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EVの本質はこれからだぞ!! 「節電」「電力不足」な日本での電気自動車の課題とは

 2022年6月下旬に、環境省資源エネルギー庁から、電力ひっ迫注意報が発令され、現在も節電が促されている。今後、電力需要の高まる夏(7月~9月)と冬(12月~3月)にも発令される可能性はあるだろう。

 そのような状況下で、環境に配慮した電気自動車(EV)を普及することは難しいのではないだろうか? 世間一般の意見では、電力不足のなかで電気自動車、カーボンニュートラルの促進するのは厳しい、という声は大きい。

 そこで、本稿では「節電・電力不足な日本でEVが普及するのか?」、「自宅へEVからの電力があるので、EVが普及しても電力不足にならないか?」というEVへの課題について解説と考察をしていく。

文/御堀直嗣、写真/TOYOTA、NISSAN、HONDA、MAZDA、SUBARU、MITSUBISHI

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EVが普及しても電力不足には陥らない!

 2020年12月、豊田章男日本自動車工業会(JAMA)会長は記者会見で、国内の保有台数約6200万台すべてが電気自動車(EV)になったら、電力ピーク時の発電量を現状の15~20%増強する必要があり、その増強量は、原子力発電で10基、火力発電で20基に相当すると、試算結果を述べた。

 そして2022年、夏冬のピーク時の電力供給の余力が数パーセントとなる事態が生じ、EV普及がその危機に拍車を掛けるのではないかと懸念を覚える人がいる。

 たしかに、必要とする電力量は豊田会長が述べたくらいの規模になるだろう。だが、試算を行う上での前提条件に誤認がある。理由は、EVの本質を理解していないからだ。

 そもそもEVの充電は、200V(ボルト)の普通充電方法を使い、夜間に自宅で行うのが基本だ。つまり、人の活動が減り、寝ている時間を利用して充電するということだ。

 先般の電力供給逼迫に際し、節電が呼びかけられたのは昼過ぎから夕方にかけての午後4~5時間であり、夜間も節電を継続するようにとの要請はなかった。夜更かしする人がいたとしても、日中に比べ大幅に電力消費量が減るからだ。

 電気事業連合会が公表している、一日の電気の使われ方というグラフを見ても、電力使用のピーク時に比べ夜間はほぼ半減している。その時間帯にEVに充電を行えば、電力消費量はそれなりに必要であっても、既存の発電能力を大幅に引き上げなくても済む。

 かねてより、電力会社は夜間電力の使用量を増やそうと、割安料金の設定をしているほどだ。系統電力を構成する大型の発電機は、基本的に出力調整をするのが容易でなく、できることなら昼夜を問わず同じ発電量で一定運転し続けたいのである。しかし、夜間は使用電力量が減るのでやむを得ず発電量を減らしている。

 そこでEVが普及し、夜間に普通充電で時間をかけて充電してくれれば、昼夜で差のある発電量をそれほど変えずに済むようになる。電力会社にとって、EVの普及を含め、暮らしの電化は喜ばしいことなのである。

 ところが、EVを、単にガソリン車やハイブリッド車の代替としか価値づけられず、そのための電力を、ガソリンスタンドでの給油と同じようにしか考えられないと、日中に急速充電したら電力不足に陥ると思ってしまうのだ。

 また、これまでの充電基盤の整備においても、行政を含め報道媒体でさえ、ガソリンスタンドの代替としか発想できなかったことにより、急速充電器の整備ばかりに目が向けられてきた。それでも、高速道路のサービスエリアや、道の駅、あるいは自治体の役所などへの急速充電器の設置が進み、全国7500ほどの急速充電器が整備されたので、ごく一部の地域を除いて国内どこでも充電できる体制は整った。

 しかしそれは、本質的な充電基盤整備の仕方ではない。充電の基本は、あくまで自宅で夜間に普通充電することである。

 その点について、ある電力会社のEV担当者は、「急速充電器は公衆トイレのようなものだ」と例えた。外出する際、家で用を足して出掛けるのが前提で、それでも出先でもよおしたときのために公衆トイレはある。充電も家で済ますのが前提で、それでも途中で不足したら急場しのぎの感覚で急速充電の価値があるという意味だ。

 そのうえで、一般的に、クルマは9割が駐車状態であるとの統計がある。実際に移動で使われているのは1割ほどでしかない。その駐車している間、蓄電池として機能できるのがEVの利点である。

EVはむしろ電力供給の逼迫を助ける存在

日産サクラと三菱eKクロスEVのバッテリー容量は20kWh。一充電走行距離は日常使いに充分な180km(WLTC走行モード)

