7月29~31日に“ザ・ベンド”ことベンド・モータースポーツパークで争われた2022年RSCレプコ・スーパーカー・チャンピオンシップ第8戦『OTRスーパースプリント』は、ワイルドカード参戦の新鋭ザック・ベスト(ティックフォード/フォード・マスタング)が、土曜予選シュートアウトで衝撃のポールポジションを奪取して開幕。しかし弱冠20歳のルーキーに立ちはだかったのはレッドブル・アンポル・レーシングの王者“SVG”ことシェーン-ヴァン・ギズバーゲン(トリプルエイト・レース・エンジニアリング/ホールデン・コモドアZB)で、若手有望株とのバトルに際し「失うものが何もない相手との勝負は最高だった」と余裕の完勝劇をみせた。
豪雨に見舞われた日曜はグリッドストールでの大事故で赤旗中断となり、最終ヒートも雨量によりセーフティカー(SC)先導スタートの“カオス”な展開のなか、すべてのレースを制したSVGが3連勝を決め、見事に週末ハットトリックを達成。この結果、今季がファクトリー活動最終年となるホールデン陣営が、早くもマニュファクチャラーズタイトルを獲得している。
旧タイレムベンドでの金曜プラクティスを前に、スーパーカー・シリーズの未来に関する情報がいくつか更新され、ホールデンを走らせる強豪エレバス・モータースポーツは、来季2023年も初代TCRオーストラリア王者のウィル・ブラウンと、ブロディ・コステッキのドライバーラインアップを維持するとアナウンス。
一方、同じくホールデン陣営のウォーキンショー・アンドレッティ・ユナイテッドは、10月開催の“祭典”バサースト1000に向け、ファビアン・クルサードとウォーレン・ラフのベテラン勢をコドライバーに迎えると発表した。
「2022年も勝利を挙げている25号車で、不動のエースであるチャズ(・モスタート)と組めるのは本当に光栄だし、ワクワクするよ。僕らはとてもうまく協力することができると分かっているからね」と、今季は自身もTCRオーストラリアに参戦するクルサード。
「ガレージ内でチームの近くにいられるのは喜ばしいこと。最初から家にいるように感じたし、トラックで時間を過ごし、全員がどのように機能しているかを見るのは素晴らしい機会だった。今季の耐久カップは(バサーストの)1戦だけだし、マウントパノラマに向かう前に1日だけ、重要な最終テストを予定している」と、すでに今季前半のインシーズンテストでWAUの25号車を経験しているクルサード。
一方、今季9月に約3年ぶりとなる『ITMオークランド・スーパースプリント』を開催予定のプケコヘ・パークは、2023年4月限りで「すべてのモータースポーツ活動を終了する」との決定を下し、オークランドでの持続可能なサラブレッド競技を推進するビジョンを採択。これにより、RSCとしてはニュージーランドでのイベント継続に向け新たな開催地のオプションを模索する必要に迫られている。
こうして始まったレースウイークは、最初のFP1を“7冠王者の後継者”ブロック・フィーニー(トリプルエイト・レース・エンジニアリング/ホールデン・コモドアZB)が、続くFP2でSVGが最速を記録するなど、ここベンドでは「マスタングがいつも強さを発揮する」と警戒していたトリプルエイト勢が先手を取るかたちに。
しかし明けた土曜予選シュートアウトで躍動したのは、シリーズレギュラーではなく現在ステップアップのSuper2に参戦中の新鋭ベストで、セクター2まで最速だったシリーズリーダーのSVGを撃破し、わずか0.02秒差で衝撃のポールポジションを奪って見せた。
「これほどの結果は、まったく期待していなかったよ。何を言ったらいいか分からないし、とにかく僕らはできる限りのことをしただけなんだ」と、自らも驚きの最速タイムを記録したベスト。
「ターン1では意気込み少し行きすぎてしまったから、カム(僚友のエース、キャメロン・ウォーターズ)にも負けていたんだ。でもその直後に『集中!』と言い聞かせて、最終的にすべてをつなぎ合わせるよう意識した。それがポールを獲得するのに充分だったなんて、本当に驚きだよ」
そのウォーターズはWAUのモスタートを抑えて2列目3番手に。その背後にはアントン・デ・パスカーレとウィル・デイビソン(ディック・ジョンソン・レーシング/フォード・マスタング)のシェルVパワー・DJR勢が並ぶグリッドとなった。
そのまま土曜午後に迎えたレース1は、その態度をしてチームから「信じられないほどの冷静さ」と称えられたベストが、ポールから危なげなくホールショットを奪い、2列目にいたウォーターズも蹴り出しでSVGを刺し、ルーキーを護衛するかのように2番手へと進出する。
