参院選の情勢は、自民が岸田政権への高支持率を背景に全国的には優勢に戦いを進めているが、例外的に自民が野党に対して必死に挑んでいる選挙区も散見される。その一つが沖縄選挙区(改選1)だ。
過去3回の戦いは、故・翁長雄志前知事を支えた野党勢力の「オール沖縄」の候補者が3連勝。長らく辛酸を舐めてきた自民は若返りで議席奪還への勢いをつけているが、野党現職との接戦の構図になるほど悩ましいのが保守系の少数派の動向だ。
自民「若返り」で雪辱期す
沖縄選挙区を自民が制したのは2010年に島尻安伊子氏(現衆院議員)が当選したのが最後だ。当時は民主党・菅直人政権の時代だが、アメリカ軍普天間基地の辺野古への移設を鳩山前首相がこじらせたことで県民の怒りが爆発。自民が追い風を得て勝利した。
ところが今度はその基地問題が政権を取り戻した自民に壁となる。自民沖縄県連幹事長も経験するなど、沖縄保守政界の要だった翁長氏が2014年、基地問題への政府の姿勢に疑義を唱え知事選に出馬。野党陣営を糾合し「オール沖縄」を結成し、自公が推薦した当時の現職を撃破してから、沖縄の選挙戦で特に衆院選、参院選、知事選の「大型選挙」では野党側が優位に立つ時期が続いた。
しかし基地問題で翁長知事と自民党政権との対立が長期化。「オール沖縄」は県の主要経済人が相次いで離脱して退潮し始めた矢先に、コロナ禍に突入。沖縄経済の要である観光業が大打撃を受けた。これにより政治情勢も変わり、昨秋の衆院選で自民は沖縄4選挙区のうち3選挙区を制して息を吹き返し、今度は那覇出身の38歳、前総務官僚の古謝玄太氏を擁立。SAKISIRUで篠原章氏も以前指摘したように、復帰50年を機に、復帰後に生まれた世代を立てる「若返り」を印象付けた。
世代交代の効果はてきめんで、5月下旬にJX通信社が行った情勢調査では、野党無所属の現職、伊波洋一氏に肉薄、横一線とも言える結果だった。参院選序盤の報道各社の調査では「伊波氏やや先行」(共同通信)、「古謝候補・伊波候補が激しく競り合う」(JNN・毎日新聞)という具合で激戦となっている。
一方、自民が6月前半に2度行った調査とされる数字では、いずれも伊波氏が10数ポイント上回っていたようだ。しかし近年の沖縄の選挙で自民調査の傾向が外れることも目立っており、「僅差で古謝氏が逆転する可能性」(保守系の有識者)を予測する声もある。この週明けに中盤戦の情勢が明らかになるが、いずれにせよ、過去3回の参院選と、4年前の知事選に比べると、自民が追い上げ態勢を強めているのは間違いなさそうだ。
3候補者の戦いぶりに気をもむ自民
他方、今回の参院選では、NHK党、参政党、幸福実現党も候補者を擁立。沖縄自民の支援者は「それぞれ“泡沫候補”かもしれないが、古謝氏が伊波氏を追い上げた時に、3候補が少しずつ集めた票が影響しないか」と気をもむ。実際、前出のJX調査ではNHK党と幸福実現党の候補者が合わせて10ポイント未満の支持を得ている(参政党は候補者発表前)。
NHK党の候補者で、グラフィックデザイナーの山本圭氏は、れいわ新選組代表と同姓同名で話題になった男性の妻だ。夫婦での選挙戦を楽しんでいる微笑ましい様子をSNSに投稿するなど、どちらかといえば政治や選挙にあまり行かない層への“啓発”色がにじみでる。一方、保守色が前面に出ているのが参政党と幸福実現党だ。参政党は、元福岡県警警察官の河野禎史氏を擁立。沖縄出身のジャーナリストで、保守系論客の我那覇真子(まさこ)氏が街頭やネットで応援に立つ。幸福実現党の金城竜郎氏(元気象台職員)はウクライナ戦争の脅威を例に「台湾防衛は日本の使命」を訴えている。
19年参院選の沖縄選挙区では、NHK党(当時はNHKから国民を守る党)は県内で11,662票を獲得。16年の参院選では、幸福実現党の金城氏が9,937票を獲得している。参政党は今回初参戦となるが、県内の保守層に一定の影響力がある我那覇氏の支援を得て浸透を図っている。自民党が取りこぼした「保守層の受け皿にはなりうる」(前出の自民支援者)だけに、先行する2候補の競り合いが激しくなるほど、これら3候補が不気味な存在感を放つ構図になる可能性がある。
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