北海道・泊原発の差し止め判決がセンセーショナルに報じられた5月31日、奇しくもそのタイミングで、経済産業省が今後の電力事情を占う上で気になる資料を発表した。
同省の電力・ガス取引監視等委員会の資料によれば、電力小売りと契約ができない法人に対して、電力を供給する「最終保障供給」制度の利用が5月20日までに1万3045件に上ることが明らかになった。「最終保障供給」制度は、電力供給のセーフティネットという側面がある制度だが、標準的な料金の2割増しの電気料金がかかってしまう。
大手電力会社が契約を断るワケ
この制度を利用する法人は、3月から5月にかけて急増している。今年2月には879件だったが、5477件(3月)→5133件(4月)と推移し、5月は20日までの段階で1万3045件。月末時点ではさらに増えている可能性が高い。
背景には、昨年来の原油高に加えて、今年2月末に発生したロシアのウクライナ侵略によって生じた、さらなる原油価格の高騰がある。火力発電の燃料である、原油価格の高騰により、採算が取れなくなった「新電力」が今年3月頃から相次いで撤退、あるいは新規の受付を停止している。
「新電力から大手電力会社に戻せばいいだけでは」との意見もあるだろうが、ことはそう単純ではない。大手電力会社も今年4月頃から法人に限って新電力からの切り替え受付を停止しているのだ。その結果、通常の2割高でも電力を供給してもらえる「最終保障供給」制度の利用が急激に増えているというわけだ。いずれの大手電力会社も受付停止の理由を「追加で電力を供給すると採算が取れない」としている。
なぜ、契約が増えるのに採算が取れないかのか。一言で言えば、火力電力の燃料高騰分を電気料金に転嫁しきれないということだ。もともと、大手電力会社では燃料の調達価格の上昇分をある程度は反映できるプランを採用していた。しかし、その分だけでは賄いきれず、採算が取れないのだという。
根本解決は原発再稼働だが…
経緯を追っていくと、この事態を根本的に解決するためには、発電に原油を使わない原発を再稼働していくほかないように思える。しかし、最近高まっていた原発再稼働議論にまさに冷や水を浴びせるような判決が北の大地で出た。それが昨日(5月31日)の札幌地裁判決。北海道電力泊原発1~3号機(北海道泊村)の運転差し止めを地元住民らが求めた訴訟で、同地裁の谷口哲也裁判長は北海道電力に泊原発の運転差し止めを命じたのだ。
こうなってくると、心配になるのはこの夏の北海道の電力需給だ。札幌管区気象台によると、昨夏は北海道でも猛暑が続き、猛暑日は 15 日間連続(7月24 日~8月7日)、真夏日は 27日間連続(7月13 日~8月8日)を記録した。最高気温35度を記録した昨年7月19日だけで、札幌市では9人が熱中症の疑いで救急搬送された。
北海道といえば、2018年に国内で初めて起こったブラックアウト(全域停電)を思い出す人も多いのではないか。最大震度7を記録した「北海道胆振東部地震」で、北海道電力苫東厚真火力発電所が被災したことをきっかけに、北海道の約295万戸が停電に陥った。ブラックアウトが起こった主な理由として、専門家からは予備電力不足も指摘されている。
今年も全国的な猛暑が予想されている中、最近の傾向を考えると、北海道も猛暑となる可能性はある。今回、北海道電力唯一の原子力発電所である泊原発は、再稼働どころか裁判所から運転差し止めを命じられた。
万が一、この夏、北海道胆振東部地震クラスの地震が起こったらどうなるだろうか。大規模地震が発生しなくても、北海道は台風でたびたび、停電に陥っている。猛暑の中、大型台風が北海道を直撃したらどうなってしまうのか。ブラックアウトが起こったように、地理的にも構造的にも、北海道電力はほかの電力会社との電力融通が難しい。
全国的に今夏の猛暑を乗り切れるのかが直近の大きな課題となっているが、北海道は大きなリスクを抱えることになった。