国内で人気の高いボックスタイプミニバンだが、世界的な納期遅延の影響を大きく受けている。特に新型が発売されたばかりのホンダ ステップワゴンやトヨタ ノア/ヴォクシーは深刻な状態にあるといえる。
そんな中販売台数を増やしているのが、モデル末期の日産 セレナだ。納期も比較的早く、しかも熟成による完成度の高さも評価が高い。
そんな商品力と納期を比較しながら、これら人気ミニバンの魅力を比較する。
文/小林敦志、写真/ベストカー編集部
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■ミニバン販売合戦に水を差す納期遅延
2022年1月13日に新型トヨタ ノア&ヴォクシーが正式発売となった。サプライチェーンが混乱するなか、減産や工場の稼働休止などが相次ぎ満足する供給体制がとれないなか、さらに日本国内では新型コロナウイルスのオミクロン株の感染拡大がさらなる追い打ちをかけた。
今後も中国各地で多発している新型コロナウイルスの感染再拡大や、ロシアのウクライナ侵攻なども影響してくるので、事態の収束は長期化が避けられそうもない。
そもそも世の中がここまで混乱していなくても、新型車のデビュー直後は受注が集中し、納期が乱れる(遅くなる)のだが、今回の新型ノア&ヴォクシーは世の中が混乱しているなかでの新型発売なので、正式発売直後から深刻な納期遅延状態となった。
さらに一部オプションを選ぶとさらに納期が延長となってしまい、現状販売現場では「おおむね納車は2023年春ごろ」とザックリした案内しかできない状況となっている(オプションコード38C[トヨタチームメイト]を選ぶと2023年夏以降の納車予定となっている)。
これは単に「納車は2023年春になりますよ」というものではなく、「とりあえず納期は大幅に遅れるがいつになるのかわからない、だいたい2023年春ごろを見ていて欲しい」というところに、いまの納期遅延の深刻な問題がある。
ノア&ヴォクシーのライバルとなるホンダステップワゴンも本稿執筆時点では正式発売まであとわずかとなっている。
2022年初頭に新型ステップワゴンをお披露目したタイミングで、取り扱う某ホンダカーズ店へ行くと、「すでに正式発売のタイミングが予定よりズレこんでおり、正式発売後に発注すれば納車が2023年に入ってからになるのは避けられないだろう」とのことであった。
本稿執筆時点でホンダのウエブサイト上にあるモデル別の工場出荷時期の目途において、新型ステップワゴンはガソリンで4カ月、HEV(ハイブリッド車)で5カ月となっている。おおよその納期目安はこれに1カ月足すことになるので、ガソリンで5カ月、HEVで6カ月となっている。
5月27日に正式発売されたが、発売直後に発注すればHEVでは納車は早くて2022年12月となるが、発売直後は発注が集中しさらなる納期遅延となる可能性が高いので、納車は2023年なってからと考えていたほうがいいだろう。
■参戦を控える「第3の勢力」日産 セレナの状況は?
新型ノア&ヴォクシー、そして新型ステップワゴンが納期遅延に悩まされるなかで、この2車のライバルとなる日産セレナは少々状況が異なっている。
日産セレナは現状ではなかなかモデルチェンジ時期が読みにくい。当初2022年末との情報がメインで飛び交っていたが、最近では2023年になってからとされており、ややズレこむ見込みとなっており、販売現場でも「モデルチェンジは当初予定より先になりそうだ」との話が聞けた。
販売現場で聞くと、希望車種が受注生産車(受注してからメーカーに生産を発注する)であっても4カ月ほどで納車となり、見込み発注(ディーラーが売れ筋車を先行して発注すること)車なら納期はさらに短くなり、ケースによっては翌日に納車することも可能とのことであった。」
もちろん値引き額も拡大傾向となっている。ウエブサイト上であっても“45万円お得”といった表示は珍しくなく、50万円近い値引き額が常態化しているともいわれている。さすがにこのレベルの値引きはノア&ヴォクシーやステップワゴンでは難しいのが現状となっている。
“早い(納期)”、“安い(値引き額拡大)”とくれば、この4車(ノア、ヴォクシー、ステップワゴン、セレナ)のなかで、販売台数ではセレナの圧倒的なひとり勝ちになってもおかしくないのだが、実態はそうでもないことになっている。
自販連(日本自動車販売協会連合会)統計をベースに、先代ノア、ヴォクシー、エスクァイアが2021年9月末にオーダーストップとなっているので、翌月の2021年10月から2022年3月までの4車(ノア&ヴォクシーは合算、あとはステップワゴンとセレナ)の単月販売台数の推移をグラフにしてみた。
2021年10月は日本国内において全般的に新車の生産工場の稼働停止などが行われ、新車販売台数はまさにボロボロの状況であった。
