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 地球温暖化の対策として自動車メーカーがカーボンニュートラルへの取り組みを行っている中、EVや燃料電池車など電動化が大きな注目を集めている。しかしEVの販売比率が上がったとしても、現実的には社会に多くのガソリン車やディーゼル車が残ることになる。

 そこでこういった内燃機関で動くクルマの燃料に関しても、カーボンフリーへの取り組みが始まっている。これから市販の燃料はどのような進化を見せるのだろうか?

文/斎藤 聡
写真/TOYOTA、SUBARU、伊藤忠エネクス、Adobe Stock

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■カーボンフリーとカーボンニュートラルの違い

2022年スーパー耐久開幕戦で、トヨタ、スバル、マツダ3社がカーボンニュートラル燃料を使った車両での参戦を発表した

 走ってもCO2が出ないカーボンフリーなクルマと言えばEVが思い浮かびます。でもそれだけではありません。しかも内燃機で実現している! 正しくはカーボンフリーじゃなくカーボンニュートラルなのですが、CO2の排出が±0の内燃機関用の燃料があるんです。それがカーボンニュートラル燃料です。

 2022年スーパー耐久レースの開幕戦となる鈴鹿サーキットで、トヨタ、スバル、マツダ3社による共同記者会見が行われ、そのカーボンニュートラル燃料を使ったレース車両での参戦が発表されました。

 スーパー耐久は2021年シーズンからメーカー開発車両が参戦できるクラスST-Qが新設され、トヨタ、スバル、マツダの3社はこの枠で参戦するということになります。

 話を整理するために、カーボンフリーとカーボンニュートラルの何が違うのか説明しておきましょう。

 カーボンフリーというのは文字とおりFREEなのでCO2の排出が0ということです。これに対してカーボンニュートラルはCO2の排出力が±0ということです。

 なんだ、それじゃあカーボンフリー燃料はCO2を排出するんじゃないか、と思われるかもしれませんが、それを言うならEVもクルマ(とバッテリー)を作る過程でCO2を発生しています。

 製造段階からクルマを廃棄するまでのCO2排出量を考慮するライフサイクルアセスメント(LCA)の考え方でいうと、EVも現在はカーボンフリーではないのです。

 一方、内燃機関のクルマはクルマの製造段階でのCO2の排出量は(EVに比べ)少ないですが、燃料を燃やしてCO2を排出します。

 カーボンニュートラル燃料について、資源エネルギー庁のHPから引用すると、『合成燃料(≒カーボンニュートラル燃料)とは、CO2(二酸化炭素)とH2(水素)を合成して製造される燃料です。複数の水素化合物の集合体で“人工的な原油”ともいわれています。』

 原料となる二酸化炭素(CO2)と水素(H2)のうちCO2は発電所や工場から排出されたものを再利用します。将来的には大気中からCO2を回収する方法(DAC技術)の開発も進められています。

 いずれにしても、すでに存在しているCO2を資源として再利用することは、カーボンリサイクル(CO2の総量は増えないという考え方)の観点から「脱炭素燃料」とみなすことができる、と考えられています。

 水素(H2)については、製造過程でCO2が排出されない再生エネルギーで作った電力を使って水電解によって水からH2を作る方法が基本となります。

 要は、CO2は排出されたものを再利用し、H2は水力発電、太陽光発電、風力発電などCO2を発生しない方法で作った電力を使って水を電気分解して作るというわけです。

■スーパー耐久でカーボンニュートラル燃料を使用

2021年に水素エンジンでのスーパー耐久参戦が話題となったカローラH2コンセプト。2022年はカーボンニュートラル燃料使用のGR86も参戦する

 話をトヨタ、スバル、マツダ3社のスーパー耐久参戦の話に戻します。

 「レースの燃料」といわれると、一般ユーザーには関係のない遠い世界の話と思われるかもしれませんが、市販車に限りなく近い車両を使って行われるスーパー耐久レースの燃料にカーボンニュートラル燃料を使うところがポイントになります。

