ファンのために熱いレースを展開してくれるスーパーGTドライバーたち。SNS等でも散見されますが、所属するチームやメーカーによって差はあれど、多くのドライバーが“繋がり”をもっています。そんなGTドライバーたちの横の繋がりから、お悩みを聞くことでドライバーの知られざる“素の表情”を探りだす企画をお届けしております。今回はTGR TEAM au TOM’Sのジュリアーノ・アレジ選手から、チームメイトであるTGR TEAM KeePer TOM’Sの宮田莉朋選手に繋がりました。
しばしばSNS等でも見られる、気になる2ショット。「へえ、あのドライバーたち、仲良いんだ」とファンの皆さんも驚くこともあるのでは。そんなGTドライバーの繋がりをたどりつつ、ドライバーたちの“素”を探るリレートークがこの企画です。これまでの連載は、まとめページを作りましたのでぜひご参照ください。
今回は、ジュリアーノ選手の「スーパーフォーミュラで速く走るにはどうしたらいい?」というお悩みを宮田選手にぶつけてみましたが、ファンの皆さんにとってひょっとすると意外かもしれないのは、宮田選手はめちゃ話します。これがF3時代から取材をしている筆者だからなのかは不明ですが、これまで最長だった山本尚貴選手を越えて、連載最長になりました。まあ宮田選手の人となりが分かっていただける気もするので、削らずぜ〜んぶ載せちゃいます。前編、後編に分けますが、覚悟をもって(?)ご一読いただければ幸いです。
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■とりあえず相談内容に驚く宮田莉朋さん
──というわけで、オートスポーツwebというサイトがあるんですが、宮田さんご存知ですかねぇ?(今週末、このノリで話してました)
宮田莉朋さん(以下、宮田さん):はい。もちろんです。プレミアム会員になってます。
──おぉ、素晴らしい。
宮田さん:何を書かれているかを知りたいので(笑)。坂東(正敬)さんのコラムもプレミアム会員向けですし、最初は『そのためだけというのもな』と思いましたが、だんだんコンテンツが増えたので入りました。
──ありがとうございます。そのオートスポーツwebでですね、『スーパーGTドライバー勝手にお悩み相談ショッキング』なる企画を掲載しておりまして、今回はジュリアーノ・アレジさんからご相談を預かってきました。
宮田さん:(スーパーGT第3戦)鈴鹿のときに取材があるとうかがったじゃないですか。相談の内容がぜんぜん想像がつかないです。彼からの相談というのは何も思いつきません。
──相談の内容がですね、『どうやったらスーパーフォーミュラを速く走ることができますか?』というものです。
宮田さん:えっ!? いやいやいやいや、そんな質問ですか?
──そう。
宮田さん:チームメイトなのに?
──そう。
宮田さん:教えてるのに(笑)?
──ジュリアーノは『日本に来てから莉朋はいつもいろいろなことを教えてくれて、すごく素晴らしい先生』って言ってたよ。
宮田さん:ありがとうございます(笑)。
──それと『どうやったらスーパーフォーミュラで速く走ることができるか』と。
宮田さん:そんなこと言っても、僕は1勝すらしてないですよ。アイツ1勝(2021年第3戦オートポリス)してるじゃないですか(笑)。運とかもあるかもしれませんが、とりあえず1勝しているので教えることなんて何もないですよ(笑)。
■最新スーパーフォーミュラの奥深き世界
──そこはせっかくの相談なので真摯に乗ってあげてくださいな。何かスーパーフォーミュラでのコツとかはないの? 最近のスーパーフォーミュラは素人じゃ想像がつかない世界じゃない。
宮田さん:スーパーフォーミュラですか? う〜ん……。少なからず、人間の感じるセンサーが、器用とか不器用とかではなく、『感じたことひとつひとつの要素が多い人ほど速い』という気がします。人によってタイプがあると思います。例えば、これはあくまでも僕個人の見方ですが、野尻(智紀)選手や平川(亮)選手は、クルマに対してもそうですし、ドライビングに対してもすごく繊細だと思います。クルマが少しでも変わることに対して『こうしなくちゃ』『ああしなくちゃ』ということをすぐに思いつく選手なんだと思います。山本尚貴選手もそうですね。だから、本当に速い人はダメなときでも這い上がってくる。クルマがこういう状況だから『ここをこうすれば速く走れる』『ここはドライバーで直すことができる』というセンサーがすごく敏感だと思います。
