7月2日より3日間にわたって続いたKDDIの通信障害。緊急通報ができなくなるなど音声通話を主体に大きな影響が出ただけでなく、銀行のATMなどKDDI回線を使ったサービスにも影響が出て、直接・間接的に、非常に多くの人に影響を与えることとなった。
その通信障害の経緯については、すでに通信障害の最中からKDDIが何度か説明会を実施して説明しているのだが、当時はまだ原因究明が進んでいなかった。そこでKDDIは、総務省に事故報告書を提出した翌日の7月29日に改めて記者説明会を実施。通信障害の全容を説明するとともに、ユーザーに対する補償の方針などについても明らかにした。
ついに明らかにされた、一連の通信障害の全容
これまで明らかにされた通信障害の経緯を大まかに振り返ろう。まずコアネットワークのメンテナンスのため音声通話の通信ルートを変更したところ、15分間通話ができない状態となり、元に戻したことで、その間のアクセスが音声通話を処理する「VoLTE交換機」に集中し、輻輳状態となってしまったのが発端。その輻輳が、契約者の位置や情報などを管理する「加入者データベース」へと波及し、大規模化を招くこととなったのだ。
そこでユーザーからのアクセスに制限をかけ、加入者データベースの負荷低減を図ったものの、負荷が十分に下がらず通信障害が長期化。その原因を調査した結果、VoLTE交換機の18台のうち6台が、なぜか加入者データベースへ過剰に信号を送り続けていたことが判明し、それらを切り離すことでようやく障害の解消へと至った。
そして今回の説明会では、以前の説明時点では判明していなかった障害の原因が明らかにされた。まず通信ルートの変更で音声通話が15分止まってしまった原因だが、これについては、ルート変更のためルーターの設定を変更する際、古い手順書のファイルを使ってしまったためと説明。その影響で災害時をも上回る、通常の7倍ものトラフィックがコアネットワーク内で発生し、VoLTE交換機の輻輳へとつながったようだ。
そしてもう1つ、6台のVoLTE交換機に異常が発生した理由だが、こちらは自動でバックアップファイルを生成するタイミングが影響した。問題が起きた6台は、バックアップ生成のタイミングが輻輳発生時と重なってしまい、異常な状態のバックアップを使ってVoLTE交換機を復旧したことで異常が続いてしまったようだ。
こうした経緯を振り返ると、通信障害のきっかけはわずかなミスであったことが分かる。それがここまで大規模かつ長期化するに至ったのは、KDDIの代表取締役社長である高橋誠氏が、「門番自身が(位置登録の)再送を繰り返すことを想定できなかった」と話す通り、ネットワークの内側で発生した輻輳に対する備えが不足していたことが要因といえるだろう。
こうしたことからKDDIは今後、ネットワークの内側から起き得る輻輳への対処を中心に、通信障害への対策を強化していくとしている。だが通信障害が落ち着いた後、消費者の関心は障害の経緯よりむしろ補償に移り、「誰にいくら支払われるのか」という点が大きな関心を集めた印象も受ける。
注目されたユーザーへの補償方針
その補償についても、KDDIは今回の説明会で明らかにしているが、返金対象者と金額は「約款」と「お詫び」とで大きく分かれている。前者は契約約款に基づき、通信障害により24時間以上連続して全ての通信サービスを利用できなかった人が対象。今回の場合、音声通話が24時間以上利用できなかったことから、データ通信が利用できない音声通信サービスのみの契約者がその対象になる。
支払われる金額は、契約しているプランの基本料金を日割りした額に、音声通話ができない状態が続いた2日分を掛け合わせた金額になるとのこと。具体的な額は契約プランによって異なるが、日割り平均額は52円とのことなので、返金額は100円程度となりそうだ。
そして後者は、約款による返金対象の音声サービス契約者に加え、スマートフォンなどデータ通信にも対応したサービスの契約者も対象となり、その人数は3,589万に上る。今回の通信障害ではデータ通信には影響が及ばなかったので、データ通信対応プラン契約者は約款上返金対象にはならないのだが、障害の規模を鑑み、先の音声プランの日割り平均額となる52円に通信障害の影響が続いた3日をかけ、さらにお詫びの意味を込めて200円を返金するとのことだ。
障害の影響を大きく受けた人からみれば、200円という金額はかなり小さいのでは?と感じるかもしれないが、その対象が3,589万となると、単純に計算すれば72億円近い金額になる。これに約款による返金、そして企業への補償、沖縄で携帯電話事業を展開するKDDI子会社の沖縄セルラーによる補償を加えると、グループ全体で75億円に上るだけに、かなりの損失となることは間違いない。
それに加えてKDDIは、今回の通信障害によって金額面の損失だけでなく、信頼という面でも大きな損失を被っている。高橋氏によると、既存ユーザーの解約自体はあまり増えていないというが、新規ユーザーの獲得には影響が出ているそうで、信頼回復が進まなければ契約獲得で他社に遅れを取る可能性もあるだろう。
懸念される今後の業績への影響
それだけに気になるのが、今後の業績に対する影響だ。KDDIは運用コストがかかる3Gを停波したことで、経営面では他の大手2社より身軽になったものの、行政による通信料金引き下げの影響は現在も大きく響いている。また、赤字に苦しむ楽天モバイルがネットワーク整備を急いでKDDIとのローミングを急速に減らしたため、楽天モバイルからのローミング収入も大幅に減少している。
そのような状況下で今回の通信障害が起き、大きな損失が発生したことで、今年度の業績予想を達成できない可能性も考えられる。だが高橋氏は「業績への影響がないとは言えないが、それをカバーしながら(2022年度の)開示目標値を変えることはない」と説明。経営努力でカバーすることで、2022年の目標は到達できるとの考えを示している。
その背景には、通信以外の事業が好調に伸びていること、具体的には同社が成長領域と位置付ける「au PAY」「auじぶん銀行」などの金融事業や、企業のデジタル化需要を獲得している法人事業が好調に伸びていることが挙げられる。
ただ一方、通信事業を大きく伸ばす術が少ないのに加え、5Gのエリア拡大や高度化、そして通信障害への備えを強化する必要が出てきたことから、設備投資コストが今後増えることも想定されるだけに、課題は少なくない。
通信障害に関して、自らの言葉で説明・対応したことで消費者からの評価を高めた高橋社長だが、この難局を乗り越え業績目標を達成できなければ、何らかの責任を問う声が出てくる可能性もある。それだけに、今後は経営面での高橋社長の手腕が大きく問われることになりそうだ。