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<p>【コロナ直言(23)】ノーマスクが日常に、感染増に動じぬ英国民 在英ジャーナリスト・小林恭子氏</p><p>ノーマスクが日常に、感染増に動じぬ英国民 在英ジャーナリスト・小林恭子氏 英国は1月以降「コロナとともに生きる」方向にかじを切り、公共交通機関でのマスク着用や大規模イベントでのワクチン接種証明の提出義務などの規制を解除した。</p><p>今年6月以降、新型コロナウイルスの新規感染者数は増加していたが、現在は減少傾向にある。ほとんどがオミクロン株の派生型「BA・4」か「BA・5」で、ワクチンを打…</p><p>今年6月以降、新型コロナウイルスの新規感染者数は増加していたが、現在は減少傾向にある。ほとんどがオミクロン株の派生型「BA・4」か「BA・5」で、ワクチンを打っていれば重症化しにくい印象だ。一時的に感染者が増えたからといって国民は特に驚いてはいない。 英国は1月以降「コロナとともに生きる」方向にかじを切り、公共交通機関でのマスク着用や大規模イベントでのワクチン接種証明の提出義務などの規制を解除した。旅行でも制限はない。街ではマスクをしている人はほぼおらず、飲食店では人々がおしゃべりと食事を楽しんでいる。 ときどき自分に近い関係の人が感染して「あっ」と思うこともある。だが街中でマスクをしているのは、ごく少数の注意深い人だけで、国民の多くはコロナの存在を忘れて暮らしている。(規制は解除されたが)コロナ禍以前ほど国内の旅行先や飲食店は混み合っておらず、街中の人通りも少ない印象を受ける。ただこれは(コロナだけが理由ではなく)国内で物価が急上昇している影響で、外出を控える人がいるからだろう。 国営の国民保健サービス(NHS)はホームページで、ワクチンを打つ▽室内で人と会うときは換気をする▽手をよく洗う―といった基本的な対策を推奨しており、専用の相談ダイヤルも開設している。感染した場合は重症化リスクがなければ、最低5日間は自宅待機し、症状が治まった時点で外出してもいいという運用になっている。 《英国では感染者数の取りまとめは行っているものの、症状が出た場合や自宅隔離を解除する際の抗原検査などは義務付けられていない。また日本のように感染者を「全数把握」する運用にはなっていない》 英国では2020年3月と11月に、大規模なロックダウン(都市封鎖)があった。当初は「コロナはアジアではやっている病気」と対岸の火事のようにとらえていたが、20年3月ごろから国内でも感染者が急増し、多数の高齢者が亡くなった。普段はジョークばかりいっているジョンソン首相も感染。対策の徹底を訴えるなど深刻な事態となり、国民は「怖い病気だ」と認識した。 政府は以前から製薬会社や大学に投資しており、ワクチンの開発直後には十分な量が確保できた。12月初旬には教会や薬局などあらゆる施設で接種が始まり、運営を手伝うボランティアもすぐに集まった。政府が芸能人らを使って推奨したこともあって多くの人が接種し、感染の波は落ち着いていった。 《日本政府は「BA・5」の特性を踏まえ、第7波収束後に「2類」相当としているコロナの感染症法上の扱いを見直す方針を固めた》 複数回にわたるロックダウンは英国に大きな経済的ダメージをもたらした。日本人は慎重でまじめな国民性なので、日々の感染者数を見て「限りなくゼロにしなければ」と思うかもしれないが、そのために飲食店の時短営業や行動制限をした場合の経済への打撃も考慮すべきだ。また日本ではその日の感染者数が細かく報道されているが、(コロナに対しての)怖いイメージが増幅してパニックになる国民もいるのではないか。 英国では感染拡大期に首相と医療の専門家らが毎日会見し、感染状況のデータに基づいて国としての方向性を示した。日本政府も科学的データを根拠とした上で、適切な対策を取ることが大切なのではないか。(聞き手 小川原咲) こばやし・ぎんこ 英ロンドン在住のジャーナリスト。成城大文芸学部卒業後、米投資銀行勤務を経て、読売新聞の英字新聞記者に。2002年に渡英し、英国を中心とするメディアや政治、社会情勢について、雑誌などに記事を執筆している。 今回のテーマは「世界から考える共存」</p>