僕もまだスーパーフォーミュラの経験は浅いですが、F3のときにそのことを学びました。意外かと思われるかもしれませんが、F3の方がスーパーフォーミュラよりもアクセルの全開時間が長いんです。鈴鹿サーキットのセクター1もほぼほぼ全開ですし、富士スピードウェイの100Rやオートポリスのブリッジ下も基本全開です。
逆に言うと、全開で曲がることのできるコーナーを増やせば速く走ることができます。でも全開で曲がれるようにするために、アンダーステアのときは何をすべきか、オーバーステアのときは何をすべきかということですが、例えばオーバーステアもロールオーバーなのか、タイヤに頼りすぎてのオーバーなのか、いろいろなオーバーの内容があります。
そのなかで最近自分が思うのは、スーパーフォーミュラはあれだけハイテクノロジーで、タイヤもどのカテゴリーよりも専用タイヤになっていて、エンジンもハイパワーでダウンフォースもあるという割にはごまかしがぜんぜん効かないんですよ。もう“滑ったらダメ”みたいな感じなので、オン・ザ・レールに走らないといけないんですが、その状況下でも限界より110%くらい攻めないとタイムが出ません。120%を超えて滑ったりアンダーステアを出してしまうと、それでは遅いし。でもそれ以下の95〜100%だと結局アンダーリミットで、タイムが遅いんです。ブレーキングで攻めきれていないかコーナー速度が遅いんです。でも攻め過ぎたら今度はコーナー出口で踏み切れない。スーパーフォーミュラはその幅が他のカテゴリーよりもすごく狭い気がするんです。最近思うことなんですが。
■速い人は“忙しくない”
──ほえ〜。難しすぎる。
宮田さん:例えばスーパーフォーミュラの車載カメラを見ていても、速い人はぜんぜん“忙しく”ないんですよ。僕なんかも、自分を立てるわけではないですが、予選では上にいる方だと思いますけど、やっぱり自分はまだまだです。タイムは出ているけど、クルマのバランスとドライビングがうまく合っていない気がしています。やっぱり本当に速いクルマは、もっと『こんな乗り方なの!?』というくらい静かな運転で『このドライビングが速そうには見えない』みたいな感じです。
──そういう意味ではスーパーフォーミュラの『SFgo』で見ても面白いのかもね。
宮田さん:すごく面白いと思います。最近では、それこそF1は何も起こらないので見ていて面白くないと思うんですよ。例えば『スピンしそうだな』とか『すごく攻めているな』ということもなく淡々と走ってるクルマがトップに来ますよね。
スーパーフォーミュラも、特に野尻選手は多少カウンターを当てることもありますけど、クルマをとにかく前に進ませるという走らせ方です。それに気づくまでは僕もけっこう時間が掛かりました。F3やGT300のころは、縁石を跨いでもアクセルを踏んだほうが速いと思っていました。それは先ほども言った全開時間を伸ばすためです。でもスーパーフォーミュラになると、車高が少しでも動きながら加速していたり、タイヤが少しでも滑りながらアタックをしていると、それがリミットを超えるとすごくタイムロスをしてるんです。
──すごい世界ですな。
宮田さん:決勝なんかは本当にすごくシビアです。攻めたいけど攻めないほうが速い。これは人の感覚それぞれだと思いますが、僕は逆に、一歩手前の気持ちで走ったほうが全体的に速いです。そのひとつひとつが合わさって本当のトップだと思います。僕もまだまだで、予選は上でも決勝はダメというところもありますし、予選と決勝どちらも良いときもありますが、少なからずそういった部分がすごく繊細です。
