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「クルマは長く乗らないと悪くなる」は本当か? 放置が蝕むクルマの故障場所と期間

 機械物は使い込むほどに各部が摩耗し、劣化してくる。が、まったく動かすことなく「ただ置いておくだけ」という状態であったとしても、時間の経過とともに徐々にコンディションは悪化してくる。

 例えば、電気を貯めておく「バッテリー」は、満充電でも使うことなく放置すれば「自己放電」や「極板の劣化」によって取り出せる電気量が少しずつ減少。

 密閉部のシール素材として各部に利用されているゴムは「経年劣化」によって硬化して弾力がなくなり、表面にヒビ割れが発生、さらに劣化が進行すれば裂けたりもする。

 このため、消耗品の塊でもあるクルマは距離を走らずとも年数が経過すれば確実に劣化する。しかも、人が住むことなく放置した家屋が時間の結果と共に荒れ果てるがごとく、風雨にさらされる屋外駐車場に手入れすることなく放置しておけば、各部の痛みはより早く進行するので注意が必要だ。

 そこでクルマをどれくらい放置しておくと、どの場所が悪くなるのか? モータージャーナリストの鈴木伸一氏が確認する。

文/鈴木伸一
写真/AdobeStock(トップ画像=Kirill Gorlov@AdobeStock)

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■特に注意を要するのが「バッテリー」

バッテリーはエンジンを始動すれば充電されるが、「チョイ乗り」や「夜間走行」が主体の場合は充電量が足りず、バッテリー上がりを起こしやすくなる(U-image@AdobeStock)

 それでは具体的に、どのくらいの期間で、どの場所が蝕んでいくのか、解説していこう。

 クルマに車載されているバッテリーは「自己放電」による電気の目減りは元より、各種制御系のメモリー保持や常に待機状態に置かれているリモコンドアロック等へ電気を供給する必要から、キーOFFでも一定量の電気を消費し続けている。

 それでもエンジンを始動すれば充電されるため、定期的に走らせていれば減少した分も補充され問題は生じない。しかし、「チョイ乗り」や「夜間走行」が主体だった場合、充電量が消費量に追いつかなくなり、定期的に走らせていたとしてもバッテリー上がりを起こしやすくなる。

 それだけに、長期間乗ることなく駐車場に置きっ放しという条件が加わると、より厳しい状況に陥ることになる。放置している期間が長ければ長いほど慢性的な充電不足に陥りやすくなるからで、使用年数の経過による劣化したバッテリーは元より、新しいバッテリーであっても安心は禁物だ。

■バッテリーはどれくらい乗らないと上がるのか?

 では、どれくらい乗らないでいるとバッテリーは上がってしまうのか? これはバッテリーの利用期間や充電量といったコンディションによって左右されるため、一概にはいえない。

 新品バッテリーなら1~2ケ月程度放置してもビクともしないが、1年以上使用したバッテリーなら状況次第では1ヵ月で上がることも。2~3年経過したら1ヵ月でも注意が必要で、セルの回りが遅く感じたり、一瞬でも息付きをするようになったら要注意。ただちにバッテリーの点検を依頼したい。

■エンジン内部はどうなる?

エンジンを回すことなく長期間放置しておくと、各潤滑面を覆っていた油膜は薄くなる。放置したあとで乗る場合、潤滑面を痛めないよう要注意だ(happycreator@AdobeStock)

 エンジンを停止すると、エンジン内を循環していたエンジンオイルの流れが止まり、時間の経過とともに下へとゆっくり流れ落ちていく。

 トランスミッション・デフに注入されている潤滑用のオイルも同様で、長期間、エンジンを回すことなく放置しておくと、各潤滑面を覆っていた油膜(エンジンオイルの膜)は薄くなってくる。

 その油膜が完全に流れ落ちて乾き気味、あるいは完全に渇いてしまった状態でのエンジンスタート。それを「ドライスタート」と呼び、潤滑不良で潤滑面を痛めてしまうため注意が必要だ。

 1~2ヵ月放置した程度でそんな状態にはならないが、半年~1年ともなると注意が必要となってくる。また、1ヵ月程度でも油膜は確実に薄くなっているので無理は禁物。エンジン音が静かになる(金属の打音が収まる)までアイドリングさせ、水温が安定するまではゆっくり走らせることが肝心だ。

■ガソリンが腐る!?

