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 今やMT車を選べるモデルが少なくなっていることは周知の事実。しかしクルマ好きにとって、MTは運転の楽しみを増幅するマストアイテムだ。

 そこで、あらためてMT車の現状をクローズアップ。現在、日本で購入できるMT車を価格とともにピックアップしていきながら、MT車の現在地を探る。

文/フォッケウルフ
写真/フォッケウルフ、日産、トヨタ、ポルシェジャパン、マツダ、スズキ、ダイハツ、BMWジャパン、ホンダ

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■「50車種」は多いか、少ないか?

 運転操作はクルマに乗る楽しみのひとつだ。なかでもMT(マニュアル・トランスミッション)車に乗って、走行中にギアを変える操作は、クルマという決して小さくない乗り物を自らの手で操っているという感覚が味わえてじつに楽しい。

 とはいうものの、日本ではAT(オートマチック・トランスミッション)車の販売比率が9割を超えた。今やスポーツカーですら2ペダルが主流で、クラッチを備えていない車種が増えている。

 動力源の電動化が進み、将来的には純粋な内燃機関搭載車が減少していく傾向にある。さらに安全運転支援機能の採用率が高まり、いずれ運転は自動化されたクルマも登場することになる。こうした技術的な変化の影響に加え、1991年に導入されたAT限定免許の保有者数が増加していることも、MT車が絶滅危惧種になった要因と言えるだろう。

新時代の国産スポーツモデルの象徴となりそうなフェアレディZにもしっかりMT車がラインナップされている!

 現在、国内で新車購入できる車種は、国産、輸入(正規輸入)を含めて300台を超えるが、それらのほとんどがATやCVT、DCTといった2ペダル車となっている。そのなかでMT車を用意している車種がどれほどあるか調べてみると、その数は50車種(2022年7月現在)となった。これを「少ない」とみるのはMT車にこだわるユーザーで、おそらく大半の人は「まだこんなにあったのか」と感じるかもしれない。

■最も手軽に買えるMT車はどれだ?

 ここからは、日本で販売される国産のMT車には具体的にどんなモデルがあるか、その価格とともに見ていこう。

【SUV】

速度に見合った適切なギアを選ぶという行為が運転の楽しさを増幅させる。こうした観点から、走りの楽しさをウリにするマツダ車は、ジャンルを問わずMTを用意している

【軽自動車】

660㏄という小排気量エンジンを搭載する軽自動車の場合は、非力な動力性能を補うという点で、手動でこまめに変速できるMT車のほうが有利。しかもAT車よりも車両価格が安いというのも利点

【コンパクトカー】

エンジンの出力が小さくても、変速のタイミングなどを自在に操ることでスポーティな走りが楽しめる。しかも小型で軽量なボディの恩恵もあって、キビキビと走れるというのもメリットだ

【スポーツカー】

スポーツカーそのものが縮小傾向にあり、DCTや多段ATが主流となっているが、それでも走りを楽しむクルマだからこそMT車の設定は必須と言える。すべてのジャンル中、最も設定が多い

【セダン】

スポーティな走りとは縁遠いジャンルだが、MT車でなければ運転が……という、年配ユーザーのニーズに対応するべくMT車を用意している。とはいえ、MT車の販売比率が極端に少ないというのは容易に想像がつく

【ハッチバック】

ハッチバック車そのものの人気がやや落ち込んでいるなか、MT車を用意する3台は、いずれも高性能だからあえてMTを選んで、スポーティな走りを楽しみたいというニーズを満たしてくれるはずだ

【ワゴン】

絶滅が危惧されるMT車だが、ワゴンのMT仕様というのはさらに希少。MT車で運転を楽しみたいだけでなく、あえて他人とは違うチョイスを……と考える人にはうってつけ

 全ジャンルを通して最廉価なモデルとなったのは、軽トラックのスズキ キャリイ(75万2400円)である。地方で農家などを営んでいる家庭では当たり前の存在だが、都市部では姿を見ることがすっかりなくなってしまった。商用車を除けば、やはりスズキのワゴンR(109万8900円)で、こちらはホンダのN-ONEとともに、軽自動車のハイトワゴンタイプでは貴重な存在になるだろう。