それこそスーパーフォーミュラで僕のエンジニアである小枝(正樹)さんはニック(キャシディ)選手を担当していて、僕が(中嶋)一貴選手の代打で乗ったときも、予選では僕のほうが前にいるけど、決勝でニック選手がなぜ速かったのかを見ると、そういったひとつひとつの走らせ方がぜんぜん違っていました。それによってクルマの作り方と、それに対してのドライビングも違っていました。なので、そういったことはあるのかなと思います。
──ジュリアーノは今の内容から何か感じろってことね。
宮田さん:でもジュリアーノも、ドライバーはやっぱりスランプというのがあると思います。僕はジュリアーノを近くで見ていて今はスランプにいると思いますが、彼も日本人の血があるとはいえヨーロッパ出身なので、そこから這い上がるメンタリティは持っていると思います。いつでも来そうな気がするので、僕なんて逆に警戒しています。
僕も昨年は先生と言いますか、ジュリアーノといる時間が長かった。スーパーフォーミュラ・ライツも教えたりしていて、彼なりに考えてきて走りますし、あとは勢いもあるので、それでまとまると速いです。特に外国人選手にはそういった勢いがある。なので教えてはいますが『いつ来るんだろう』という恐怖心の方がいつもあります。
■尊敬しているふたりのドライバー
──なるほどねぇ。非常に参考になりました。
宮田さん:本当にコレでいいのかな? というか、私生活とかの悩みなのかとずっと思っていました(笑)。
──ジュリアーノの前はロニー(クインタレッリ)でしたが、そっちは料理の悩みだったけどね。
宮田さん:ロニーさんの回は見ました。料理の話だったので、ジュリアーノもたぶん私生活の悩みなのかなと思っていたら違いましたね。ちょっとレースのこととは想像してなかったですね。しかもスーパーフォーミュラなんて(笑)。チームメイトだから隣にいるし、データだって見てるし。
──想像のナナメ上のお悩みが来るのがこのコーナーの特徴かも。
宮田さん:そうなんですね(笑)。そういった意味では、今年はスーパーフォーミュラとスーパーGT、どちらのカテゴリーで外国人選手と組んでいるので、見ていてすごく面白いです。サッシャ(フェネストラズ)とジュリアーノはぜんぜん違います。でも、日本人にはない刺激がいつもありますね。
──ではジュリアーノのお悩みは解決ということで。
宮田さん:これで解決なんですかね(笑)。
──じゃ、お友だちを紹介してほしいんですが、サッシャ以外でお願いしゃす。
宮田さん:英語が分からないから的なヤツですか?
──そういうんじゃないよ(笑)。いちばん最初の石浦宏明さんの時も大嶋和也さんはダメにしたんだけど、ベタすぎるのはナシってこと。
宮田さん:あ〜なるほど。……でも正直、友だちいないんですよ。本当にドライバーの友だちがいなくて、たぶん同世代の日本人ドライバーでは友だちがいないんですよ。というか日本人で友だちいるのかな……。本当にそのレベルです。
いや、もちろん話はしますよ。坪井(翔)くんとかも話はしますが、友だちかと言われると……すごく微妙な世界です。それこそ僕は、僕の家族と一緒に毎週のようにサッシャとご飯を食べていますし、サッシャの家族ともご飯を食べたことがあります。友だちかぁ……。
でも僕のなかで、友だちかどうかは別として、本当に尊敬しているドライバーは意外かもしれませんが松下(信治)さんと平川さんなんです。平川さんは僕が2015年のFIA-F4に限定ライセンスで参戦するとなったとき、F4に出たいけど資金的に厳しく、高木虎之介さんに支援してもらい、RSSの芹沢(良一)さんを紹介して頂きました。それでもF4に出るのは厳しいとなったときに、平川選手のお父さまに僕は支援してもらいました。平川選手自身も僕にドライビングを教えたりしてくれて、それがあっての今なんですよ。
その当時はFTRS(フォーミュラ・トヨタ・レーシング・スクール)も主席だったのですが、年齢が足りないという理由で落とされてしまったんです。トヨタのスカラシップもない状態でF4に出られて、平川選手もGT500でトムスに所属していたので、そのときからトムスのホスピタリティでレースを見ていました。平川選手もどこまで僕のことを知っていて見ていたかは分かりませんが、少なからず、あのときに平川選手が手助けをしてくれたので、今37号車にも乗れているんです。
──松下選手は?
