米マイクロソフト(以下「MS」)が今年初め、ゲームパブリッシャー大手アクティビジョン・ブリザードを総額687億ドル(当時のレートでは約7兆8700億円)で買収する「計画」を発表したことが話題になったが、実はまだ買収は完了していない。世界各国の規制当局から、現地の独占禁止法に違反していないと認定を受ける必要があるためだ。
その焦点となっているのが、アクティビジョン(略称)の超人気IP「Call of Duty(CoD)」をどう評価するか、である。そのゆくえは家庭用ゲーム機の売上へ影響をおよぼすに違いないが、影響が大きすぎれば独禁法違反に、大したことがなければ合法へと傾くわけだ。
そんなCoDをめぐり、MSが「キラータイトルではない」と言い、ライバル陣営であるソニーが「替えの利かない重要タイトルだ」と主張する、なんとも奇妙な食い違いが起きている。
まずMSはニュージーランドの商業委員会(日本の公取委に相当)に対して、アクティビジョンは「必須」のゲームを作っていないと回答している。CoDシリーズを含めた同社のタイトルには、ライバルとの競争を妨げるようなキラーアプリはなく、反トラスト法の恐れもないと主張している格好だ。
より具体的には、アクティビジョンが開発・販売したゲームには、ライバルのPCおよび家庭用ゲーム機の販売企業にとって「必須」で、差し迫った懸念を呼び起こすような独自性はないとの趣旨が述べられている。ここでは、CoDシリーズにあえて触れようとはしていないようだ。
かたやソニーは、ブラジル政府からの情報要請に対して、CoDシリーズを中心に回答している。そこでは、シューティングのジャンルでは掛け替えのない存在であり、Xbox独占となればゲーム機の売れ行きにも影響を与える理由が事細かに説明されている。
さらに2019年の調査を元に、CoDについて「エンターテインメント全般に対する重要性は筆舌に尽くしがたいものがある。スター・ウォーズ、ゲーム・オブ・スローンズ、ハリー・ポッター、ロード・オブ・ザ・リングといった強豪に続き、マニアの間で全エンターテイメント・ブランドのトップ10に入った唯一のビデオゲームIPだ」とも、ソニー側は述べている。
それに加えて「ユーザーのゲーム機選びを左右するほどの人気があり、忠実なユーザーも根づいているため、たとえ競合他社が予算を投入して同様の製品を作ったとしても、太刀打ちできない」という高評価ぶりだ。
MSのアクティビジョン買収は、複数の国で競争当局(公取委)からの監視にさらされている。米連邦取引委員会(FTC)も買収の詳細と労働環境への影響について検討中であり、英国の競争市場局(CMA)も独自の調査を始めている。
ソニーは早くからCoDのゆくえに懸念を示しており、「MSが契約上の合意を守り、アクティビジョンのゲームをマルチプラットフォームにすることを引き続き保証してくれると期待している」とコメントしていた。これを受けてMSは「現在ある(マルチプラットフォームの)契約を守り、今後もCoDシリーズをPlayStationに提供し続けたい意向」との声明を出している。
その結果、CoDを擁する(予定の)MS側の同IPに対する評価が低くなり、ソニーの評価が「掛け替えがない」というほど高くなるという逆転現象が起きたわけだ。しばらくは、両社のCoDをめぐる熾烈な“撃ち合い”は続きそうだ。
- Source:Google Docs
- Source:Conselho Administrativo de Defesa Econômica
- Source:Gamesradar
- Source:Wccftech