そこから年末へ向け回復基調となり、ノア&ヴォクシーは先代モデルのバックオーダーの消化のための生産を続けた。そこにはディーラーの見込み発注分も含まれているので、各ディーラーは先代の在庫車も売りまくった。
いつもどおりとはいかない、少なめの在庫のなかでも最後の1台まで積極的に売り尽くし、セレナやステップワゴンを寄せつけない結果となった。
年が明け2022年になると、セレナのグラフが上昇傾向になっていることがわかる。ステップワゴンは2021年11月に現行モデルがオーダーストップ(あるいは生産終了)していると聞いており、グラフは下降している。
ノア&ヴォクシーは1月についてはモデル切り替えの端境期であり、さらに2月も含めると、オミクロン株の感染爆発もあり生産の滞りも目立ち、バックオーダーは増え続けたが、納車が進まない状況がグラフから見えてくる。
セレナは2021暦年締め年間販売台数ベースでの月販平均台数は約4900台なので、2月は約1000台、3月は約3100台多く販売している。しかし3月は事業年度末ということもあり、ノア&ヴォクシーの生産もかなり持ち直した結果。セレナはノア&ヴォクシーの合算販売台数に対し約54%となっている。
ノアより売れているヴォクシー単体と比較すると104%とはなる。しかし、供給体制ではるかに苦戦しているトヨタの同クラスミニバンに対して納期が早く、値引きも破格提示が期待できるセレナへ流れるお客さんは限定的に見える。
納車が2023年になるともいわれているノア&ヴォクシーを選ぶお客が依然としてこのクラスでは目立っているというのが統計からも見ることができる結果となった。
■ミニバン販売現場の事情
ノア&ヴォクシー、ステップワゴン、セレナは“生活密着型”といっていいモデルで、子育て現役世代の日々の移動手段やレジャーで大活躍している。そのため、例えば男女カップルの場合、男性配偶者より女性配偶者のほうがステアリングを握る機会が多いともいわれている。
販売現場などで話を聞くと、このクラスの女性ユーザーは新車への乗り換えで車種が変わるのを嫌がる傾向が目立つと聞いたことがある。
同一車種でもフルモデルチェンジを行えば、必ずしもそのままとはならないのだが、「別のメーカー車に乗り換えると、操作系が変わるのが嫌だ」として、同じ車種を乗り継ぐことが多いというのである。
そのため、過去の販売台数が多いノア&ヴォクシー系が、ノア&ヴォクシーユーザーの新型への乗り換えが目立つので、自ずと同クラスで販売台数が多くなるともいわれている。
現行モデルでもしっかりと乗り換えを進めてもらえれば、一定台数の受注台数確保は可能で、これにプラスアルファで他メーカーやトヨタ内の他車種からの乗り換えを上積みすることで、同クラスで圧倒的な販売台数を誇っているのである。
ただしそうはいっても、現役子育て世代なので、教育費を中心に生活費の負担が重いこともあり、新車購入予算は非常にシビアなお客が多い。そんなこともあり、車種決定権は女性配偶者が握っているケースも多いので、「一番安く買えるクルマを選ぶ」というケースも少なくない。
それならば、現状では値引きも大きく、納期の早いセレナがもっと注目されてもいいのだが、いまひとつのように筆者は見ている。
日産としても国内販売では数少ない量販の見こめるモデルなので、ライバルが新型になっていくなかで、商品価値を下げないための努力は怠っていない。
セレナは2021年11月24日に特別仕様車“XVエアロ”を発売している。これはXVグレード(おとなしい)をベースに専用フロントバンパー、サイドシルプロテクター、リアエアロバンパーなどを特別装備しており、“標準仕様より華やかでハイウェイスターよりはおとなしめ”に仕上がっている。
「ハイウェイスターでは顔つきなどがギラギラしすぎているといった声が女性を中心に多いとの声を、このXVエアロに反映させたようです」とは事情通。ハイウェイスターの顔つきが少々ギラギラしすぎるというのは、販売現場でもしばしばお客から指摘されると聞いている。
そこでノア&ヴォクシーやステップワゴンの新型が登場する前(発売前)に、魅力的な特別仕様車を用意して対抗しているのである。トヨタはギラギラをさらに強めたヴォクシーと、おとなしめなノアを用意することで売り分けているが、日産はセレナの中での売り分けを行おうとしていると見ている。
セレナのことを“末期モデル”と前述したが、そこから一般的にイメージするほど、ノア&ヴォクシーやステップワゴンに比べ“古めかしい”わけでもない。
最新型のノア&ヴォクシーでは車内にUSBポートが多数用意されているが、セレナでも前席1か所、セカンド、サードには各2か所ずつ用意されている。
日産系ディーラーのセールスマンによると、「いまどきは、車内でもご家族個々でタブレット端末やスマホによって、それぞれ個別に動画投稿サイトなどを見て車内で楽しまれることが多いので…」と説明してくれた。
