時に発表した。
なぜ、コロナ禍にかかわらず、海運大手が記録的な増収増益を実現できたのか。その理由は2つある。
海運大手が好調のワケ
1つ目の理由は、世界的な物流需要の高まりだ。コロナ禍の「巣ごもり需要」によって、特にBtoC向けのEC市場が急拡大している。アメリカの市場調査会社「イーマーケター」の調査によると、世界のBtoC向けのEC市場規模は、2019年に3.9兆ドルだったが、2020年には4.28兆ドル(前年比18.0%増)、2121年は4.89兆ドル(同19.5%増)に急拡大している。EC市場が活況になればなるほど、必然的に消費者に届けるモノも多くなる。
もう一つの理由として挙げられるのが、運賃の高騰だ。日本海事センターによると、北米往航東岸(CCFI E/C AMERICA)の運賃指数は、コロナ前の2018年は年平均で898だった。ところが、2021年の運賃指数は年平均で2030と2倍以上に跳ね上がっている。コロナ禍での世界的なコンテナ不足、上海のロックダウンやロサンゼルス港の混雑、さらに、港湾の物流人材の人手不足などが運賃高騰の原因だ。
つまり、海運大手は「コロナ禍なのになぜ好調?」ではなく、「コロナ禍だから好調」と言えるわけだ。
日本郵船も、業績好調の理由を決算短信で次のように説明している。
特に欧米において人件費・光熱費の高騰が顕著であるものの、需要の底堅い一般消費財を中心とする活発な荷動きにより、取扱量は前年同期比で増加しました。内航輸送事業では、一部航路の取扱量が減少しましたが、フェリー事業の取扱量は増加となり、加えて円安が進む為替やフィーダー貨物運賃高騰による好影響を受けました。
JALもANAも貨物事業は絶好調
世界的な物流需要の高まりは、海運業界だけではなく、一時は経営危機が懸念されていた航空業界も助けている。日本航空(JAL)と全日本空輸(ANA)は、コロナ禍で大ダメージを被ったが、新たなビジネスモデルを拡大させた。それが、航空物流事業だ。
JALは、2023年3月期第1四半期決算で、貨物郵便収入は653億円(前年同期比37.1%増)だったと発表している。決算短信では、次のように物流事業の好調ぶりを説明していた。
貨物事業については、ロシア・ウクライナ情勢の影響等はあるものの、海上物流の混乱等を背景に、堅調な需要と単価の更なる上昇により引き続き好調に推移しました。
ANAも2023年3月期第1四半期決算で、国際線の貨物収入が947億円(前年同期比43.5%増)だったことを発表した。
JALもANAも、貨物事業を今後も拡大していく方針を明らかにしているが、海運大手や航空大手にとって、この好況がいつまで続くのかが気になるところだろう。運賃高騰は、港湾でのコンテナ滞留や物流人員の人手不足が解消されれば落ち着くと見られている。
しかし、旺盛な物流需要は今後も続く可能性が高い。前出の「イーマーケター」の推計では、世界のBtoC向けEC市場規模は2024年に、6.39兆ドルに上るという。
アメリカや中国の景気減速の懸念はあるものの、しばらくは物流需要が急激に落ち込むということはないのではないか。