もっと詳しく

 ドイツの自動車部品サプライヤー・ZFフリードリヒスハーフェン(以下、ZF)はトラック・バス・トラクタ・トレーラなど商用車の世界においては、あらゆる部品を一社で提供する世界最大のサプライヤーだ。

 2020年に買収したベルギーのワブコを統合した「商用車ソリューションズ」事業部を2022年の1月に発足してから半年が経ち、恒例となっている技術プレビュー「グローバル・テクノロジー・デイ」が開催された。

 テクノロジー・デイでは、9月のIAA(世界最大の商用車ショー)に先駆けるかたちで、世界初公開を含む最新技術が紹介された。また、乗用車用に開発した技術を商用車へ展開するなど、車両セグメントを横断する技術移転も発表された。

 ZFはその規模を活かして他社にはまねのできない「次世代モビリティ」戦略を進めている。

文/トラックマガジン「フルロード」編集部、写真/ZF Friedrichshafen AG


技術プレビューの「テクノロジー・デイ」

最新テクノロジーを一挙公開!! 世界最大の商用車部品サプライヤーが技術プレビューを開催
ZFの技術プレビューで公開された車両

 ドイツのZFはトラック・バスなど商用車用の部品・コンポーネントでは世界最大のサプライヤーだ。ベルギーのワブコの吸収後、2022年の1月に商用車ソリューションズ(CVS)事業部を発足するなど、最近はソリューション事業を強化している。

 そのZFは「テクノロジー・デイ」と称して最新技術を紹介するイベントを開催しているが、これは9月にハノーファーで開かれる世界最大の商用車ショー・IAAトランスポーテーションに同社が出展する内容のプレビュー・イベントである。

 なお、IAAの商用車ショーは偶数年に開催され、今年(2022年)より従来の「IAA・コマーシャルビークルズ」から「IAAトランスポーテーション」に名称を変更している。

 ドイツ・ニーダーザクセン州の試験施設で行なわれたイベントで同社は、「統合(インテグレーション)」「変革(トランスフォーメーション)」「革新(イノベーション)」を強調した。

 ソリューション事業のCVS事業部への統合から半年が経ったが受注は好調で、最新技術に対する顧客の反応は良好だという。製品ポートフォリオの拡充など変革を進めるいっぽう、トラック用の次世代電動ドライブなどのイノベーションもアピールしている。

 また、世界のトラック・トレーラに安全性、効率性、持続可能性の新水準をもたらす「次世代モビリティ」戦略のために、自動運転や電動化といった分野では乗用車と商用車の垣根を超え、車両セグメントを横断して新技術を導入するなど、その規模を最大限に活用する。

商用車における次世代の電動モビリティ

最新テクノロジーを一挙公開!! 世界最大の商用車部品サプライヤーが技術プレビューを開催
2023年の量産化を発表した電動セントラルドライブ「CeTrax 2」

 テクノロジー・デイで世界初公開となった「CeTrax 2」は、大型商用車向けのモジュラー式電動セントラルドライブだ。従来車のエンジンを電動モーターに置き換えるセントラルドライブ方式は、ディーゼル車からの変更点が比較的少なく、車両として成立しやすいという利点がある。

 新型電動ドライブシステムでは、コンパクトなデザインと優れたパワーウェイトレシオを両立した。出力は360kW(馬力に換算すると約490ps)で、効率も改善した。詳細はIAAで公表されるものとみられる。

 ステーターのヘアピンデザイン、組み込みの冷却システム、シリコンカーバイド(SiC)を採用したインバータなど革新的な技術を特徴とするが、これらはZFの乗用車における経験から来たものだという。

 量産は世界的な商用車メーカーの車両に搭載する形で、来年(2023年)を予定している。

 また、トラック(トラクタ)とトレーラをシームレスに連結し制御する技術とシステムにおいて、ヒューリスティック(発見的)な開発ができるのはシャシメーカーにはない強みで、トラクタ・トレーラの双方に最新の安全装置や効率化技術を備える「全車的」なアプローチにより事故ゼロや高い効率性の実現を目指している。