しかし、ここから本領発揮となったのがSVGで、前戦でも連勝を決め“王者の風格”を漂わせるレッドブル・ホールデンは、前を行くモンスタエナジー・フォードに執拗なプレッシャーを掛けると、7周目にはポジションを奪還。そのまま首位ベストに迫ると、4周にわたる“レッスン”を経て首位浮上に成功。
そのまま義務ピットも完璧にこなしたチャンピオンが「なんて素晴らしい週末。チームには感謝してもし切れない」と貫禄の勝利を挙げ、2位に戦略勝ちのデイビソン、3位にはウォーターズを仕留めたモスタートが続き、鮮烈な印象を残したベストは5位でチェッカーを受けた。
明けた日曜は、前日惜しくも表彰台を逃したウォーターズが雪辱の連続ポールを奪うと、レース2に向けエースの隣でフロントロウを確保したチームメイトが悲劇の主人公に。
トーマス・ランドル(ティックフォード・レーシング/フォード・マスタング)がドライブするカストロールカラーの55号車は、シグナルブラックアウトでまさかのストールを喫してしまう。
後続はこれを次々と回避していったものの、12番グリッド発進だったアンドレ・ハイムガートナー(ブラッド・ジョーンズ・レーシング/ホールデン・コモドアZB)は突然視界に現れたマスタングを避けきれず、約120km/h前後からオフセット状態で激しく追突。同じく14番手スタートのニック・パーカット(ウォーキンショー・アンドレッティ・ユナイテッド/ホールデン・コモドアZB)も巻き込まれ、いきなりのレッドフラッグとなってしまう。
■大クラッシュだったにもかかわらず、全員が無事に生還
3名のドライバー全員がサーキットの医療センターに搬送されたが、38Gものインパクトを受けたハイムガートナーを含め骨折などもなく、全員の無事が確認された。
「ワオ、あれは本気でマズいアクシデントだった。38Gもの衝撃を受けながら、骨も折らずに生き延びられたのは幸運以外の何モノでもないね。これこそ、僕らのクルマの強度と安全性の証明さ! そしてトーマス(@thomasrandle)が無事だったこともうれしく思う。みんなのメッセージに感謝し、元気に回復してサンダウンに向かうよ」と、ハイムガートナーが治療を受けるベッドから自身のSNSで発信すると、自身予選最上位グリッドだったランドルも「ワオ、あれは本気でマズいアクシデントだった」と、同じ書き出しで無事を報告した。
「すべてのメッセージに感謝しているし、僕は元気だ。こんなに安全なクルマを作ってくれたチーム(@tickfordracing)に心からお礼を言いたい。そしてアンドレ(@andreheimgartner)が無事で何よりだ。今日は自分たちのポテンシャルを発揮できなかったこと、みんなに申し訳なく思っている。僕らはもっと強くなって戻って来るつもりだ」
再開されたレース2は、モスタートがポールシッターのウォーターズを出し抜きリードを奪うと、終盤に向けピットストップを遅らせる戦略を選択したSVGが首位でコースに復帰。モスタートより2.6秒早くチェッカーをくぐり、3位にひさびさのポディウムとなるジェームス・コートニー(ティックフォード・レーシング/フォード・マスタング)が続く結果となった。
そして事故の当事者となったふたりがいないまま、現地15時半を回ってスタートが切られたレース3は、直前のスコールによりSCスタートが宣言され、3周目からグリーンフラッグに。
良好な視界を活かして首位を守ったウォーターズだったが、水量過多でグリップのない路面に苦しみ11周目にロックアップを喫すると、その隙を逃さなかったSVGが前へ。以降、一度もリードを奪われることなくフィニッシュラインを越え、絶対王者が破竹の連勝劇で今季14勝目を手にした。
「ウエットでのレースは本当に、本当に楽しかった。コクピット内では思わず笑みが浮かんだが、集中する必要もあると気を引き締めた。カム(ウォーターズ)からは勝利への執念も伝わってきたし、そこでマインドセットを切り替えてとにかくクリーンであることを心掛けた。追い越し、追い返されるたびにそれが表現されていたはずさ」と、余裕たっぷりのディフェンディングチャンピオン。
この勝利によりホールデンは2年連続でマニュファクチャラーズタイトルを獲得し、ファクトリー活動最終年に華を添える結果に。続くRSC第9戦は、8月19~21日におなじみメルボルンのサンダウンで、引き続きスーパースプリント戦が争われる。