厚生労働省は9日、「マイナ保険証」を利用した場合の負担額を軽減する方向で調整に入った。今後はマイナ保険証の負担額が軽くなる一方、旧来の保険証を利用した場合の負担額が増すため、マイナ保険証を使ったほうが割安となる。
マイナンバーカードを健康保険証として利用できる「マイナ保険証」は、21年10月に本格運用を開始し、今年4月からは診療報酬の加算が導入されていた。これまでマイナ保険証を使うと最大21円の窓口負担が上乗せされており、数十円とはいえ、旧来の保険証を使うよりも損をする状態になっていた。
マイナ保険証を使うメリットとして、政府は以下の点を挙げている。
転職・結婚・引越ししても、健康保険証の発行を待たずに、保険者での手続きが完了次第、マイナンバーカードで医療機関・薬局を利用できます。
過去にどのような薬を処方されたかなどの情報が記録されるため、医療機関が患者の病歴などを参照した上で、医療を行うことができるという。
また、マイナンバーカードを用いて、薬剤情報、特定健診情報、医療費通知情報を閲覧することができるようになります。薬剤情報と特定健診情報については、患者の同意を得たうえで医療関係者に提供し、より良い医療を受けることができるようになります。
政府としては医療のデジタル化を進めるべく普及を後押ししているにも関わらず、「使うと損をする制度」は「謎政策」とも揶揄されていた。今回の措置によりマイナ保険証を使うメリットが増したものの、あちらが立てばこちらが立たずというべきか、旧来の保険証を使っている層からは多くの反発があがった。
…いや、これ実質的なペナルティじゃん!!マイナ保険証を使う人を割安にするのは分かるけど、使わない人を割高にするのはダメでしょうよ…マイナ保険証は強制じゃないって建前だったのにペナルティって!
旧来の保険証を使うデメリットが人為的に作られたことに対し、「罰ゲーム」との意見もあった。
『マイナ保険証を利用する患者の費用を引き下げる』のは良いとしても『その代わりマイナ保険証を使わない患者の費用は引き上げる』という措置は本当に必要でしょうか。マイナンバーカードの有無は個人の自由なのに、マイナ保険証を使わないと罰ゲームのように費用を引き上げられるのは納得できません。
医療分野、DX化は道半ば
一般のネット民以外にも辛辣な意見が相次いだ。ITジャーナリストの篠原修司氏も政府の施策に「頭おかしいんか?」と一喝。
政府「マイナンバーカード保険証使って」
国民「負担が増えて支払いが高くなるじゃん、ふざけんな」
政府「じゃあ使おうが使うまいが負担増にするね~。あ、マイナ保険証使った方が負担は低いよ^^;アセアセ」頭おかしいんか?https://t.co/Eb1bWybBrT
— 篠原修司 (@digimaga) August 8, 2022
戦史・紛争史研究家の山崎雅弘氏も「どこまで国民を馬鹿にするのか。全く許容できない」と首を傾げた。
主語が「厚生労働省は」になっているが、「健康保険証とマイナンバーカードが一体化したマイナ保険証は医療機関での患者の窓口負担を軽くする方向」「代わりに従来の保険証を使う他の患者の費用を引き上げる」って何だ。
どこまで国民を馬鹿にするのか。全く許容できない。https://t.co/yWr8J4NsBF
— 山崎 雅弘 (@mas__yamazaki) August 8, 2022
医療分野に限らず日本は諸外国に比べデジタル化やDXが大幅に遅れており、社会の発展を阻害していると指摘されている。政府としては多少強引にでも、マイナ保険証の普及を後押ししたいと考えたのだろう。個人的には数十円程度の差なら許容範囲という気もするが、制度変更は容易ではない。また、個人情報が管理されることへの忌避感も根強いようだ。
国民民主党の前参院議員、矢田わか子氏は「遅れている医療分野デジタル化を後押するには、必然」と言い、厚労省の決定を前向きに評価した。
4月決算委員会で提起した、「#マイナ保険証」利用時の本人負担。最大21円上乗せを半額以下に。厚労省が方向転。
通常の保険証利用負担は引き上げ、マイナ保険証の方が割安に。
医療機関や患者のマイナ対応を進め、遅れている医療分野デジタル化を後押するには、必然。ポイント付与より本質的な政策だ。 https://t.co/XLSZ5nztN3— 矢田わか子/前参議院議員(国民民主党) (@wako0501) August 9, 2022
マイナ保険証は、病院や薬局の窓口などに設置された専用のカードリーダーにかざして使用するが、7月下旬時点の対応医療機関は約26%という。普及が進めば、病院の受付などの事務手続きが省力化されるほか、さまざまな健康データを集計することでより良い医療を目指す「データヘルス」の実現にもつながるという。
なお、マイナ保険証はマイナンバーカードを取得した上で、専用サイトから申し込みをすると使用できる。医療のDX化はまだまだ道半ば。道のりは険しそうである。