夏タイヤと冬タイヤを履き替える時などに気になるタイヤの溝。スリップサインを確認すると、まだツライチってワケでもない。まだ大丈夫かなと思いつつ、ふと頭をよぎる。「タイヤって、スリップサインが出るギリギリまで使っていいの?」
実はスリップサインというのは「ここまで安全に使える」という目印ではないのだ。スリップサインとタイヤの機能限界について斎藤 聡氏が解説する。
文/斎藤 聡、写真/AdobeStock(トップ画像=alfa27@AdobeStock)
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■溝がなくなるまでタイヤを履き続けるのはご法度!
今年4月にタイヤメーカー各社が一斉にタイヤの出荷価格を7~10%値上げした。当然これはタイヤの販売価格に直接反映され、タイヤ価格の値上げとなった。
これを受けてリサーチ会社の「GfK Japan」がタイヤ購入に関するアンケートを行ったところ、「タイヤの溝がなくなる(スリップサインが出る)まで今のタイヤを使い続けたい」と答えた人が36%で1位になったそうだ。
いやいや、これはダメ。とても危険だ。
日本には「もったいない」というモノを大切にする文化があるので、タイヤについても溝が残っているのに使わずに捨ててしまうのは「もったいない」から(タイヤの価格が高騰していることもあるし)、スリップサインが出て使えなくなるまで使い切ろう、といったイメージなのではないかと推察される。
その考え方自体は悪くないが、タイヤは機能を持った商品で、機能のひとつに雨の日のグリップ性能や安定性を確保する、というものがある。
タイヤにつけられたスリップサインは残溝1.6mmで露出するように作られている。これは道交法上のタイヤの使用限界を示したものだが、必ずしもタイヤの機能限界を示したものではない。
残溝1.6mmというのは道路車両運送法の保安基準に定められていて、これを下回って使用すると道路交通法違反になるし、車検も通らなくなる。このことから、タイヤは残溝1.6mmまでは使うことができる、あるいは残溝1.6mm残っていればOK、と誤解されがちなのだ。
■タイヤの溝の役割
タイヤの溝にはいろいろな目的があるのだが、最も身近に感じられるのは排水性だろう。タイヤが濡れた路面を踏んだ時、水がタイヤの溝を伝って後方へ排水される。
タイヤの溝は、例えて言うなら道路の側溝のようなもので、雨が小降り程度なら問題なく側溝に水が流れていくが、大雨が降って側溝の排水性能の容量を超えてしまうと、水が道路にあふれ出して冠水してしまう。
これがタイヤでいうハイドロプレーニング現象だ。路面の水の量がタイヤの溝の排水能力を超えてしまうと、タイヤと路面の間に水の膜ができ、タイヤは水の上に浮き上がって滑ってしまう。
タイヤの溝が少ないというのは、側溝が浅く、すぐに冠水してしまうということなので、ちょっとした雨でもハイドロプレーニングを起こしてしまう危険性が高まってくるわけだ。
残溝量の判断は案外難しく、タイヤは均等に平らに摩耗するわけではない。わかりやすい例だと、ミニバンや軽自動車のトールワゴンなど重心の高いクルマだと、カーブでタイヤのショルダー部への負担が大きく、ショルダー部だけ先に減っていってしまう。
これは空気圧が少ない場合も起こり、逆に空気圧が高すぎると、タイヤの中央だけが摩耗が進み、ショルダー部だけ溝が残った減り方になる。
■タイヤ交換の目安は何ミリ?
このほか、駆動方式でもタイヤの前後の摩耗のしかたは変わってくる。FFなら前輪が摩耗しやすく、後輪駆動なら後輪が先に摩耗しやすくなる。
摩耗が進んだタイヤを残溝1.6mmギリギリまで使うのは、先に書いたようにハイドロプレーニングが簡単に起こりやすくなるのでお薦めできない。
筆者は、タイヤ交換の目安は一般的には5分山を過ぎたらそろそろ心と予算の準備を……と言うことが多いのだが、実際にハイドロプレーニング現象が起こりやすくなるのは残溝が4mmを下回って3mmあたりからとなる。
新品のサマータイヤの溝はだいたい8mmくらいだから、5分山を過ぎて4分山あたりからが危険領域だ。ここから急激にタイヤは水たまりに浮きやすくなる。
■ゴムそのものも劣化していく!
また、摩耗が進んでくるとタイヤの劣化も気になってくるところ。1年1万km走行と考えた場合、タイヤの摩耗は5000kmで1mm程度とすると、2年で4mmくらいが目安になると思う。
タイヤによっても、クルマの走らせ方によっても、またクルマの重さなどによっても変わってくるから一概には言えないが、タイヤのゴム自体も劣化が進んでくる頃だ。
排水性が足りていてもゴム自体のグリップ性能が悪くなってくると、排水性ではなくウェットグリップが低下してくる。タイヤ自体が路面をとらえる力が低くなってくるわけだ。ドライ路面だとほとんど気にならないが、雨が降って路面が濡れてくると、性能低下は顕著に表れてくる。
ハイドロプレーニングはハンドルが効かず、「ツーッ」と文字どおり慣性方向に滑って行ってしまうイメージだが、グリップが悪くなるとスパッと足元を掬われたように滑る。
そんなわけで、残溝1.6mmギリギリまでタイヤを使うのは危険なのだ。先にタイヤのローテーションにも触れたが、タイヤのローテーションを含め、タイヤの性能をなるべく落とさずに使う方法はある。
前後のローテーションを頻繁に……といっても年に1回、ある程度の距離を走る人でも2回で充分。これだけで前後のタイヤをほぼ均等に使い切ることができる。
■タイヤをできるだけ長持ちさせるには?
また、空気圧の管理も大切。タイヤは放っておくと徐々に空気が抜けていくから、いつも適正空気圧になるように空気圧を管理して、空気圧不足(過多)による偏摩耗を抑えることが大切となる。より均等にタイヤを減らすことでタイヤライフを長くすることができる。
筆者としてはタイヤは残溝3mmくらいを目安に交換することをお薦めする。
蛇足になるかもしれないが、駆動輪のタイヤが摩耗しやすくなることでもわかるように、タイヤは駆動力が強くかかると摩耗しやすくなる。だから、普段から急発進や強い加速を(できるだけ)しないように心がけてやるだけでも、実はタイヤの摩耗具合は変わってくる。
4WD車の摩耗が少なめなのは4つのタイヤに駆動力を分散しているから。この4WDにしても前輪はハンドルを切るためショルダーが摩耗しやすいので、時々前後を入れ替えてやると多少摩耗の具合が違ってくる。
タイヤの性能は安全性に直結しているから、性能の落ちた状態で走るのは極めて危険なのだ。溝がなくなるまで長く使うのではなく、摩耗を抑えるように摩耗の過程を長くしてある程度残溝が残った状態でのタイヤ交換をお薦めしたい。
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投稿 タイヤの買い替えに関する「よくある誤解」を解く! タイヤのスリップサインが出るギリギリまで使うのはOK? NG? は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。