世界各国が規制を撤廃する中、日本では依然として新型コロナウイルスの感染者が増えているが、その一方で、世界ではサル痘の流行が懸念されており、7月23日には、WHOのテドロス事務局長は、公衆衛生学的緊急事態であると宣言した(1)。
本邦でも、25日に国内1例目、28日に2例目のサル痘の感染者が出たと発表された。1例目は30代男性で欧州からの帰国者、2例目は、北中米居住者の30代男性とのことで、いずれも、都内の医療機関にて入院治療されているとのことだ(2,3)。
サル痘とは?
サル痘とは、ポックスウイルス科オルソポックスウイルス属のサル痘ウイルスによって引き起こされる感染症で、人畜共通感染症(人と動物に共通する感染症のことで、両者の間で自然に感染し、伝播するものを言う)のひとつだ。「オルソポックスウイルス属」には、かつて地球上で猛威をふるった天然痘ウイルスも含まれている。
サル痘は1970年代にアフリカではじめて感染が確認され、中央アフリカから西アフリカにかけて流行がみられてきたが、2022年5月から、アメリカや欧州で感染が広がっている。
サル痘の主な感染経路は接触感染や飛沫感染で、ウイルスを保有するネズミやリスなどの齧歯類やサルなどの動物や人の血液や体液にふれることで感染するとされている。潜伏期間は7−14日程度で、潜伏期間の後、発熱、頭痛、リンパ節の腫れ、筋肉痛の症状が0-5日ほど続き、発熱1-3日後に発疹が出現、多くは、2-4週間ほどで自然治癒する。
国内では、感染症法上、4類感染症に指定されている(就業禁止など、患者に対する行政処分はなく、発生の届け出や動向の調査が義務づけられている)。
致死率や重症化は?
では、かかったらどれだけの確率で重症化するのか、気になるところではないだろうか。
WHOによると、サル痘の致死率は、近年では3-6%(4)で、若い年齢層に多いとされている。これまでの死亡例の報告はアフリカ大陸内に限られていたが、先日、アフリカ外の死亡例が、ブラジルとスペインから報告された(5)。
また、自然に軽快する例が多いといわれるが、小児や妊婦、免疫不全者で重症となることがあるようだ。
男性同士の性的接触にも警鐘
今回の流行で、各国からの症例では、若い男性の感染者が多く、その中で、男性同士での性的接触による感染が疑われる例が多いことが報告されている(感染経路は男性同士の性的接触に限られるわけではない)。
WHOのテドロス事務局長は、複数パートナーとの性的接触はリスクが高いとして、パートナーの数を減らし、新しいパートナーとの性的接触について再考するようよびかけている(一方で、「スティグマや差別はウイルスと同じくらい危険だ」として、今後起こりうる差別などにも警鐘を鳴らしている(6)。
なお、性的接触により感染する感染症を性感染症というが(梅毒やHIVなどもこれに含まれる)、サル痘は性感染症には含まれていない。
サル痘ウイルスは、天然痘ウイルスと同じオルソポックスウイルス属に属しており、天然痘ワクチンは、サル痘に対して、85%の発症予防効果があるとアフリカの研究で報告されている(7)。
天然痘ワクチンを打っていない世代は?
ところで、日本では、天然痘ワクチンを接種した世代と、接種していない世代があるのをご存知だろうか。
天然痘ワクチン(種痘)が定期接種で行われていた時代には、1歳と6歳頃に接種されており、比較的長期にわたる免疫が得られると考えられているが、接種後何年持続するかについては、諸説ある(7)。
天然痘は、ワクチンによって撲滅された唯一の感染症であり、WHOは、1980年に天然痘根絶宣言を出した。それ以来、現在に至るまで患者の発生はみられていない。日本でも、1956年を最後に感染の報告はなく、1976年に天然痘ワクチンの定期接種が廃止された。そのため、おおむね45歳以下の人はワクチンを打っておらず、抗体を保有していないことになる。
厚労省、天然痘ワクチン使用承認へ
天然痘ワクチン定期接種廃止後、政府は、バイオテロへの懸念から、2001年からワクチン製造を復活させ、2005年に政府は5600万人分の備蓄を検討することとなり、現在でも、製造と備蓄が続けられている。
これまで、天然痘ワクチンはサル痘の予防に関しては適用外だったが、7月29日、専門部会の審議を経て、薬事承認する方針を決定した。接種対象は、感染症部会で8月にも決定されるとのことだが、医療従事者などハイリスクな人から接種対象になることが予測されるが、経過を注視していく必要があるだろう。
なお、WHOは、現時点では集団予防接種を推奨してはおらず、サル痘感染者との接触者、医療従事者、一部の実験室勤務者などリスクの高い人へのワクチン接種を推奨している(6)。