政府は7月27日、クリーンエネルギーで経済社会システムの変革を目指す「GX(グリーントランスフォーメーション)実行会議」の初会合を開催した。この場で、岸田文雄首相は原子力発電所の再稼働などの具体策を8月にも示すよう指示したことがネット上で話題となっている。
ネットでは、「早く原発を再稼働しろ」という意見が多くを占めているが、ネットだけではなく新聞購読層でも原発再稼働派が多数派になりつつある情勢だ。
「原発動かすべき」70%
日本経済新聞が1日に発表した世論調査によると、来冬に懸念される電力不足に備えて最大9基の原子力発電所を稼働させる政府方針について聞いたところ、「妥当だ」と回答した人が51%、「もっと稼働させるべきだ」が19%。両回答を合わせると、原発を動かすべきと回答した人の割合は70%に上る。なお、「稼働させるべきではない」は22%だった。
他の新聞社での世論調査でも同様の傾向が見て取れる。
読売新聞が先月の参院選後に行った世論調査での、「あなたは、規制基準を満たした原子力発電所の運転を再開することに、賛成ですか、反対ですか。」という問いに「賛成」の人は54%で過半数を超えた。「反対」の人は37%だった。大手新聞社の中でも脱原発を強行に社論としている朝日新聞の世論調査でも直近になればなるほど、原発再稼働派が増えている。
昨年までは原発反対派が優勢
原発再稼働を問う世論調査では、2011年の福島第一原発の事故以降、最近に至るまで一貫して、「原発反対派」が多数を占めていた。テレビ朝日が事故から2カ月後の2011年5月に行った世論調査では、当時の菅直人首相が浜岡原発(静岡県御前崎市)を止めたことについて、72%の人が「支持する」と回答していた。
事故から10年が経った昨年でも、まだ「原発アレルギー」は根強かった。日本原子力文化財団が行った世論調査(複数回答可)では、原発再稼働に対して最も多い意見は、「再稼働を進めることについて、国民の理解は得られていない」で46.3%。次いで、「放射性廃棄物の処分の見通しも立っていない状況では、再稼働するべきではない」が36.4%、「福島第一原発の廃炉の見通しも立っていない状況では、再稼働するべきではない」が34.0%という順だった。「電力の安定供給を考えると、原子力発電の再稼働は必要」と考える人は30.0%に留まった。
ところが、日経新聞や読売新聞の世論調査でも明らかなように、ここ最近、原発再稼働すべきという人が急増している。理由は足元で進み続ける、エネルギー価格の高騰とそれによる電気料金の値上がりだろう。
再稼働の気運高まった矢先…
ようやく原発再稼働の機運が高まってきた矢先に、原発を擁する大手電力会社に関するニュースが飛び込んできた。
大阪第2検察審査会が1日、関西電力の八木誠前会長、森詳介元会長、岩根茂樹元社長の3人を「起訴相当」とする議決を公表したのだ。3人は、高浜原発が立地する福井県高浜町の元助役から多額の金品を受け取ったとして、市民団体などから特別背任などの疑いで刑事告発されていた。
大阪地検は昨年11月、3人を含める告発された9人全員を嫌疑不十分で不起訴処分とした。この不起訴処分を不当だとし、告発した市民団体などが検察審査会に審査を申し立てていた。今回の検察審査会の「起訴相当」とする議決を受けて、大阪地検は再度捜査し、改めて起訴するかどうかを判断するという。
このニュースがマスコミ各社によって報じられると、早速、「こんな会社に原発は任せられない」「再エネなら、裏金とも無縁ですよ」「こんないい加減な会社に、原発再稼働とか無理でしょ」といった原発再稼働と事件をあえて結びつけるような意見が散見された。
もちろん、関西電力の元経営トップの3人が法を犯していたのであれば、きちんと捜査したうえで、しかるべき処分を受ける必要がある。しかし、それと原発再稼働とはまったく別問題だ。現在、この3人が関西電力の経営トップというわけでもない。
関西電力は、今月中旬に美浜原発3号機(福井県美浜町)の再稼働を予定している。万が一にも事故を起こさないためにも、再稼働の準備は粛々と行われるべきだろう。