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 2020年末、「公共交通マーケティング研究会」例会が開催された。「コロナ禍」における取り組み事例が神姫バス、九州産交バスらから共有された。それを受け「収束後」のシナリオの書き方を筆者らが解説した。

 感染者数が高止まりする中でも、ワクチン開発などにより少しずつ見えてきた「収束」。それはいつ? その後の日本社会の姿は?

 まだ先の見えない2020年末の時点でのコロナ対策を振り返ります。

(記事の内容は、2021年1月現在のものです)
執筆・写真/成定竜一
※2021年1月発売《バスマガジンvol.105》『成定竜一の高速バス業界一刀両断』より


「収束後の社会」が「新常態」に

バスの換気性能などをアピールするラッピングで都内をデモ走行する貸切バス

 バスマガジン104号では、「コロナ危機」期間中の対応策以上に、収束後の社会の変化とどう向き合うかが重要だとご説明した。では、バス事業者の経営者らはいま、どのような準備をすべきか。

 必ず取り組んでほしいのが、今後のロードマップ(行程表)作りだ。

 筆者は、「ステイホーム」真っ只中の昨年5月、「今後のバス事業ロードマップ」を作成し全国のバス事業者らに向け公表した。

 そこでは収束の段階を3つに分けた。「緊急事態」のあと、「制御(感染を制御しつつ付き合う)」フェーズが来て、やがて「新常態」フェーズに移るというものだ。前号で述べた「収束後の社会」が「新常態」に当たる。

 横軸にその段階別、縦軸に路線/高速/貸切という事業分野別にマトリクスを作成し、事業者が取り組むべき施策の例を列記した。

「収束」の要件は何か?

図1:コロナ禍収束の要件と時期 現状は確実に把握(2021年1月時点の見通しです)

 それから半年。本稿執筆(2020年12月中旬)時点では、PCR陽性者は高止まりが続く。一方、ワクチン開発については楽観的な報道も多い。

 あらためて、今後のロードマップ作りに向け状況を整理しよう。

 半年間で大きく2点、進捗があった。まず医学の知見が蓄積され、バス車内の感染リスクは小さいなど、ウイルスとの共存の仕方がわかってきた。もうひとつ。収束のイメージは具体化した。以前は、何を指して「収束」なのか雲を掴むようだったが、ある程度具体的に見えてきた。

 収束の「要件」はおそらく3つ。

(1)陽性者や死者数が安定
(2)ワクチンの効果や供給が安定
(3)政府が何らかの宣言を行う

 である。そのうち(1)を考慮すると、春から夏の確率が高い。最も楽観的な想定で2021年春。悲観的想定はワクチン開発が失敗し、数年間ダラダラと事態が続く。中間的想定は、2022年春か(図1参照)。
※2020年12月時点での見通しです

 その一方、地域限定で再び「緊急事態」に戻るリスクも抱えたままだ。さらに、社会全体でみれば収束したとしても、バスの需要だけは「コロナ前」水準まで回復しない、という事態も想定する必要がある。

 したがって自社の体力の持つ間に事態が収束するとともに、需要がほぼ回復するというのが、まずはメイン・シナリオ(プランA)だ。

サブ・シナリオが必要

図2:メインシナリオとサブシナリオ(高速バスの事例) いくつかのシナリオパターンを想定しておく

 だが、悲観的なケースに備え、3つのサブ・シナリオ(プランB)も用意する必要がある(図2参照)。具体的にみてみよう。

 サブ・シナリオの1つ目は、「緊急事態」に立ち戻るケースだ。このケースで最も重要なのは資金と雇用だ。後者の対策として、今のうちに万一の際に乗務員の出向や副業を受け入れてくれる異業種企業を見つける必要がある。

 2つ目はワクチンに重大な副反応が見つかるなどしたケースだ。「自粛」と「緩和」を繰り返しながら「ただの風邪」となるのを待つことになる。この場合、事業の見極めがカギになる。

 収束後を考えれば簡単に事業を縮小したくない。「停留所の権利」が絡む高速バスでは特にそうだ。だからと言って永遠に赤字運行を続けるわけにはいかない。自社の経営体力を考慮し、路線別の累積赤字額など、あらかじめ「撤退基準」を決めておく必要があろう。

移動の需要が回復しない想定も

 サブ・シナリオ3つ目は、事態が収束したのにバスの需要だけが戻らないケースだ。特定の地域や市場だけが回復しないケースもありうる。現に同じ通学客でも、高校生以下と大学生では回復ペースが違う。同様に工業団地の従業員輸送は安定しているが、オフィス勤務者は在宅勤務が一部で定着するかもしれない。

 自社の市場が「回復しない方」に当たるのであれば、早期に撤退または事業モデル(お金の出どころ)の転換を図る必要がある。

前向きなケースもありうる

 なお都市部の路線バス事業に限っては、逆に事業の効率性が高まるという前向きな期待も可能だ。現状では車両や乗務員の数はラッシュのピークに合わせている。昼間の稼働が低く収益性が低い上、長時間の勤務シフトが生まれている。朝夕ラッシュの山が低くなれば、その非効率を解消できるはずだ。

 いずれにしても、危機に耐えうる体力は事業者ごとに異なるし、需要回復の度合いやスピードは市場によって違う。この場では対応策を例示はできるが、最終的には事業者自身に自らのロードマップを作ってもらうしかない。

 まずは、「収束まで/無事に収束/事態長期化」といったフェーズに分け、かつ、「運行/営業/ファイナンス」といった分野ごとに、考えられうる対応策を書き出してみることだ。

 思いつく施策を全て列記した上で、法規制やコスト面で困難なものを削除し、優先順位をつけていく。各社とも目下の事態への対応に忙しいだろうが、一度立ち止まって、長めのスパンで今後を俯瞰してもらいたい。

投稿 2020年末のバス業界はコロナ禍をどう見てた? 未だ終わらぬコロナとバスの戦い自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。