 日産サクラや三菱eKクロスEVは、軽自動車であるため車載のリチウムイオンバッテリー量が限られ、20kWh(キロ・ワット・アワー)だ。それでも一般家庭で使われる一日の電力量は約10kWhとされるので、約2日分の電力量に相当する電気を蓄える能力がある。

 日産リーフになれば2倍の40kWhで、リーフe+なら61kWhになる。日産アリアの上級車種は、91kWhの大容量だ。こうなると、数日分の電力を貯めていることになる。そして自宅へEVからの電力を供給できるVtoH(ヴィークル・トゥ・ホーム)の機器を設置すれば、充電してある電気を暮らしに役立てることができる。

 たとえば電力供給逼迫の事態となったとき、昼過ぎから夕方まで出掛ける予定のない人は、EVから自宅へ電力の供給を受ければ系統電力に依存せずに済む。それでも万一停電となった場合も、EVの電気を自宅で使えば、冷蔵庫も空調も継続的に利用でき、スマートフォンへの充電もできる。家庭電化製品のタイマー設定も、やり直す必要がない。

 勤務先などにおいても、電力供給が逼迫する時間帯は数時間なので、その間だけEVからの電気で仕事を続ければ、通信機器などが停電で利用できなくなるといったことを避けられる。

 数時間であれば、帰宅のための電力がなくなってしまうことも避けられるかもしれず、もし足りなければ、帰宅は遅れても充電して帰ればよい。夜間になれば、最寄りの急速充電器を利用しても、電力逼迫への影響は避けられるだろう。

 自宅での夜間の普通充電によるEVへの充電という基本が確立すれば、EVが存在することにより、かえって電力消費の調整役として機能できるのである。電力消費のピーク時に、普及したEVがみな一斉に充電したら、原子力発電所10基分の追加が必要との論調は、まさにEVの本質を知らぬ誤認でしかない。

 そのうえで、自宅で普通充電を済ませたEVが勤務先へ行き従業員用駐車場に駐車し、そこで仕事をしている間、バッテリーに充電された電気を企業が利用すれば、系統電力に依存してきた企業の電力消費量をピーク時に減らすことに役立つ。

 しかしそれでは個人の電力を会社が利用してしまうことになるとか、会社で電気を使われてしまったら帰宅のための電力が不足するといった懸念があるかもしれない。

 個々の事情や帰宅時間などを考慮し、管理することにより、個人が不自由しない範囲で電力の提供を調節すればよいだけのことだ。そして、会社で使った分の電力は、当人が帰宅する時間まで充電し、元に戻せば済む。

電力需給の仕方を変えるEVの可能性

 そうした実証実験を、日産自動車ではすでに行ってきた。それによって、企業が電力会社へ支払う電気代を節約でき、なおかつ従業員はなんら不自由なく通勤できる充電管理が行えたのである。電力の使用時間帯に応じた電気代の高低や、電気料金形態の新たな発想が必要になるだろう。それでも実証実験を行いながら、参加した個人も会社も誰もが損をしない、逆に利益の得られる料金形態を組めれば、あとの管理は人工知能や通信技術を活用し、運用すれば済む。

 単に系統電力に依存するのではなく、個人と企業の電気の使い方を総合的に管理し、運用する新たな社会基盤が出来上がれば、発電所の数を減らす可能性さえあると日産は試算した。

 この考えを、地域で運用すれば、近隣との協力で住まいの電力消費管理もできるようになり、各家庭でEVを使うことによって、総合的な電力の効率化がはかれることにもなる。しかも、万一の停電に対しては、地域の電力確保も可能になり、暮らしの安心をより高めることにつながる。

 以上のような新しい電力需給の仕方には、開発のための投資も必要かもしれない。だが、それはすなわち新しい事業の創出ともいえ、雇用も生まれるだろう。電気に依存した現代の暮らしをより安心で快適にする社会づくりになっていく。

 既存のエンジン車やハイブリッド車では、災害など一時的な緊急事態で電気製品への電力供給ができても、日々の暮らしを支える電力需給の管理までは難しい。

 EVの本質を知らず、普及を恐れ、エンジンにしがみつこうとする姿は、19世紀後半、馬車で生計を立ててきた人を守ろうと英国で行われた赤旗法(エンジン自動車の前を、赤旗を持った人が先導して歩かなければならないとした法律)のように、社会の変革を受け入れられない人々の苦悩の表れといえる。

(※編集部注/「EVの夜間充電主体」に関しては、ユーザーの「クルマの使い方に関する意識改革」が重要なポイントになると編集部は考えています。ざっくり言えば、クルマはこれからスマホのような使い方に近づいてゆくのかもしれません。また、こうしたユーザー側の意識転換と同時に、電力逼迫時間である夏の昼間や夕刻はなるべく充電しないよう習慣づけたり、給電料金に時間割を設けたりするなど行政側の施策も重要になってくるでしょう)

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