エルヴィス・プレスリーといえば、ロックの偉大なアイコンとして知らぬもののいない存在だ。ゴージャスなルックスに魅力的な歌声は、いまだに色褪せていない。
2018年に偉大なクィーンの伝記映画が大ヒットしたが、今度はプレスリーの生涯が映画化された。
私生活ではクルマとバイクを愛した彼を描く映画『エルヴィス』をご紹介しよう!
文/渡辺麻紀、写真/ワーナー・ブラザース映画
(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
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■ロックンロールの原点にして頂点
フレディ・マーキュリー&クィーンを描いた『ボヘミアン・ラプソディ』(2018)が大成功を収めたからか、ハリウッドではちょっとしたミュージシャン伝記映画がブームになっている。
マイケル・ジャクソンやマドンナ、ホイットニー・ヒューストンたちの映画が企画されているなか、いち早く公開されるのがエルヴィス・プレスリーを描いたその名もズバリの『エルヴィス』。
『ハートブレイク・ホテル』や『監獄ロック』、『ハウンド・ドッグ』に『ラブ・ミー・テンダー』等の大ヒットによって「世界史上もっとも売れたソロアーティスト」の一位にランキングされ、ロックンロールの神様とも呼ばれる彼の波乱に富んだ人生にスポットを当てた音楽伝記映画だ。
メガホンを取ったのは『ロミオ+ジュリエット』(1996)や、『ムーラン・ルージュ』(2001)等のミュージカルでも知られるバズ・ラーマン。プレスリーを演じているのは、これが初のメジャー映画主演作となる『デッド・ドント・ダイ』(2019)等のオースティン・バトラー。
このバトラー、素顔はいまどきのハンサムだが、メイク等に頼ることなく、声も表情もダンスもちゃんと“エルヴィス”しているから驚かされる。
映画はプレスリーがブレイクした1950年代から亡くなる1970年代までを駆け抜ける。上映時間は2時間39分にも及ぶのだが、彼の音楽とステージがふんだんに散りばめられ、目にも耳にも刺激的で退屈する暇がない。
ストーリーも、エルヴィスの人気を決定づけたという腰を激しく振って歌うスタイルの生まれたきっかけや、それを裏付けるような社会や政治に対する反骨精神を浮き彫りにして、彼の人生観のみならず、当時のアメリカ社会の思想や価値観をも伝え、単なる音楽映画の枠を超えたアメリカの近代史的な面白さもある。
その一方で、家族や関係者の呪縛からは抜け出すことが出来なかった痛々しい私生活も描かれ、まさに「波乱に富んだ人生」が繰り広げられるのだ。
■世界一有名な「エルヴィスのクルマ」
そんなエルヴィス・プレスリーの逸話で知られているのが“ピンク・キャデラック”。その名前の通りピンク色の1955年式キャデラック・フリートウッドで、1955年にエルヴィスはこの車を大好きな母親にプレゼントしている。
なぜピンクなのかと言えば、エルヴィスはピンクが大好きだったようで、デビュー当初、カントリーシンガーの前座を務めていたときからピンクのスーツを着ている。
このセンスは彼が黒人の間で育ったことも手伝っていて、劇中には、まだティーンエイジャーの彼がショーウィンドウに飾られた派手なピンクのスーツを憧れいっぱいに眺めているシーンもある。
後年、スパンコールやライトストーンを散りばめたド派手なジャンプスーツがトレードマークになったプレスリーだが、そういうセンスのオリジンがピンク・キャデラックなのである。
本作でも、エルヴィスが大ブレイクし、メンフィスに購入した家、のちにグレイスランドと呼ばれる邸宅にピンク・キャデラックやゴールド・キャデラックを始めとしたさまざまな車やバイクが並んでいる。
というのもエルヴィスは大の車&バイク好きで知られていて、ドイツでの兵役が終わり帰国するさい、1958年製BMW 507ロードスターを購入。その後すぐに売却し、2014年にボロボロになったその車がコレクターの納屋で発見され、見事にレストアされ大きな話題になっていた。
また、彼が拳銃で穴を開けたキャデラック・エルドラドがネットオークションで高額で売られていたり、何かと車ファン的にはいまでも話題にのぼる人だったりするのだ。ハーレーダビッドソン等のコレクションも相当のものだったと言われている。
本作を撮る際に製作側は、彼が所有していた車とバイクの長いリストを手に入れ、それをもとに集めたという。
撮影はオーストラリアで行われたため、アメリカの左ハンドル(オーストラリアは英国と同じ右ハンドル)のビンテージカーを探すの大変だろうと思われていたのだが、意外なことにコレクターが大勢いて、彼らが喜んで撮影に協力してくれたそうだ。
撮影がオーストラリアだったのは監督のラーマンの母国だからで、ほぼ全編をゴールドコーストのスタジオとバックロットで撮影している。入手した設計図を基に、グレイスランドの神殿のような邸宅を作り、広大な庭に集めた車をズラリと並べたのだ。
ということは、そこに登場する車はすべてプレスリーが実際に所有していたものと同じということ。気になる方は是非ともチェックしてほしい。
●解説●
1950年代のアメリカに突如、現れた新人シンガー、エルヴィス・プレスリー。女性のようにメイクを施し、女性のようなステージ衣装に身を包み、さらには激しく腰を振り、まるで黒人のように歌う彼に世間は驚愕する。
若者たちは熱狂し、大人たちは眉をひそめるなかで、エルヴィスは新しい音楽“ロック”を体現するのだった。
エルヴィスを演じるのはオースティン・バトラー。エルヴィスを売り出し、彼から莫大な金と自由を搾取したマネージャー、トム・パーカーには特殊メイクで別人のようになったトム・ハンクス。42歳でこの世を去ったエルヴィスの波乱に富んだ半生に肉薄した音楽伝記映画だ。
エルヴィスはアメリカのサブカルチャーのアイコン的存在でもあるからなのだろう、多くの映画にさまざまなかたちで登場している。ジョン・ランディスのカルトなコメディ『眠れぬ夜のために』(1985)では主人公ミシェル・ファイファの兄がエルヴィスおたくという設定。
部屋は彼のポスターとグッズだらけ、当人もエルヴィスと同じコスチュームを身に着け、車も彼にちなんだキャデラック、さらにその車のサイドボディには「The king Lives(キングは生きている)」の文字が!
また『インデペンデンス・デイ』(1996)にはビルの屋上にあがったエルヴィス・ファンが宇宙船に向かって、「神様、エルヴィスを連れ戻して!」と大騒ぎ。
そして、かのニコラス・ケイジもエルヴィス好きが嵩じて、彼のひとり娘のリサ・マリーと結婚してしまったほど。3カ月で離婚してしまったが。
またケイジは、『ハネムーン・イン・ベガス』(1993)というコメディ映画では、エルヴィスのそっくりさん大会がラスベガスで開かれているという設定で、エルヴィスのようなステージ衣装に身を包んだリーゼントのおっさんたちが大量に出現。
ケイジもそのコスチューム姿を披露してくれる。本作で流れる曲は、ブルース・スプリングスティーン、ジェフ・ベック等がカバーしたプレスリー・ナンバーというのも嬉しい。
アメ車が似合うクリント・イーストウッドも『ピンク・キャデラック』(1989)という映画に出演しているが、ピンク色のキャデラックが登場するだけで、プレスリーとはあまり縁のない映画だった。
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『エルヴィス』
公開:2022年7月1日(金)ROADSHOW
配給:ワーナー・ブラザース映画
(C)2022 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
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