 軽自動車以外ではどうかというと、コンパクトカーのスズキ スイフト(153万5600円)やトヨタ ヤリス(154万8000円)、セダンのトヨタ カローラアクシオ(155万7600円)などが目立つ。どれも廉価グレードで装備などは手薄になってしまうが、純粋にMTの乗り味を楽しむためにはこれらを選んでみるのも一興である。

 一方で、高価なモデルを見てみると、やはり輸入スポーツカーの高価格が目に入ってくる。最高金額となったのは、ポルシェ 911 スポーツクラシック(3724万円)。しかしこうしてみると、高価ではあるものの、ポルシェやロータスが今もMT車をラインナップして、その存在を大切にしていることがわかる。

スポーツカーブランドとして受け継がれてきた歴史と伝統を守るたメカ、MT車を今もラインナップに残すポルシェ

■MT車の揺るぎない価値と今後の行方とは?

 言わずもがなMT車はシフトチェンジに伴う操作が手動である。アクセルから足を離し、左足でクラッチを踏んで、ギヤを変え、またクラッチを繋ぎ、アクセルを踏み込む。MT車がそういうものと理解している人にとっては当たり前のことだが、そうでない人にとっては煩雑に感じることだろう。しかも、慣れていない人が運転するとエンストしたり、変速時にギクシャクしてしまうなど、運転がぎこちないものになってしまう。

 自分の思いどおりに変速し、スムーズに加速できたときは爽快だし達成感を得られるが、「そこまで運転に対して向上心はない」という人が大半だろう。MT車をスマートに乗れるのは、運転の熟練度を示すには有効だが、現代ではそれよりも縦列駐車がスパッと決められるほうが尊敬される度合いは高いかもしれない。

 しかし、MT車の難しさや煩わしさを軽減し、操る楽しさを提供してくれるMT車用の機能もある。トヨタのC-HRやカローラ系に採用されているiMTは発進時に運転者がクラッチペダルを踏むと、エンジンのトルクを厚くしてエンストしにくくし、また変速時には自動でエンジン回転数を合わせる「ブリッピング」を自動で行うので、ギクシャクした動きが抑制できる。

基本的な部分は普通の6速MTと同じだが、シフトアップやシフトダウンをする際に、自動的にエンジン回転を合わせてくれるのが「iMT」。エンストも防止してくれる

 走行状況に応じて、適切なギヤを選択し、そのときに適正なエンジン回転を瞬時に判断してブリッピングできる熟練のMT乗りであれば、このiMTのようなものは無用の長物だが、AT車全盛の時代に、あえてMT車に乗り、MT車をそつなく操りたいという人をサポートし、MT車需要を少なからず増加させることに繋がる機能と言えるだろう。

 今どきの自動変速機(AT、CVT、DCTなど)は、多段化されているうえに変速制御が緻密でレスポンスもよく、マニュアル操作も可能。運転スキルのレベルを問わず、クルマの性能を効率的に引き出せるので、スポーティドライブをイージーに楽しめる。しかも、ストップ&ゴーの頻度が多い日本の交通環境も、MT車にとってマイナスでしかない。

 それでも、MT車にこだわる熱心なファンは存在する。面倒だろうが、煩雑だろうが、趣味性を重視した変わり者の選択と揶揄されようが、MT車こそがクルマにおけるスポーツの正しい在り方だという意見もある。

 それも自己満足だが、コアなクルマ好きならば、電動化や自動運転などの最新技術を横目に見つつ、いずれやってくる「新車でMT車が手に入らない」時代が来るまでは、あえて内燃機関を搭載したMT車を選んでみてはいかがだろう。

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