トルクが力強く、勢いのある加速感を味わえるクルマを「トルクおばけ」と、表現することがある。今回は、トルクの基本的な知識、そして筆者オススメ「トルクおばけ」5台を解説。どのようなクルマが選ばれるのだろうか?
文/高根英幸、写真/Tesla, Inc.、Mercedes-Benz、MAZDA、TOYOTA、NISSAN
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トルクとは何だ、パワーと何が違う?
我々自動車雑誌媒体に関わる人間だけでなく、クルマ好きの間の会話でも「このエンジンはトルクがある」、「このクルマはパワフルだ」という表現を見たり使ったりする。しかし、残念なことにこのトルクというモノの正体は意外と正しく理解されていない。
トルクとは、物理の世界では「ねじりモーメント」と言われる、物体を回転させようとする力だ。エンジンが発生する力そのものであり、クルマが加速するときに感じる力強さは、まさにトルクそのものなのだ。
つまり「パワーがある」と言われるのはトルクがあることに等しい。パワーはトルクと回転数を掛け合わせた仕事量に過ぎないからだ。
低速域で力強いのがトルクで、高回転で伸びやかな加速を見せるのがパワー、と理解している人も多いようだが、高回転での力強さもトルクなのである。高回転域でもトルクの落ち込みが少ないエンジンが、パワーがあると感じるのだ。
モーターのトルクとエンジンのトルクは似て非なるモノ!
しかし、モーターが生み出すトルクとエンジンが生み出すトルクは、実はまったく別モノと言っていい。モーターは静止した状態からトルクを発生し、そのまま回転中はムラなく(厳密に言えばコギングと呼ばれる磁界の境目によるトルク変動はある)トルクを生み出し続ける。
モーターは回転運動機関であるのに対して、エンジンは(ロータリーは別だ)往復運動機関であり、コンロッドとクランクが回転運動に変換しているから、連続的に運動してトルクを生み出している。
エンジンは回転している状態でなければトルクを発生することができないし、1つのシリンダーで見ればトルクを発生させているのは半回転にも満たない領域だけだ。吸入、圧縮、燃焼、排気という4工程の中でエンジンは燃焼工程だけがトルクを得る。
けれどもエンジンの鼓動のような響きを伴ったトルク感は、燃焼によってこそ生まれるものであり、これに惹かれるクルマ好きは依然として多い。そんなトルクが図太く、豪快な加速感を味わえるクルマを「おばけ(化け物)のようなトルク」と表現されることがある。
では、そんな図太いトルクが味わえる、おばけトルクのクルマに今乗るとすると、どんなクルマたちとなるのであろうか。筆者の独断で5台のクルマを選んでみた。
普通に買えて公道を走れるおばけトルク1位は…!
普通に考えて最強のトルクおばけは、テスラのモデルS PLAIDであろう。968Nmと言われているトルクを静止状態から発生し、わずか2.1秒で100km/hに達する加速力は、もはや凶暴を通り越して悪魔的ですらある。
日本仕様では現在のところP100Dというグレードが最上級だが、これでも最大トルクは931Nmなので、ほぼ同等と言っていい。
そんな動力性能を日常でチラつかせていては危険なので、通常はもっともトルク特性が穏やかなコンフォートモードか標準モードを選んでおくのが基本。実際にはオーナーになっても、モーターの能力を開放するインセイン(パフォーマンスグレードはプレイド)や、さらには裏モードと呼ばれるルーディクラス+まで用意されている。ただし、このルーディクラス+でも最大トルクの60%しか使っていない、と言われている(!)。
サーキット走行用のドラッグストリップモードでもモーター能力は全開ではなく、ローンチモードでようやく路面状況に応じてモーターの能力一杯まで発揮するようになるらしい。
同じようにポルシェ・タイカンもトルクおばけなクルマと言えるのだが、それでは単なる電動モーターの力比べ、スーパーカーの加速力自慢になってもつまらない。なのでここからは、様々な視点からトルクおばけなクルマを紹介していくことにしよう。
トルクおばけなクルマ2位には、メルセデス・ベンツAMGのC63を推そう。現行モデルは4LのV8ターボで700Nmという強大なトルクを誇るが、これよりも2世代前のCクラスをベースとした初代C63の方がワイルドでダイレクト感高い走りを味わえる。
AMGの職人が一人で組み上げるNAのV8、6.2Lエンジンは、トルク感も回転フィールも絶品。Cクラスのボディをどこからでも強烈なトルクで加速させる。