一昔前のミニバンといえば、セカンド及びサードシート用に大画面ディスプレイを装着した、DVD再生を前提として“リアエンタテインメントシステム”を各モデルが競っていたが、いまや動画配信サービスも充実しているので、そこまで大げさな装備はニーズが減っているとのことであった。
さらにセレナではリアゲートドアに“デュアルバックドア”を採用している。これはガラス部分だけを開けることも可能となっているものであり、買い物へ行った際のショッピングモールの駐車場などでの便利装備といえるだろう。
さらに、サードシートの跳ね上げを説明してくれたのだが、「操作方法は新型ノア&ヴォクシーのほうが、はっきりいって便利です。セレナは多少難儀するのですが、その分サードシートのクッションなども厚みを持たせ快適性を重視しております」と、さりげなく語ってくれた。
■日産の武器「e-POWER」の思わぬ弱点
パワートレーンも日産自慢の“e-POWER”なので見劣り感もないと言いたいところだが、ここら辺から少々風向きが変わってくるようだ。まだまだ世の中には「e-POWERとはなんぞや?」という人たちが多い。
「理解しきれていないパワートレーンよりは、トヨタやホンダはハイブリッドだから」となるケースもあるようだ。また、e-POWERの技術自体が十分理解できないなか、発電用に搭載しているエンジンが1.2Lというのもネガティブに働いてしまうようだ。
先代ステップワゴンはe:HEV仕様は2Lエンジンベースだが、ガソリンエンジン仕様の排気量は1.5ターボとなっている。先代モデルは2015年4月にデビューしているが、HEV(ハイブリッド車)が追加されたのは2017年9月となっている。
HEVが追加されるまでは、「このクラスで1.5Lというのは排気量が小さいのでは」という話もよく聞かれた。排気量が小さい分はターボで補うといったダウンサイズターボを狙ったのだが、とくに女性ユーザーからは、“ターボ=走り屋”といったネガティブなイメージを持つ人も少なくなかった。
ノア&ヴォクシーは、ガソリン車は2L、HEVは1.8Lエンジンベースとなっているが、それでも「1.8Lで大丈夫なのか」といった話が先代モデルで初めてラインナップした時にはあった。このクラスは長い間2Lエンジンが定番であり、このクラスを乗り継ぐひともいるので、排気量ダウンなどには敏感な反応はあるようだ。
そのようななか、e-POWERでは発電用とはいえ1.2Lという小排気量は購入を躊躇させてしまうこともあるだろう。
「納車は早めなのはいいが、カーナビが間に合わない(セレナはディーラーオプションのみとなり、カーナビの生産遅延のほうがひどい)かが心配になる」ともいわれるセレナ。もう少し売れてもいいようなのだが…。
ノア&ヴォクシーが深刻な納期遅延となっているのにお客を逃さず、受注に持ち込んでいるのは売り方の違いにある。
ここまで先が読みにくい納期遅延が続けば、「いますぐ欲しい」とか、「3か月後に車検がくる」といった、とくにフリーでの来店が目立つこのようなお客にはとてもではないが販売できない(トラブルの温床となる)。
そのため、トヨタ系ディーラーのセールスマンの多くは、自分がすでに新車を納めている管理ユーザーのなかから、「新車に乗り換えてもらえそう」というお客を選んでアプローチしている。
車検有効期限も1年以上余裕があり、そもそも新車へ乗り換えるつもりのなかったお客を買う気にさせて乗り換えてもらうので、長期の納車待ちもそれほど問題にならないのである。
「うちは全般的に納車も早いし、値引きも多いんですけど、納期遅延覚悟でトヨタさんを選ぶお客様が減らない」とは、日産系某セールスマン。
最近では残価設定ローンを利用する人も多いので、リセールバリューに着目したクルマ選びをする人も目立ってきているので、相場が安定しているトヨタ車を選ぶ人がより目立ってきているようである。
そのためセレナの勝機は新型ステップワゴンの正式デビュー後にあるのではないかと考える。ステップワゴンの購入検討客は、ディーラーの同じ店舗や同じセールスマンから買い続けるといった、“人のつながり”を重視せず、欲しいクルマをその時々に購入する“フリー客”が多い。
しかも、新型ステップワゴンはノア&ヴォクシーやセレナハイウェイスターのような、いわゆる“オラオラ系”とは決別したキャラクターとなっているので、「実車を見てから」という人も多いだろう。
そこで、「やっぱりおとなしすぎるなあ」と思った人を、XVエアロもしくはハイウェイスターで受け止めることができれば、その存在感はいま以上に高まってくることになるだろう。
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