つい先日まで、1ドル=140円も?と見られていた円安基調が一転、2日には一時130円84銭の値を付けた。わずか2週間ほど前の7月14日には1ドル=138円98銭と、すぐにでも1ドル=140円の大台を突破しそうな勢いにあったが、7月末から円高基調が高まり、7月29日には1ドル=133円24銭、8月1日には1ドル=131円57銭、そして今日は一時、130円84銭だった。一体何が起きているのか。
ツイッターで「有事の円買い」トレンドに
この円相場の急騰に、ネット上では「有事の円買い」というキーワードが躍った。アメリカのペロシ下院議長の台湾訪問をきっかけに、投資家の間で台湾有事が起こることへの懸念が高まり、相対的に安全な通貨とされる円を買う動きが広がったという見方だ。
ペロシさんが台湾に来るということで、有事の円買いが昨日からトレンドになってますね。
なるほど台湾情勢の緊迫化で有事の円買いもきてるんだな
ドルが下がってるっていうわけでなく円だけ上がってるのか。有事の円買いもやっぱりありそう。
有事の円買いとは、戦争や紛争、大災害などの有事が起こった時に、リスク回避の手段として他の通貨を売り、比較的安全な通貨とされる円を買う人が増えることから円高基調になることを指す。
リーマンショック時は1ドル110円台から90円台に
過去の代表的な「有事の円買い」は、2008年のリーマンショック時、2010年の欧州債務危機、2011年の東日本大震災、2016年のイギリスのEU離脱、2017年のシリア空爆などがある。たとえば、リーマンショック時は1ドル=110円台から90円台に、東日本大震災時には1ドル=82円台から77円台とそれぞれ円高になった。
直近の有事と言えば、誰もがロシアによるウクライナ侵略が思い浮かべるだろう。今年2月末から始まったウクライナ侵略で「有事の円買い」にはなっていない。それどころか、ドルをはじめ、あらゆる通貨に対して円安になっている。
今年の2月末に1ドル=115円台だったが、5月には1ドル=130円の大台を突破。前出のように、7月14日には1ドル=138円98銭の値を付けている。なぜ、ウクライナ侵略の際には「有事の円買い」にならなかったのか。
ウクライナ侵略で円安が進行したワケ
様々な要素が複雑に絡まりあっているため、一概には言えないが、可能性として高いのが日米の金利差が今後も拡大を続けていくと投資家から見られていることにある。アメリカは現在、記録的なインフレに襲われているが、アメリカの中央銀行にあたる米連邦準備制度理事会(FRB)は、インフレを抑え込むために3月16日に0.25%の利上げを決定。6月にも約30年ぶりとなる大幅な利上げをした。
対して、日本は、日銀の黒田東彦総裁が、金融緩和を継続していくことをことあるごとに強調している。実際に、現状の日本では利上げしたら経済活動へのダメージが大きすぎるため、投資家の間でも、「日本での利上げは当面行われないだろう」との見方が大半だ。
この日米間の政策金利の差もあり、金利のつかない円から金利の高いドルに資金が流れていった。
ただ、「日米間の政策金利の差」という理由だけでは、ウクライナ侵略の際に「有事の円高」とならなかったことは説明できても、今回「有事の円高」になることの説明がつかない。
今の円高基調が本当に「有事の円高」なのか、それとも他の理由があるのか。外国為替レートは、中長期的にはある程度予測できても、短期的に予測することは不可能に近いと言われるほど様々な要素が絡み合う。投資家をはじめ、1円の上がり下がりが業績に大きく影響を及ぼす輸出入企業はしばらくの間、ドル円チャートから目が離せない展開になりそうだ。
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