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ノア/ヴォクの「こってり顔」とステップワゴンの「すっきり顔」 これからのミニバンの顔はどちらに軍配が上がる?

 「こってり」と「すっきり」とかいうとラーメンの話題のようだが、今回はクルマのフロントマスクの話だ。そしてその中でも話題になっているのはミニバンのデザインだ。

 トヨタなどはもともと両方用意していたのだが、現行のノア/ヴォクシーから派手な「こってり」顔に絞り、全車3ナンバー登録となった。一方でホンダはステップワゴンで「すっきり」顔を主軸に据えてきた。

 今回は清水草一氏にミニバンのルックスの将来を占ってもらった。

文/清水草一、写真/ベストカー編集部

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■3割の「すっきり」派にかけたホンダ

ホンダ新型ステップワゴン(AIR)。そもそもノア/ヴォクシーに勝とうとは思っておらず、こってりを苦手とするユーザー向けに開発されている

 新型ステップワゴンと新型ノア/ヴォクシー、こってり顔とすっきり顔はどっちが勝つのか!? という記事が多くのサイトを賑わせているが、勝負は最初からついている。こってり顔の勝ちだ。

 そもそも新型ステップワゴンは、ノア/ヴォクシーに勝とうとは思っていない。勝てないまでも独自路線を際立たせ、もう一度存在感を確立するために、あえて超シンプルデザインを選択したのだ。

 ホンダの事前調査では、ミニバンユーザーはこってり顔支持が約7割、すっきり顔派は約3割という結果が出ていた。開発責任者の蟻坂氏は、「なにより私、好きじゃないんです、ああいうテイスト(こってり顔)が」と語っており、支持派が3割いれば将来性はあると、そこに賭けたのだ。

 が、受注台数を見ると、いまのところノア/ヴォクシーの圧勝だ。ノア/ヴォクは、受注開始から約2か月で7万台の注文を集めたが(ノア/ヴォクの比率はほぼ半々)、ステップワゴンは、受注開始から4か月後(6月)で約2万2000台にとどまった。

 ステップワゴンは受注開始から発表までの期間が長いので、厳密な比較はできないが、7:3ではなく、8:2に近い結果になっている。

 ステップワゴンに関しては、最もシンプルデザインの「エアー」が、装着できないオプション装備が多いという理由で販売不振なのも、多少響いているかもしれない。

 「本当はエアーが欲しかったのに、装備を考えるとスパーダにするしかない。ならもうちょっと待って、装備が充実したエアーが出るのを待とう」というユーザーがいる可能性もある。

 ただ、大勢に影響はないだろう。この勝負、現状ではこってり顔の完全勝利である。

 ところで、ノア/ヴォクやステップワゴンの新型が出る前、昨年のミニバン市場はどうだったのか、それを振り返ってみよう。

■続く「こってり」の台頭……「すっきり」の逆襲はあるのか?

トヨタ新型ノア。もはやノア/ヴォクには「すっきり」の選択肢が用意されていない。「こってり」のノアか「超こってり」のヴォクシーかのどちらかだ

●2021年のミニバン販売実績
1位 アルファード 95,049台
2位 ヴォクシー 70,085台
3位 フリード 69,577台
4位 セレナ 58,954台
5位 シエンタ 57,802台
6位 ノア 44,211台
7位 ステップワゴン 39,247台
8位 デリカD;5 14,790台
9位 ヴェルファイア 6,754台
10位 エルグランド 3,613台

 1位と2位を代表的な「こってり」が占めているが、3位のフリード、4位のセレナ、5位のシエンタは、どちらかというと「すっきり」なシンプル系。ノアとステップワゴンは、グリルのメッキ部が多く、ややこってりな中間系、そしてデリカD:5はこってり。

 つまり、昨年の勢力圏はこうなる。

こってり顔/4割
中間系/2割
すっきり顔/4割

 こうして見ると、ミニバン全体では、こってり顔は4割に過ぎない。「セレナハイウェイスターはこってりだろ!」という意見もあるでしょうが、それを加味しても半分程度だ。

 ただ傾向としては、大型ミニバンほどこってり顔の割合が高く、サイズが小さいとすっきり顔が主流になっている。最も大型のアルファードクラスは、そもそもこってり顔しか存在しない。大型ミニバンユーザーほど、いかつい顔を求めていることがわかる。

 軽ハイトワゴンでカスタム系が増加したのは、「カワイイ系だとナメられて怖い思いをする」という、女性ユーザーの意向が大きかったと言われるが、そのいっぽうで、登録車のミニバンでは、サイズが小さいほどすっきり顔になり、大きいほどこってり顔になっている。

 これはつまり、軽ユーザーは防衛策としてのこってり志向で、大型ミニバンユーザーは攻撃策としてのこってり志向である可能性がある。大型ミニバンユーザーほど、「オラオラ顔で周囲を威嚇したい」という密かな思いがあるのではないか。

 考えてみれば、周囲に怖がられるのは快感だ。私はやさ男だが、昔、撮影のために怖そうな服装をして街を歩いたところ、周囲の人が避けてくれるのを感じて、非常に気持ちがよかった。新型ヴォクシーの怪獣のような顔を見て、「これに乗って周囲に怪獣扱いされてみたい!」と思うのは、人間の本能の一部だろう。

清水氏からは不評なヴォクシーの顔。北欧家具や家電のように、ミニバンの「すっきり」への回帰はあるのか?

 その一方で、新型ステップワゴンのような、シンプルで美しい道具に囲まれた生活をしたいというのも、人間の本能の一部。IKEAや無印良品の家具のヒットを見れば、怪獣だけが勝ちつづけることはありえない。

 で、こってり顔対すっきり顔の対決は、今後どうなっていくのか?

 単なる推測だが、当面はこってり顔が勢力を増すのではないだろうか。

 新型ヴォクシーの顔は、こってりどころかホラーに近い。こってりのデザイン的な伸びしろは、まだまだある。あんな化け物のような顔のクルマが、受注開始から2か月で約35,000台もの受注を集めたのだ。世の中、「もっともっとこってりを!」と望んでいるのではないか?

 その頂点には、ミニバン販売台数でも頂点に立ったアルファードという「こってり顔のカリスマ」がいる。カリスマの存在は大きい。

 新型ステップワゴン・エアーのデザインは、私に言わせれば「美少女天使」だが、そこまで支持する声はまだ多くないし、そもそもエアーの受注比率が2割程度しかなく、カリスマにはなれそうにない。

 しかし、前述のように、家具の世界ではシンプル系が大勢力となっている。家電も同様。すっきり顔のシンプル系ミニバンが、いつ盛り返しても不思議はない。個人的には、その日が早く来ることに期待している。

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