 川の水がきれいなのは常に流れているからで、流れが止まると澱んで濁ってしまう。それと同様、エンジン回転時には燃料ライン内をぐるぐると循環しているガソリンも滞留させたまま放置すると腐りやすくなる。

 腐るとは、揮発分が飛んで燃焼しにくくなり、残留物が酸化することで異様な臭いを発する状態のことで、空気に触れたまま長期間、放置すると発生。

 茶色っぽく変色し、ドロッとした状態になるため、インジェクションのノズルが詰まるなど厄介なことになる。エンジンがかかりにくくなり、かかったとしても異常燃焼を起こすため不安定で、まともに回らなくなる。

 このため、乗らずに長期間放置しているユーザーは注意が必要だ。特に、走らすときに必要な量を入れるなど、ガス欠寸前といった極端に少ない状態のまま駐車している人は要注意。

 半分以上入っていれば半年やそこらで腐ることはないが、残量10L以下で半年以上となると怪しくなってくる。タンク内の空間が多いと気化しやすくなり、空気にも触れやすくなることで酸化も進むからだ。

■タイヤが変形する!?

長時間駐車するとタイヤの接地部が平たくなるが、空気圧不足などで変形の度合いが大きかった場合、元に戻らなくなることがある(fotofabrika@AdobeStock)

 高速走行後などのタイヤが発熱した状態で、長時間駐車するとタイヤの接地部が変形し、走り始めたときにホイールに不快な振動を与えることがある。「フラット・スポット」と呼ばれる現象で、通常は10~15分ほど走行すれば元に戻る。

 しかし、変形したままの状態が長期間にわたったり、空気圧不足で変形の度合いが大きかった場合、元に戻らなくなることがある。もしもそうなってしまったら、溝が十分残っていたとしても交換するしかない。

 タイヤの主材料であるゴムには空気を通す性質もあるため、正常な状態だったとしても空気圧は自然に目減りし、1ヵ月平均0.1kg/平方cm(10kPa)は低下する。

 また、空気は暖まると膨張するので、空気圧は外気温によっても変化する。気温が上がれば空気圧は上昇し、下がれば低下するため、気温の高い夏場には適正値だったとしても、そのままの状態で気温の下がる冬に突入してしまうと適正値を下回ることになるので要注意。

 乗っても乗らなくても、定期的に空気圧の点検・補充をすることが大切だ。

■サスペンションが変形することも。ボディカバーも逆効果!

 サスペンションの各接続部にもゴムを主体としたブッシュが組み込まれているため、傾斜した所に長いこと停めておくと傾いている側に荷重がかることでサスペンション、スプリング、ブッシュが片寄って劣化。早い話、平らなところに置いてもクルマが傾くようになる。

 このため、毎日停める駐車場に傾斜地を借りるべきではない。出先でもできるだけ平らなところを選ぶのが基本だ。

 また、乗る機会が少ないと愛車のためにとボディカバーをかけてしまいがちだが、駐車場が未舗装だったら要注意! 下からあがってきた湿気がカバーの中に溜まって蒸れるため、サビやすくなる。

 湿気の多い梅雨時は注意が必要で、そんな状態で長期間止めておくと足回りがサビ過ぎてボルトが外れないなど整備に支障を来すことも。

 真夏でも熱がこもるため、あまりよくはない。雨風をシャットダウンできる屋内駐車場ならまだしも、できることならボディカバーの利用は控えたい。

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