厚生労働省の中央最低賃金審議会は1日、今年度の最低賃金について、足元で続く物価上昇、とりわけ生活必需品の高騰を踏まえ、全国平均で31円の引き上げとする目安をまとめ、厚生労働省に答申した。
日本の最低賃金は、2019年が901円、2020年が902円、2021年が930円と推移しており、目安通りに引き上げられれば、今年度は全国平均で961円となる。今後、都道府県ごとに議論をしたうえで実際の引き上げ額が決まる。なお、前年から31円の引き上げは過去最大。
ネット世論は評価「真っ二つ」
このニュースがマスコミ各社によって報じられると、ネットでの反応は真っ二つに分かれた。
労働者側と見られるユーザーの多くは、最低賃金の引き上げ額に不満をあらわにしていた。
たかが30円で過去最高とか、日本人って奴隷だね。
たかが30円で何が変わるねん
「30円くらい最低賃金上がっただけで、何か変わるとは到底思えないんだけど。扶養外れる金額もあげないとむしろ悪化するんじゃない?」
何もかも物価高になってる今焼け石に水にもならん
一方、使用者側と思しきユーザーは「30円ほどの賃上げでも企業にとっては厳しい」という意見が大半だった。
規模にもよるが、雇用する側からしたら30円でも1年では億単位の人件費負担増になる。
たった30円って思うかもしれないけど中小企業の経営者にとってはデカい
もしもスタッフ16名の賃金を時給30円上げたとしたら、夜間割増とかを含めると年間130万くらいは負担増えるかな…
最低賃金では暮らしが厳しいのは確かだが…
確かに、働く側からしたら31円ほど最低賃金が上がったからと言って、暮らし向きが格段に良くなるわけではない。たとえば、東京都では目安の通りになれば最低賃金は1072円になる。実働8時間で月に23日働いた場合、月の収入は19万7000円ほどだ。家賃などを考えると、東京で暮らすにはなかなか厳しいのは事実だ。
とはいえ、一気に最低賃金を引き上げることには当然ながら、リスクが伴う。もし、最低賃金を一気に引き上げたことの負担に耐えられず、勤めていた企業が倒産してしまえば、その企業で働いていた人は、19万7000円すら失うことになる。
実際に、最低賃金を一気に引き上げたことで様々な弊害が生じた国がある。お隣の韓国だ。ジェトロ(日本貿易振興機構)の資料によると、韓国の最低賃金は2017年時点では6470ウォン(約648円)だった。その後、毎年高い水準で引き上げられ、今年の韓国の最低賃金は9160ウォン(約918円)。
これで韓国の人の暮らし向きが良くなったかと言えば、一概にはそうとは言えない。もちろん、恩恵にあずかった人もいるだろうが、それは限定的と見られている。
最低賃金を一気に引き上げた韓国の現状
実は、韓国の失業率は一気に最低賃金を引き上げたにもかかわらず、低水準だ。2020年の韓国の失業率は3.9%で、OECD加盟国(38カ国)で6番目に低かった。2021年はさらに改善し、3.7%だった。これに、「最低賃金を上げても失業者は増えない、日本ももっと上げるべきだ」と思う人も多いだろう。しかし、この失業率の低さにはカラクリがある。
就業も求職活動もしていない「非労働力人口」は失業者としてカウントされないが、「非労働力人口」には就職活動をしていても、就職を諦めてしまった人も含まれる。ジェトロのレポートによると、「非労働力人口」の中で、過去1年間に就職活動をしていた人は62万8000人に上る。この62万8000人を失業者としてカウントすると、韓国の実質的な失業率は統計上の失業率と大きく異なるものになる。
さらに、見過ごせないのが、若年層の失業者の多さだ。韓国の失業者のうち、31%が15歳から29歳の若年層だ。若年層の失業率が多ければ、結婚や出産どころではない人も多数になる。日本の合計特殊出生率は1.30(2021年)だが、韓国は0.81(2021年)という衝撃的な数字だ。
日本は先進各国と比べると、最低賃金は低いものの、失業率の低さではOCED加盟国でトップクラスだ。若年層の失業率も同様だ。世界と比べて日本の最低賃金が低いことは大問題だが、かといって、働き口がなくなったら元も子もない。
日本としては、失業率とのバランスを見ながら、徐々に最低賃金を上げていくしかないのかもしれない。失業率は今のままの水準を維持しながら、先進各国と肩を並べるほど最低賃金を引き上げられる、ウルトラC的な解決策はないものだろうか。