 変革の時代にあって、トラックメーカー同士の競争が激しくなる中、ZFでCVS事業部などの責任者を務めるヴィルヘルム・レーム氏はソリューション事業の価値を次のように話している。

 「商用車開発のトレンドは自動運転、コネクテッド、電動化に向かっています。このためシャシメーカーの開発投資が巨額になっています。弊社の広範な統合ソリューションは、メーカーが開発コストを抑えながら最新技術を利用する機会を提供しています」。

ステアリングの電子化

最新テクノロジーを一挙公開!! 世界最大の商用車部品サプライヤーが技術プレビューを開催
自動運転の前提となるステアリングの電子化は乗用車から商用車へ展開する方針

 これは乗用車向けの技術となるが、初めて「ステア・バイ・ワイヤ」システムが公開された。ZFは「バイワイヤ」化(機械式の制御から電気・電子制御への変更)を進めており、この技術では業界をリードする一社だ。

 ZFのステア・バイ・ワイヤは全電動のステアリングシステムで、ステアリングの電子化により、ZFのポートフォリオは車両制御の全体をバイワイヤ化することができる包括的なものになったという。

 ドライバーのステアリング操作を電子的な信号に変換することでハンドルからフロントアクスルまでの操舵系にある機械式リンクをすべて排除した。自動運転技術が進展する中で、車両制御の電子化は欠かせない技術となっている。

 また、この技術をサポートするソフトウェアは無線アップデートにも対応し、このシステムについて既に大手の顧客から受注を獲得しているという。

 ZFのCEOを務めるヴォルフ・ヘニング・シュナイダー氏は、同技術を含めて、乗用車から商用車など車両セグメントを横断する形での技術展開の重要性を指摘する。

 「弊社の各部門は緊密に連携するとともに、相互に技術を移転することで最適化を進めています。ZFの新たなステア・バイ・ワイヤ技術は乗用車の高度な自動運転のための前提となります。そして、『一度開発したものは、どこへでも展開する』(develop once, deploy anywhere)という哲学にしたがって、商用車の自動運転にも適用されるでしょう」。

自動運転とデジタルプラットフォーム

最新テクノロジーを一挙公開!! 世界最大の商用車部品サプライヤーが技術プレビューを開催
デジタルプラットフォームの「スカラー」はAIにより運行管理を自動化する

 いっぽう、部品やコンポーネントの製造から統合ソリューションの提供への進化を強調しているZFは、テクノロジー・デイで次世代の自動運転ソリューション「ADOPT2.0」を公開した。

 ADOPTは Autonomous Driving Open Platform Technology の略で、ADOPT2.0は最大20km/hまでの低速域にフォーカスし、ヤード(トレーラやコンテナ用の駐車場)などでの自動運転を実現するエンド・ツー・エンドのソリューションとなる。

 同時に公開したADOPT3.0は最大80km/hの高速走行に対応し、物流拠点間の高速道路を使った輸送を想定している。

 また、ソフトウェア開発での成果として、商用車のフリート管理に効率的なTaaS(Transport-as-a-Service)をもたらすデジタルソリューション「スカラー」を世界初公開した。

 これは人工知能(AI)による計画・ルーティング・配車を自動で行なうソリューションで、車載機器とAIを備えたサードパーティのシステムとの連携も可能とする。

 このプラットフォームにより商用車の運行の効率を改善し、持続可能性と計画の信頼性を高め、貨物と乗員の安全性を向上する。ZFは将来的にスカラーが貨物・旅客輸送にとって不可欠のパートナーとなることを見込んでいる。

 シュナイダーCEOは、ZFと輸送の未来について次のように統括した。

 「最新のグローバル・テクノロジー・デイでお見せしたのは、将来の課題に挑戦し、チャンスを最大限に活かすために、ZFは素晴らしい立場にあるということです。ポートフォリオの多様化、新市場への参入、優れた技術の浸透と展開、実績のある持続可能性戦略など、ZFはコネクテッド、自動運転、ソフトウェア・サービス、電動化(CASE技術)の最前線において大きな進歩を遂げています」。

投稿 最新テクノロジーを一挙公開!! 世界最大の商用車部品サプライヤーが技術プレビューを開催自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。