宮田さん:松下選手は全体的に尊敬しています。何か……日本人にいない感じ。一度だけイベントで一緒に仕事をしましたが、そのままでした。当時はメーカーのバックアップがある状態でヨーロッパに行き、やっぱりヨーロッパで刺激を受け、F1を目指すという思いがあったからこそ、ああいうキャリアを積まれてきたと思いますし、メーカーの支援がなくなってしまい日本に戻るというとき、そこで諦めずに自分の力であそこまでやったというのは本当に凄いと思います。
僕もずっとヨーロッパに行きたいという思いがあります。カートの世界選手権に出てから、ずっとヨーロッパでまたレースがしたいと思いつつも、それが自分としては実現できていないですし、そういった部分で、イベントのときにいろいろとお話をして本当に尊敬しましたし、カッコいいなと思いました。僕もいつかああいうドライバーと言いますか、ああいうキャリアを歩みたいと思いました。
平川選手もそのくらいの貪欲さがあったからこそ結果と夢が実現していると思います。夢を叶えるための行動力だったり、行動してからの結果の残し方というのも僕にはないと感じてしまします。僕も傍から見るとトントン拍子でステップアップしましたが、平川選手や松下選手には及ばないなとすごく感じています。その部分では、友だちかどうかは別として、松下選手なら僕の名前を言っても大丈夫かなと思います。……でも悩みとは違うんですよねぇ。
■悩みがあっちいったりこっちいったり
──松下選手には今の内容を聞いてみたい?
宮田さん:そういう意味では聞きたいです。いつも松下選手には『まだチャンスがあったら、またヨーロッパに行きますか?』とか、『これからそういった機会があったらまたヨーロッパに戻りますか?』ということをいつも聞いています。レースの悩みはそれしかないです。日常の悩みはたくさんあります。その悩みを相談する相手はいるのかな……。
日常の悩みだと、僕の父親が会社を経営していて、たぶん僕が会社を継がなければいけないんです。ヒラノさんはご存知(※1)かもしれませんが、父親はああいう人なので『あと2〜3年したらお前に社長業を渡すからな』というくらいのノリなんです。
でも僕は一切経営を知らないですし、父親ほど頭が良いわけでもない。僕の両親はああ見えて頭が良くて外国語も話せますし、外国の仕事をやっているから余計に僕よりも賢いんです。僕が後を継げるなんて思っていないので、そういった部分で“ビジネスを知っているドライバー”は誰かいないかなといつも考えています。
それこそ河野(駿佑)くんもそうで、お父さんがレーシングファクトリー(RSファイン)を経営しているから後を継ぐのかどうかが気になりますし、じゃあ継ぐとなったら自分のレースはどうするのかという話もあります。
※1:この記事の取材の際に、大変お世話になりました。以降サーキットでもいろんな話を教えてくださいます。
──RSファインはレース屋さんだからねぇ。
宮田さん:でもレース屋さんでも、エンジニアか経営かは分かりませんが、自分が乗るのとはやっぱり違うと思います。
──でもシュンくん(河野選手のこと)は、すでにそういった勉強もしているはず。自分が乗らないときはエンジニアの仕事もしているからね。
宮田さん:そういう人はどうするんだろうなということが気になります。
──そういう意味では富田竜一郎さんがちょっと近い境遇だと思う。
宮田さん:確かにそうですね。でも富田さんは、ご存知のとおりあのほんわかした優しさの性格なので『莉朋さんレベルだったらもうレースに集中すればいいんですよ〜』というひと言で終わりそうです。
──しかも、この間すでに登場しちゃったからね。
宮田さん:そうなんですよ。現実的に話しやすく、ヒラノさんのネタ的にも松下選手がいいんでしょうけどね。『ヨーロッパのレースに戻りたいか』ということと、『日本とヨーロッパはどう違いますか』というのはレースファンからしても気になる点かなと思います。でも、ホントの僕の悩みは違うんですよね。
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というわけで、続きは後編にて!