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ロシアのウクライナ侵略などで、米国経済のかつてない減速に警戒感が高まっている。SMBC信託銀行投資調査部の最新のレポート(2022年6月号)では、同銀行マーケットエコノミストの祖父江康宏氏は現在の米国経済の状況を「企業、消費者ともにマインドは明確に悪化しており、金融引き締めの継続が見通されるなか、景気の先行き不透明感が徐々に高まっている」と表現。

主要経済指標のうち、鉱工業生産と設備稼働率、小売売上高は好調な指標を示したものの、「住宅ローン金利上昇の影響で中古住宅販売(年率換算561万戸、同2.4%減)は減少」。さらに製造業の景況感を示す「製造業景況感指数」、消費者マインドを示す「ミシガン大学消費者信頼感指数」はいずれも大幅に低下しているという。

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米金融トップから危機感相次ぐ

そんな中、「これまでにない経済状況の悪化に備えるべき」という米国金融業界のトップからの異例の発言が相次いで報じられている。

ブルームバーグによると、米銀行JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEO(最高経営責任者)は1日に行われた、米投資管理会社「アライアンス・バーンスタイン・ホールディングス」のスポンサーの会合で「(米国経済、世界経済にとっての)ハリケーンはすぐそこまで来ている」と発言した。さらに、「それが小型なものか、超大型なのかは分からないが、身構えた方がいい」と述べた。

また、米金融大手ゴールドマン・サックスのジョン・ウォルドロン社長もダイモン氏と同様の警告を発している。3日にブルームバーグが伝えたところによると、ウォルドロン氏は投資家会議で次のように述べたという。

私がこれまでのキャリアで見た中で、最も複雑でダイナミックな環境だ。このような衝撃がいくつも重なったことは、私にとって前代未聞のことだ

ウォルドロン氏の言う「このような衝撃」とは、アメリカの急速なインフレや金融政策の変化、ロシアのウクライナ侵略などを指すとみられる。そうした複数のリスクが世界経済の足かせになりかねないというわけだ。さらに、「この先は一段と厳しい経済状況になることが見込まれる。資本市場の環境が厳しくなることは間違いない」と述べた。

景気後退の確率は「リーマン後最高」

アメリカではリセッション(景気後退)への危機感も高まっている。米証券会社チャールズ・シュワブのリズ・アン・ソンダースCIO(最高投資責任者)は自身のツイッターに、リセッションの確率を示したイールドカーブ(グラフの一種)を示したうえで、「(アメリカの)リセッションの確率は、2007年2月以来最高に上昇している」と投稿した。

リセッションとは、景気後退局面のことで、欧米では国内総生産(GDP)が2四半期連続でマイナス成長となった場合をリセッションとみなしている。一般的にリセッションに陥ると、住宅市場が崩壊すると言われている。住宅市場の崩壊は、金融機関のデフォルトリスクの高まりに直結する。

金融機関のデフォルトリスクが高まると、金融機関は新たな資金の貸し出しを渋る、いわゆる貸し渋りの状態になる。それによって、企業の設備投資が減少し、収益も悪化。収益が悪化すれば企業は従業員の解雇に踏み切らざるを得なくなる。

解雇通知を受け荷物をまとめる従業員。アメリカでは珍しくない光景(YinYang /iStock)

日本では収益が悪化したからと言って、簡単に正社員を解雇できないが、アメリカは簡単に解雇する。従業員の解雇が多くなればなるほど、社会全体での消費が縮小していく。アメリカは世界最大の経済大国のため、日本をはじめ世界経済にまで悪影響は広まっていく。

ソンダース氏は、「リセッションの確率は、2007年2月以来最高に上昇している」と指摘していたが、世界金融危機を引き起こしたリーマンショックが起きたのは、2007年2月の約1年半後だ。

とはいえ、アメリカがリセッションに陥ることに否定的な専門家が多いことも事実だ。本当にアメリカがリセッションに陥るのかは誰にも分からないことだが、少なくともJPモルガン・チェースのダイモンCEOが言うように「身構えた方がいい」ことは確かなのだろう。