 過酷なレースシーンでカーボンニュートラル燃料の実用性が認められれば、将来の市販化も現実味を帯びてくるし、EVだけじゃなく、内燃機関を使ったカーボンニュートラルも夢物語ではなくなります。

 2022シーズンのスーパー耐久レースには、トヨタからは昨年から参戦している水素エンジンのカローラH2コンセプト、カーボンニュートラル燃料を使う1.4L直列3気筒ターボのGR86、それにガソリンのGR86の3種類のエンジンを使った車両が用意されています。

 スバルはカーボンニュートラル燃料を仕様の2.4L水平対向4気筒エンジンを搭載したBRZで参戦します。

 マツダは食物由来のバイオディーゼル燃料を使うデミオ(マツダ2)で1.5Lディーゼルターボで参戦するが、2022年後半には2.2Lのバイオディーゼルターボを導入すると発表されています。

 ちなみにマツダのバイオディーゼルはバイオディーゼル燃料100%で、従来からある混合用バイオ燃料とは異なります。

 こうして実際にレースに参戦し、レーシングスピードで走れることが実証され、性能的にもどんどん改良されていった先に実用化の未来が見えてくるわけです。

 クリーンな電気を使うといっても国内の電気供給を見れば、依然としてCO2を排出する火力発電はなくならないのだから、言葉の綾じゃないの、という指摘もあるかもしれません。けれども大切なのは、CO2を増やさないための取り組みです。

 大気中の二酸化炭素の割合は現在0.04%です。1985年には0.03%だったので、40年にも満たない短い間に33%も増えているわけですからことは急を要します。

 クルマでできることと言えばカーボンフリー(CO2排出ゼロ)が理想ですがLCA(ライフサイクルアセスメント)を考えると実現するためのハードルはかなり高いものです。その点カーボンニュートラル(CO2総量±ゼロ)は効果的な、そして実際的な手段に思えるのですが……。

■カーボンニュートラルのカギとなる脱炭素燃料

2021年末より国内で提供されているGTL燃料。天然ガス由来でCO2排出量が少ない

 日本では経済産業省が“2050年カーボンニュートラル”に伴うグリーン成長戦略を策定しており、自動車は電動化を推し進め2035年までに新車販売で電動車(ハイブリッド含む)100%を目指すことになっています。けれども現実的にはインフラ整備を含め課題が山積しているのが実情です。

 国際エネルギー機関(IEA)の見通しによると、2030年時点でハイブリッド車を含みエンジン搭載車は91%を占めており、2040年でも84%のエンジン搭載車が残っていると予測されています。

 カーボンニュートラルを実現するためには、エンジン搭載車がそのまま、あるいは小改良で使える脱炭素燃料が重要になると考えられています。

 さて、問題となるのは現在、化石燃料よりもコストが高いことです。

 NEDO「CO2からの液体燃料製造技術に関する開発シーズ発掘のための調査(2020.8)に基づく資源エネルギー庁の試算によると、国内水素+国内合成燃料製造は700円/L、海外水素+国内製造は350円/L、海外水素+海外製造は300円/L。水素が1立方m当たり20円になると200円/Lになるとあります。

 レース用カーボンニュートラル燃料で輸送貯蔵までカーボンニュートラルを求めると1800円/Lくらいになるのだそうです。自動車メーカーにできるのは、カーボンニュートラル燃料を使ったクルマを作るところまで。燃料代は政府の政策によって変わってきます。

 それにしても水素1立方m=20円でも燃料代は200円で、高騰している今のガソリンの値段よりさらに高いのですから、これに税金を上乗せしたら、とても燃料として現実的ではありません。

 カーボンニュートラル燃料の可能性は大きく広がって見える一方、クリアしなくてはならないコストの壁が大きく立ちはだかっているのです。

 現状は開発段階初期ですから、今後レース参戦を通して、従来の内燃機関を使ったままカーボンニュートラルが可能であることを各方面にアピールできると、カーボンニュートラル燃料に注目が集まり、大幅なコストダウンが可能になるかもしれません。

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