Wシリーズ第5戦の土曜日の朝、Wシリーズの選手と関係者を乗せてホテルを出発するバスのなかに、Jujuの姿はなかった。
金曜日の予選で原因不明のマシン不調に再び見舞われ、満足なアタックが行えずに終えたハンガロリンクでの予選。コクピットを降りたJujuは、悔し涙を流していた。開幕当初から訴えていた問題がまったくと言っていいほど解決されない状況に対する不満が我慢の限界に達したからだった。
土曜日の朝、サーキットでWシリーズ側と再度、話し合いの場を設けていたJujuは、関係者とは別の方法でサーキットへ向かった。Wシリーズ側とさまざまな問題点を話し合い、すべては受け入れてもらえなかったが、いくつか改善してもらえることとなったJujuは、今後のレース人生のことも視野に入れて、Wシリーズのレースを続行する道を選んだ。
「予選が終わったときは、ステアリングを投げて、レースを放棄しようかとも考えましたが、負けても負けても諦めないという気持ちで、意地でレースに臨みました」というJujuは、16番グリッドからハンガリーのレースをスタートさせた。
Wシリーズ側がマシンを調整してくれたことで、前日までのようにストレートで真っ直ぐ走らないという問題は解決した。「でも、そのクルマに合わせたセッティングを行っていないため、クルマの調子は正直わかりません」という状態だった。
それでも、スタートでひとつ順位を上げたJujuはその後、上位陣の離脱にも助けられ、さらにポジションアップ。セーフティカー解除後のリスタートでランキング5位のベレン・ガルシアをオーバーテイクして、入賞圏内の10番手に浮上した。
しかし、Jujuはそこでアクセルを緩めることはしなかった。
「目指していたのがそこではなかったので、チェッカーフラッグが振られるまで、1台でも多くのマシンを抜こうと前を追っていました」と、さらにひとつポジションを上げて、9位でチェッカーフラッグを受けた。
レース後のJujuは、前日までの悩みを抱えていた表情は消えていた。
「本当に苦しい週末でしたけど、今日はいままで起きたいろんなことを振り返らずに、吹っ切れた気持ちでレースできたので、苦しかったけど、楽しかったです。初めてのポイントなので、それはうれしい。これでやっと一歩、前に進めたという感じです」
レースに出てよかったかと尋ねると、Jujuは一瞬考えて、こう答えた。
「『よかった』ということに自分でしたという感じです。後悔するようなレースはしたくなかった。今回のレースを一番楽しんだのは自分だと思います」
Wシリーズはレース後、ハンガリーでのドライバー・オブ・デーにJujuが選ばれたことを発表した。
「普通にレースすることができれば、これぐらいの走りができるぞということを見せられた」
Jujuはそう言って、Wシリーズ初ポイントを静かに噛み締めていた。