加速時にはアクセルペダルの動きに対して、限りなく間髪入れずにトルクが立ち上がるほど、力強さを感じる。そういった意味では同じ数値においてモーター>NA>ターボの順でトルクを感じられるのであり、ATよりMTの方がトルクを感じやすい。
だがC63はATながら、AMGスピードシフトMCTという特別な変速機が搭載されている。これは従来の遊星ギア機構を用いたステップ式ATをベースとしつつ、エンジンからの駆動力を伝達するトルクコンバーターの代わりに多板クラッチを組み込んだモノで、ロックアップクラッチを大容量化したものと考えてもいい。
発進時の滑らかさはトルクコンバーターの方が優れるが、走り出してしまえばダイレクト感の高さに惚れ惚れする。各ギアごとにクラッチが備わるATであるから、シフト時もシームレスにつながり、DCT並みのダイレクト感とスムーズさが味わえるのだ。
2007年から発売されており、初期モデルは15年が経過するため、自動車税は11万円にさらに15%程度割増しされて12万8000円ほどになってしまうらしい。そこまで古くなくても2011~12年式あたりで走行5.6万kmの個体でも300万円台で見つけることができる。これも税金が高額で燃費もそれなりという、大排気量車ならではの割安感だ。
3年くらい乗り回すのであれば、腕の良い外車専門の修理工場さえ見つけておけばトータルでの出費は抑えられそうだから、大排気量車の走りを最後に味わっておくのも悪くないと思う。
3番目に紹介するのが、マツダ・アクセラスポーツ22XDだ。車名の通りとおり、2.2Lのクリーンディーゼルを搭載しているモデルだがこのエンジン、NAのガソリン5Lエンジン並みの420Nmというトルクをわずか2000rpmで発生させる。
トラクションコントロールは搭載されているものの、スタートでアクセルを踏みすぎれば簡単にフロントタイヤはホイールスピンしてしまうほど、それは凶暴なクルマに仕立てられている。ディーゼルでも本気でスポーツモデルを目指した、マツダらしい意欲的なモデルだった。
残念ながらMAZDA3では、こうした無茶なグレードは設定されていない(北米仕様には2.5Lガソリンターボがある!)が、アテンザでは22XDは引き続き設定されており、さらにトルクが450Nmに増強されている。しかしボディが大きいことと、制御を見直したことで幾分、扱いやすくなっているようだ。
4位、5位は意外なモデルをチョイス?
4番目に選んだのは、トヨタGRヤリスである。たった1.6Lエンジンを搭載するコンパクトカーが、おばけトルクというのには違和感があると思われるかもしれないが、このクルマはホモロゲーションモデルとして作られただけに、おばけっぷりは半端じゃない。
1.6Lの3気筒でもターボにより370Nmの最大トルクを3000rpmで発生する。実際には2000rpmから十分に強力なトルクを発生し、3000から4600rpmの間はブースト圧を制御してむしろトルクが抑えられている印象すらある(GRMNヤリスは390Nm!)。
ターボチャージャーによる過給が大トルクの理由だと思われがちだが、トヨタのダイナミックフォースエンジンは非常に作り込みが深いエンジンで、特にこの1.6Lの3気筒に至っては、完全なスポーツエンジンとして設計されている。
先頃発表されたGRカローラも、同じパワーユニットを搭載するため、同じくおばけトルクと言えるのだが、アクセラのところでも書いた通りとおり、ボディがコンパクトで軽量なほど、クルマの動きはダイレクトになり、加速感も鋭くなるので今回はGRヤリスが一枚上手だとしておこう。
最後に強烈な加速力を示すおばけトルクなクルマとして、日産スカイライン・ハイブリッドを挙げておこう。400Rじゃないのか? と思う人もいるだろうが、今回は特にトルクが最も感じられる発進加速や低速域からの加速に重点を置いている。この領域においてはスカイライン・ハイブリッドはヤバいくらいに速い。
3.5LのV6エンジンはNAながら、290Nmものトルクを発生するモーターを組み合せているので、発進加速はターボなんて比じゃなく、もう1つエンジン(まぁ実際モーター載せてるし)を載せたかのような強烈ぶり。
すでに新車のオーダーはストップしてしまったらしいが、エコよりもスカイラインの野性味を追求したハイブリッドの仕立てには、驚くこと間違いなしなので、ぜひ一度味わってみて欲しい。
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投稿 半端じゃない加速力!! 今しか買えない「トルクおばけ」現行車 5選 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。