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参院選(7月10日投開票)まであと1週間。各候補者が流れる汗をものともせず弁を振るう中、今選挙随一の激戦区と呼ばれる東京選挙区では、元おニャン子クラブの生稲晃子氏らが熾烈な闘いを繰り広げている。6月最後の日曜日には元SPEEDの今井絵理子参院議員と共に演説し、大勢の聴衆の前で共闘をアピールした。

ところで、生稲氏や今井氏など、近年の選挙には元アイドルらの立候補が目立つ。生稲氏の第一声には安倍晋三元首相が応援に駆け付け、自民党の力の入れようも伺えた。「安易な票稼ぎ」との批判も多いが、なぜ各党“アイドル候補”を擁立するのだろうか。

今井絵理子参院議員(左)と新人で東京選挙区に出馬する、生稲晃子氏(右)。22年6月26日、東京・浅草で。(Photo by Pasya/AFLO)

“アイドル”候補擁立2つのワケ

ここでの“アイドル候補”とは、「アイドルや女優、歌手といった経歴を持つ候補者」と定義する。今参院選では生稲氏や今井氏のほか、現職では立憲民主党の蓮舫議員や自民党の三原じゅん子議員、新人では立憲民主党の高見知佳氏やれいわ新選組の八幡愛氏などが挙げられる。そのほか、新聞などで肩書が「アナウンサー(元アナウンサーを含む)」となっていることを確認できた女性が5人もいる。

生稲氏は2016年から政府の「働き方改革実現会議」の有識者委員を務め、今井議員もすでに一期6年の任期を務め上げたが、SNSには否定的な声が目立つ。生稲氏に関しては、NHKの候補者アンケートにほとんど無回答だったことが批判を呼び、6月29日には「#生稲晃子に投票する意味が分からない」がツイッターでトレンド入りした。

このように、アイドル候補を含めたタレント候補にはしばしば批判が集まる。それでも各党がアイドル候補を擁立するのには、2つの理由がある。

1つ目は「知名度を生かした票稼ぎ」だ。参院選は衆院選と異なり、一人の有権者が選挙区と全国の比例代表の二票を投じることができる。このうち比例代表では政党名か候補者の個人名を選択して記入でき、個人名での投票は所属する政党の票としてカウントされるため、名前が知られている候補の存在が党全体の得票数にもつながる。

アイドルに限らず、参議院にタレントが多いのはこのためだ。タレント候補擁立により、政治に関心の薄い層に注目してもらえる効果もある。

加えて古くからアイドル候補はいたが、昨今その傾向がより顕著になっている2つ目の理由が、「女性候補擁立のため」だ。男女の格差を語る上でいろいろな場面で持ち出される「ジェンダーギャップ指数」だが、全体で見ても世界156か国中120位と低いものの、政治分野を見ると147位にまで落ち込む。この現状を打破するため、各党積極的に女性候補を擁立している。その結果、野党を中心に今参院選では初めて全候補者に占める女性の割合が3割を超えた。

政党が目をつけやすい社会構造

市井紗耶香氏(2019年参院選当時:写真:アフロ)

政党の公認を得るには、それなりの経歴や実績が必要となる場合が多い。いまの日本社会で実績を積み重ねていこうとすると、圧倒的に男性に分がある。中には育児経験をアピールポイントにする候補者もいるが、育児と国政の両立は難しい。地元と東京を行ったり来たりしなければならない上、土日の活動量も多いからだ。

今回の選挙では、前回の参院選で落選した元モーニング娘。の市井紗耶香氏が「育児との両立が困難」との理由から出馬を断念している(これは女性候補擁立に注力している立憲民主党にとって痛手だった)。

経歴や育児といったハードルを乗り越え、「国政に打って出よう」という気持ちを持つ女性は限られる。そのような中で党が女性を確保しようとしたとき、目をつけやすいのがアイドルというわけだ。

なお、今回の生稲氏の出馬に際しては、収録したテレビ番組が放映できなくなったとして番組制作会社が生稲氏側に約900万円の損害賠償を求めて提訴するという事態が発生したが、選挙に立候補すると基本的にテレビには出られなくなる。そのため、現役バリバリでテレビに出ているタレントには出馬を打診しても断られる可能性が高いため、最盛期を過ぎたタレントに声がかかるケースが多い。

余談だが、元自衛官&記者という経歴を持つ筆者にも、某政党から「政治に興味があるなら選対の人間と話してみないか」との誘いを受けたことがある。もし筆者が男性なら、おそらく声はかかっていないだろう。

アイドル候補の「実績」

アイドル候補たちへの批判は、立候補時のみにとどまらない。当選したとしても、往々にしてその知識不足、勉強不足を指摘される。今井氏が初当選時、テレビ番組で沖縄の在日米軍基地問題について問われたとき、「これからきちんと向き合っていきたい」と答えたことは格好の餌食となり、いまでも事あるごとに掘り起こされている。週刊誌を醜聞でにぎわすこともある。

19年10月、安倍首相(当時)の所信表明演説を見守る山東昭子参院議長(官邸サイト)

しかし、これまでの歴史を紐解くと、実績を残している女性たちもいる。たとえば現職では自民党の山東昭子参院議長。1974年の初当選以来、科学技術庁長官や参院議長といった要職を歴任。当選回数は参院史上最多の8回を数える。

過去を振り返ると宝塚歌劇団出身の扇千景元国土交通相も好例だろう。汚職事件のあった建設省のイメージアップのために建設相に抜擢されたと言われていたが、仕事ぶりが評価され、初代国交相にも任命された。野党では立憲民主党の蓮舫議員も、その舌鋒の鋭さは周知の事実。民主党政権下では要職を務め、2016年の参院選では112万票を超える最多投票を獲得している。

これまで、アイドル候補やアイドル政治家本人の脇の甘さや不勉強があったことは否定しない。それどころか、大いに反省を促したい。しかし有権者が彼女らを批判する根底には、「大した勉強もせず、かつてアイドルだったというだけで議員になった(なろうとしている)」という目線があることも事実だ。たとえ新人議員が今井氏と同じ答えをしても、SNSをさほどにぎわすことはない。

政治に関心を持ったきっかけは人によって異なる。アイドル候補の中には、「もう一度日の目を浴びて活躍できる」ことに魅力を感じた者もいるだろう。だが本人なりに「国を良くしたい」という覚悟はある。政治家という職業は、その気概がない人間に務まるほどたやすい仕事ではない。

SNSでは“炎上”している生稲氏だが、すでに当選確実と予測しているメディアもある。彼女らが当選する限り、知名度のある女性候補に票を稼いでほしい政党と、活躍の場を政治に移したい女性アイドルの結びつきは今後も間違いなく続く。彼女らの覚悟と訴える政策、当選後にどれくらいの実績を残したのかを見極めるのは、私たち有権者の仕事だ。